発火スマホの損失7千億円でサムスン自滅 それでも戦えない日本の電機業界
スマートフォンで世界トップシェアの韓国サムスン電子が8月に発売した「ギャラクシーノート7」で、バッテリー部分が過熱して発煙、発火するトラブルが次々と起きた。
9月2日、謝罪会見をし、一時販売を停止したが、バッテリー不良が原因で本体には問題はない、として9月中旬に販売を再開した。
しかしトラブルは続き、小手先の措置では対処できず、10月中旬に生産・販売の打ち切りに追い込まれた。
本体側に原因があったためだ。
結局、ノート7は250万台を販売しただけで、最大1900万台の販売をもくろんでいたサムスンは大きな打撃を受けた。
同社発表などによると、9月までに判明した販売中断、回収費用などの損失費用は3兆6000億ウォン、10月以降に見込まれる販売機会損失額が3兆5000億ウォンで、ノート7によりサムスンの受ける損害は合計7兆ウォン超、円換算で6700億円を超える規模へと膨らんだ。
このトラブルにより信頼が失われ、今後も機種交換時などの顧客流出は避けられず、損害はさらに拡大する可能性もある。
影響はシェアに現れている。
米IDC調べによると、サムスンの7〜9月期出荷台数は4〜6月より450万台減って7250万台となった。
世界シェアは22.4%から20.0%に後退した。
10〜12月期は一段と厳しい状況を迎える。
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世界を舞台にしたスマホの販売競争はまさに戦国時代。
7〜9月期の上位5社はサムスン、アップル、ファーウェイ(華為技術)、OPPO、vivo。
3位以下の3社はいずれも中国メーカーで、OPPOとvivoは昨年までのレノボ、シャオミ(小米)を追い落とした新顔企業だ。
月に1000万台近いスマホを作るメーカーがあっという間に圏外に追い落とされるのだから、消費者の信頼を損ねたサムスンが首位を堅持できる保証はない。
日本の電機メーカーにとっては、最大手の失態は、まさに神風級の千載一遇のチャンスである。
ところが残念なことに、この機に乗じようと動いた日本メーカーの話は海外からも、日本国内からも一向に聞こえてこない。
「スマホは量産競争する製品からは外した」「生産ラインの確保や予算の都合があり、急な大量生産・販売はできない」など、理由や事情はあろう。
ノート7の販売台数をそっくり奪うには、少なくとも月100万台規模の供給が必要だが、急にそんなにたくさんの製品を作れる生産拠点もなければ、部品の手当ても難しいだろう。
それでも、巻き返しののろしを上げるとか、挑戦状代わりの新製品発表を行うくらいは、あってもよかったのではないかと思う。
その意気込みすら感じられなかったのは残念だ。
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この例に限らず、日本の電機メーカーからは最近、元気さを感じない。
「事業統合」とか「選択と集中」という名の敗戦処理ばかりが目立つ。
そのせいか、このところ大ヒット商品を見かけなくなった。
ソニーの「ウォークマン」以降、任天堂のファミコンやDSなどのゲーム機、NECのパソコン、各社の折り畳み式従来型携帯電話(ガラケー)。
NECや東芝が世界市場をリードした半導体メモリー「DRAM」や、シャープが一時独走した液晶パネルも数えていいだろう。
まだまだある。
これらの製品のうち、ゲーム機を除けば、ほとんどが世代交代で市場が消滅したり、他社にシェアを奪われた。
大ヒット商品がなくなったことは電機メーカー各社も十分承知しており、ソニーなどは新規事業開発の専門部署を作って努力しているが、これからだ。
歴史に残る大ヒット商品は、メーカーの開発、販売努力だけではなく、それを超えた特別な力も必要なのだろう。
もちろん、そうした条件がそろうには、メーカーが経営面まで含めて前向きな姿勢を持ち続けていることが必要なのは言うまでもない。
日本企業単独の産物ではないが、「ポケモンGO」の神がかり的な世界での大流行を見ると、可能性はまだまだあるはずだ。
(産経新聞編集委員・高原秀己)