体感操作と3D視点による、新たな対戦格闘のカタチ。『ARMS』開発者インタビュー
文・取材:編集部 世界三大三代川
●Nintendo Switchの新規IPが目指すものは?
2017年1月13日に開催された“Nintendo Switchプレゼンテーション2017”で発表され、直後の体験会から多くの体験台を出展していた『ARMS』。
Joy-Conを駆使する体感ゲームの側面がありながら、対戦格闘ゲームらしい奥深い駆け引きを併せ持つタイトルだ。
このNintendo Switchの完全新作が持つ魅力や開発の経緯などを、プロデューサーの矢吹光佑氏にうかがった。
※本インタビューは、2017年1月14日に行われたものです。
■プロフィール
●『ARMS』
プロデューサー
矢吹光佑氏
(文中は矢吹)
『マリオカート7』、『マリオカート8』でディレクターを担当。
2017年4月28日に発売予定のNintendo Switch用ソフト『マリオカート8 デラックス』でもプロデューサーを担当している。
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●奥行きある視点の新たな対戦格闘
――プレゼンテーションで発表となった『ARMS』ですが、どういうきっかけで開発をされたのでしょうか?
矢吹任天堂では、つねにいろいろなソフトの試作をしていまして、私たちも新たなゲームにつながるようなアイデアを検証していました。
そういう試作がたくさんある中で、Nintendo Switchを発売するにあたって相性がよさそうなものを選ぶことになり、選んだ試作をベースに『ARMS』を作ることになりました。
――そういった試作では、遊びの原点となるアイデアを作っていると思うのですが、『ARMS』の原点となったものは、どういったものだったのでしょう?腕が伸びるボクシングゲームかと思っていたのですが……。
矢吹いえ、最初はボクシングとは言っていませんでした。
これまでの『ストリートファイター』シリーズにしても『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズにしても、『鉄拳』シリーズなどの“3D格闘”と呼ばれるものにしても、格闘ゲームは横から見たものが多いですよね。
対戦格闘ゲームが生まれて以来、横の視点が主流で続いてきたわけですが、ちょっと違うスタイルもできるんじゃないかと思っていたんです。
ただ、背後からの視点にすると、横に比べて奥行きの距離感がつかみづらいので、微妙な間合いのせめぎ合いがある格闘ゲームには合わないと、ずっと思い込んでいたんです。
でも、そこに腕が伸びるという要素を加えると、当たるまでの時間はちょっとかかりますが、ほぼ確実に攻撃が届くようになります。
攻撃が当たるか当たらないかという駆け引きだけではなく、タイミングや時間差などを駆使した、攻撃が当たるまでの時間の駆け引きをゲーム性に落とし込めるのでは……と考えて。
それで、背後からのカメラにしつつ、腕が伸びるという要素を使った新しい格闘スタイルを追求する中で、『ARMS』が生まれました。
――なるほど。
体験台でプレイをさせていただきましたが、通常のストレートは攻撃が早いけど避けられやすい、カーブをかけると相手に届くまで時間がかかるけど、横移動している相手にも当てやすいという特徴がありますね。
矢吹そうですね。
そもそもジャイロ機能を使ってうまく当てるというアクションが前提にありますが、攻撃する側はタイミングに加えてカーブをかけて当てる気持ちよさなどがあり、攻撃される側もうまくかいくぐれるかという、避ける楽しみがあったりと、奥行きのある3次元ならではの楽しさが出てきます。
――遊んでいると、シューティングの要素も感じられるように思います。
矢吹パンチではありますが、ミサイルのように、隙を見て遠くからうまく狙い撃つという側面があります。
――正直に言いますと、最初にこのゲームを見たときは、『Wii Sports』にあったボクシングのような、とにかく振りまくってパンチを出すというタイプの体感ゲームかと思っていました。
ですが、そうやって遊ぶこともできるものの、ダッシュ移動などを覚えて上達すれば、相手の攻撃を完全に避けられますし、相手の動きを先読みしてパンチを当てたりもできる。
ある程度のレベルに達したら、そういった駆け引きが楽しめるようになるわけですね。
矢吹過去にあった『Wii Sports』をもう一度作ってもしょうがないですし、『マリオカート』を作っていた身からすると、ちょっと非現実的な動きやギミックを取り入れて、駆け引きを熱くしようというアイデアは、どんな物を作るときにも考えますね。
――なるほど。
そういったギミックの発想などで、いろいろな種類のアームが生まれたのでしょうか。
矢吹初めに試作を作ったときは、ベースとなるストレートのパンチのようなものから始めたのですが、プログラムを少しイジれば弧を描くものだったり、パンチが何個も飛ぶようなものも作れるので、わりとすぐにポンポンと新しい種類のアームが生まれましたね。
――今回の体験台ですと、5人のキャラクターがいて、ひとりにつき3種類のアームがありますよね。
キャラクターは、製品版ではもっと増えるのでしょうか?
矢吹キャラクターもそうですし、アームもいろいろあります。
今回体験台でプレイできたのは、あくまでゲームの一部ですので、発売に向けて、徐々に紹介していきたいと思います。
――なるほど。
今回の5人をタイプに分けると、いわゆるバランスタイプとパワータイプ、そしてスピードタイプになりますか?
矢吹そうですね。
基本のアクションが固有のものになりますが、移動のスピードだったり、どのくらいダメージを受けるかというステータスも、それぞれ異なります。
もちろん見た目で選んでいただいてもいいんですが、実際に触ってみて、左右の動きやアクションなどを見てみると、「やっぱりこっちにしよう」と思えるので、そこで初めて自分の持ちキャラが決まると思います。
――何人かプレイしてみたところ、忍者のような“ニンジャラ”がやりやすく強かったように感じました。
矢吹ジャンプダッシュでスッと消えたりして、かっこいいですよね。
――移動も速くて動きやすかったです。
ですが、きっと相性があるんですよね?
矢吹もちろん、キャラクターの相性もありますが、どんなアームを使うかによっても相性があります。
――キャラクター性能の有利不利を、アームの選択で覆したり、バランスをよくしたりできる、と。
矢吹たとえば、パワータイプのマスターマミーは、ほとんどの相手の攻撃を弾き飛ばす重い攻撃ができますが、そういう攻撃にはブーメランなどの回り込むアームを選ぶと、弾かれずに回り込んで当てることができます。
――なるほど。
個人的には、両手で攻撃を出すのではなく、なるべく片方を残しておいたほうが戦略的に有利かなと思ったんですが……。
矢吹いろいろな人にこのゲームをプレイしてもらって、しばらく遊んでいただくと「あまりパンチを出しちゃいけないや」と、後出しに回ることが多いんですよね。
でも、それを超えると、どんどん攻撃をして相手を動かそうとか、隅に追いやろうとか、戦術が高度になっていくので、プレイヤーの腕前によって戦いかたは大きく変わります。
――プレゼンテーションで、上級者どうしの対戦動画を流していましたが、ある程度プレイを重ねていたほうが、「あの場面でこんなことをしているのか!」という駆け引きが見えてくるわけですね。
矢吹じっくり見ていただければ、初心者の方でもある程度の駆け引きは見えると思いますが、わずかな隙に乗じてパンチを2発出していて、ここでは1発で抑えているとか、上級者ほど、各行動の意味が見えると思います。
試合の駆け引きやテクニックが徐々にわかってくるというのは、スポーツやいままでの格闘ゲームと似ているところがあると思いますね。
●ユーザーといっしょに育てていくタイトルに
――お話をうかがっていると、すごく独特な立ち位置のゲームだなと感じます。
いわゆる『Wii Sports』のような体感系のゲームにも思えるし、やり込めば『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズのような、うまい人がプレイすると次元が違う動きを見せるゲームにもなりえる。
その両方の立ち位置を兼ねたゲームなのかなと。
矢吹そのあいだで中途半端にはならないように、広いけど奥深いというのをいつも目指しています。
――ひとり用のほかに、オンライン対戦があることは紹介されていますが、ほかにもモードがあるのでしょうか?
矢吹いろいろありますが、まだお楽しみに……ということで(笑)。
オンラインの対戦モードも、1対1のバトルだけではストイックになりすぎてしまいますから、ほかのモードも用意しています。
でも、最終的には1対1のバトルに戻ってくるような、1対1という大きな柱があって、別のモードがあるというイメージですね。
――いわゆるパーティーゲームのようなものではなく、やり込み要素もあるということでしょうか?
矢吹いろいろなモードをしていると、1対1の駆け引きも自然とうまくなっていくような、そんなゲームを目指しています。
――キャラクターのデザインもおもしろいですよね。
腕の部分がバネだったり、リボンだったり、包帯だったり。
矢吹今回の5人は螺旋をモチーフにした直球に近いキャラクターですね。
ひとり、ロボットに乗った女性がいますが(笑)。
こういう変化球のキャラクターもまだまだ出てきます。
ほかにもいろいろなキャラクターがいて、それぞれ違う特徴をもっています。
――時代的には、未来の世界のイメージがありますが?
矢吹よく言われますが、未来ってほどでもないんです。
昔のコミックのような雰囲気もありますし、いままでどんなものを見てきたか、世代によって受け取りかたが違うのかなと思います。
――ニンジャラなどのデザインを見ると、外国から見た忍者のようなイメージに見えますが、開発しているのは日本ですよね?
矢吹はい。
京都で作っています(笑)。
アメリカを意識したということではなく、どこか見たことがあるイメージがあるけれど、実際はどこにもないというものを目指しています。
――ステージはどのようなものがあるのでしょうか?
矢吹柱がいくつもあって、隠れながらブーメランで狙うようなステージや、大きな階段のあるステージなどもあります。
立体的な地形にいろいろなギミックが配置できるので、ステージの設計も少しずつ違うようにしています。
ステージによってどの武器がいいかというのも、プレイヤーが考えるポイントになりますね。
――ほかのゲームを例にして、紹介するといったことが難しいゲームですね。
矢吹『バーチャロン』や『ガンダムVS』シリーズなどが、こういう視点で遊ぶゲームとしてありますし、それらを連想する方はいらっしゃいますね。
私たちもそういったゲームをたくさんプレイしてきていますので、これまでにプレイしてきたものの影響が出ているところはあるかもしれません。
一方、Nintendo SwitchにはふたつのJoy-Conが標準で付いてきますので、Joy-Con と今回のゲームの相性が良くなるように意識しています。
――なるほど。
数あるコントローラの持ちかたから、この“いいね持ち”を選んだ理由は?
矢吹Nintendo Switchが開発中の段階から「Joy-Conをどう持って遊ぼうかな」と考えていて、ふつうに持つこともできるんですが、ちょっと傾けて持つとサイズもぴったりで手にしっくり収まるんです。
ですので、もし振って遊ぶゲームを作るとしたら、この持ちかただろうなというイメージがありました。
そこに、『ARMS』のベースとなる試作があったので、この持ちかたを組み合わせたんです。
――キャラクターの移動はジャイロの傾きですし、この持ちかたで本格的な操作をするのはユニークです。
矢吹やはり、持ちやすさというのはすごく大事だと思っていて。
Wiiリモコンもよかったんですが、手に収まるというよりは、何かを持っている印象でしたよね。
Joy-Conは、Wiiリモコンよりも小さく薄くなったので、握り込めるという点がいいなと思います。
あと、センサーの精度が上がって、軽く振ってもプレイできるので、そこまで疲れる心配もないと思います。
なかには体感操作が苦手な方もいると思いますので、ボタンでも遊べるようにしました。
Joy-Conのボタンでも、Proコントローラーでも遊べます。
また、Joy-Conを1本ずつ、おすそ分けして遊ぶことも可能です。
――片方のJoy-Conのボタン操作でも、問題なくプレイできるのでしょうか?
矢吹はい。
ただ、少しだけできることが減るかもしれません。
ですから、本気でやるときはJoy-Conをふたつ握って……という、そんな位置づけで作っています。
――今回体験会でプレイしているお客さんの反応はいかがでしたか?
矢吹すぐに操作を理解していただけているなと思いました。
ただ、どうしてもWiiのイメージがあるのか、大振りをする方が多かったですね。
もちろんそれでも楽しめるようにはしていますが、その段階を超えると、落ち着いてプレイして相手を狙うというのができるようになると思いますので、皆さんがそういう域に達していただくために、我々もいろいろと伝える努力をしなくてはいけないなと思っています。
――確かに、私も言いましたが、表面だけを見ると、『Wii Sports』の進化版のように感じる人が多いかもしれません。
矢吹その先に、つぎの領域へ進むための階段があります。
その階段を上って、皆さんに上達してほしいですね。
――では、開発スタッフの上手な方の対戦を見ると、スポーツの世界戦のような熱い駆け引きが生まれているんですね。
矢吹今回の体験台バージョンを使って、チーム内でトーナメント戦をやったんです。
最初の1回戦は、まわりも「何かやっているな」くらいの反応だったんですが、準決勝や決勝までいくと、どんどんみんなが集まってきて大騒ぎになっていました(笑)。
――ああ、それは盛り上がりますよね。
発売後に、うまいユーザーを集めた大会などを開いても盛り上がりそうですね。
矢吹そういう盛り上がりにつながっていけるといいなと思っています。
――発売は春ということですが、それに向けて、今後新情報を出していくわけですね。
矢吹そうですね。
春と言っても、いつからいつまでが春なのかというのもありますが……。
今後、新情報を出していきますので、ぜひ楽しみにしてください。
――では最後に、本作を楽しみにしている読者にメッセージをお願いします。
矢吹『ARMS』は新規タイトルですので、イチからのスタートです。
体感操作の楽しさと、しっかりと駆け引きやテクニックのあるゲームの両立を目指しています。
皆さんからいろいろな意見をいただきつつ、お客様といっしょに育てていく部分もあるかと思いますので、楽しみに待っていただければと思います。
――ありがとうございました!
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まだまだゲームの基本情報が発表されただけで、いろいろと謎の多い『ARMS』。
矢吹氏のお話を聞く限り、知れば知るほど奥深いものになりそうだ。
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ぜひチェックしていただきたい。
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