VRでヒット「女子高生の家庭教師」体験ソフトで見えた新技術の方向性とは
VR(バーチャルリアリティ、仮想現実)を体験できる端末の本命として10月に発売された「プレイステーション(PS)VR」対応ソフトの中で、あるゲームのヒットが業界で話題になっている。
PSVRは、ゴーグル状の端末とヘッドホンを装着することで、月面や深海など、簡単には行くことができない異空間に入り込んだ体験ができるのが特徴だが、このゲームでは何と、プレーヤーは家庭教師となり、「女子高生の部屋」を訪れる。
開発者に誕生の経緯を聞き、このゲームが指し示すVRの可能性を探った。
このソフトは、バンダイナムコエンターテインメントの「サマーレッスン:宮本ひかりセブンデイズルーム」。
架空の高校生、ひかりに1週間、勉強を教えるという内容だ。
バンダイナムコは販売本数を明らかにしていないが、「売れ行きは好調で、大きな反響をいただいている」としている。
ゲームは基本的に、部屋の中で一対一で進められる。
最適な授業プランや指導方法を選ぶことで、ひかりの「根性」「頭の回転」「心の豊かさ」「見抜く力」「ひらめき」という5つのパラメーターをバランス良く向上させる。
雑談で選ぶ話題などもパラメーターの伸びに関係するという。
7日間の勉強が終わると、その成果に応じてエンディングが変わる。
最良のエンディングを見るのは難しく、何度も繰り返し、最適な指導法を見つける必要がある。
バンダイナムコの本社でゲームを体験させてもらったうえ、開発に携わった同社の玉置絢(じゅん)氏に話を聞いた。
もともとは、新しい技術を検証するための社内コンペに応募したのがきっかけだったという。
「いくつかアイデアがある中、『どうせ通らないだろう』と思って、キャラクターと間近で会話するものを考えた」。
通常、VRといえば、広大な空間を冒険するようなものを考えがちだが、「VRでは服の縫い目まで見えるリアルさがあり、人が近くにいる方がもっとすごい、と思った」と振り返る。
試作品での会話相手は、同社の格闘ゲーム「鉄拳」に登場する男の武闘家だった。
しかし、これで試してみると「怖すぎた」。
議論の末、会話相手はかわいい女子高生になったという。
この急激な方向転換ができるところが、老舗ゲーム会社の発想の豊かさだろうか。
記者もPSVRは何度か体験済みだ。
開発中のソニーのゲームでは、スキンヘッドの白人に密室で英語で問い詰められるという体験をして、リアルな恐怖を感じた。
今回の密室はそれとは真逆。
「勉強だけじゃ味気ないから、先生と話もしたいな」と言われ、照れてしまった。
不思議なのは、相手はあくまでCG(コンピューターグラフィックス)で描かれた女の子なのに、「そこに確かにいる」と感じることだ。
会話の選択肢はVR空間の中に浮かんでおり、視線を合わせて選び、ゲームを進める。
玉置氏によると、開発段階で選択肢を一般的なゲームのように前面に配置したところ、リアリティーが一気に失われた。
その反省で現在の形になったという。
存在を感じるのはやはり、視線が合うときだ。
「いったん目が合うと無視できなくなる。
人間扱いしないといけない、と思うようになる」(玉置氏)という狙いがある。
サマーレッスンの題名の通り、舞台は真夏。
これは、動いたときの衣服の表現が厚着では複雑になり、難しいことが大きい。
髪形はポニーテールだが、これも、表現のしやすさから決まったという。
PSVRでは、海底でサメに襲われたり、ゾンビに追いかけられたりするソフトも出ている。
異彩を放つサマーレッスンだが、ここに「コミュニケーション」というVRの一つの方向性がありそうだ。
このゲームでは、ひかりの問いかけに対して、プレーヤーは選択肢を選んで答える。
しかし、人工知能(AI)がさらに発達すれば、利用者が実際にしゃべっても会話が成り立つようになる。
さらに想像をめぐらすと、接客業などの仕事の訓練や、人と話すのが苦手な人がそれを“克服”するためにもVRを利用できそうだ。
課題は、遊んでいる所を見られるのがやや、恥ずかしいことか。
しかし、これを逆手に取り、利用者が動画サイトでゲーム内でのやり取りを実況中継したり、友人に遊ばせて反応を楽しんだりしていることも、ヒットの一因になっているとバンダイナムコはみている。
サマーレッスンはダウンロードで販売されており、価格は2980円。
遊ぶには、「PSVR」と、据え置き型ゲーム機「PS4」が必要になる。
(高橋寛次)