SIE吉田氏、レベルファイブ日野氏、カドカワ浜村ファミ通グループ代表が業界の未来を徹底討論。PS VRの極秘映像も初公開!

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●未来を見据える、トークショーの後半パートをリポート
2017年3月11日に福岡で開催された、第10回福岡ゲームコンテスト「GFF AWARD 2017」。
同イベントの会場にて、特別ゲストによるスペシャルトークショーが開催された。

登壇したのは、GFFから、レベルファイブ 代表取締役社長/CEO日野晃博氏。
そして特別ゲストとして、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデント 吉田修平氏とカドカワ株式会社取締役 浜村弘一ファミ通グループ代表の3人。

このトークショーは、ゲーム業界の10年を振り返る前半パートと、これからの10年を見据える後半パートの2部構成。
本記事では、これからの10年に大きな影響を与える、「プレイステーション VR」(PS VR)や仮想現実への取り組みかたについての話が展開した後半パートを、対談形式でお届けする。
その中では本邦初公開となる、PS VRの開発中の貴重な秘蔵映像や、レベルファイブのVRへの取り組みまで、驚くべき話題が満載の内容に!
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●PS VRは初代プレイステーションに似ている?
浜村今回は“ゲーム業界これまでの10年これからの10年”というテーマで、トークを進めていますが、やはりこれからの10年という、未来の話をしたいですよね。
では、これからゲームの未来を大きく変えるものは何かといいますと、ひとつ大きなものは“VR”、“AR”、そして“MR”というキーワードではないか、と言う気がしています。
ということで、まずはPS VRでVR元年のムーブメントを起こした吉田さんに、VRのお話を伺いたいです。

吉田VRの仕事をしていると……とにかく楽しいんですよ。

浜村楽しいと。

吉田ええ。
PS VRを発売したタイミングで、ちょうどVR元年に立ち会えたことも、ものすごく楽しくて幸せでした。
思い起こせば、20年以上前に久夛良木(健)さんといっしょに、プレイステーションを立ち上げたときの感覚と、すごく似ているんですよ。

浜村プレイステーションの立ち上げ時期と似た感覚ですか?それはすごい。

吉田ええ。
PS VRを開発していたときも、世間からはVRなんて普及しない、と言われていた頃でした。
プレイステーションを開発し始めたときも、3Dポリゴンのリアルタイムグラフィックスが初めて家庭用ゲーム機で使えるようになる!と言ったところで、「どうせレースゲームやシューティングゲームにしか向かないだろう」、と言われていたんですよ。
ですが、ふたを開けたら、びっくりするような3Dポリゴンのゲームが出てきたんです。
当時主流だった、大手家庭用ゲーム機のソフトメーカーさんのところにも、足しげく通って、3Dポリゴンで表現するゲームの魅力を説明しつづけましたよ。

日野いまでは、3Dポリゴンのゲームは主流になりましたからね。

吉田20年経ったいまは、3Dポリゴンで『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』などの、驚くほどハイクオリティな表現をするゲームが作られるようになりましたから。

浜村確かに、そうですね。
しかしPS VRの開発でも、新しい技術で新しいゲームを作ろうとしていた感覚が、3Dポリゴンに挑んだ20年前のプレイステーション立ち上げ時と似ているのですか。

吉田そうなんです。
業界でVRのゲームを作ったら絶対におもしろいと考えて夢見ていたクリエイターさんたちが、いよいよVRの技術に手が届くようになり、「やっとできるんだ」という思いで規模は小さいながらも、自然と集まってきたんですよ。

浜村VRの集まりがあった?
吉田ええ。
そこには、いろいろな業界の人たちが集まっていたのですが、それこそ『Rez』の水口哲也さんを始めとするような、本当にVRが好きで好きでたまらなくてやっているクリエイターたちです。
そういう人たちと、コツコツと長らくPS VRの開発を続けて、やっと発売できたタイミングでいっしょに“VR元年”と呼ばれる状況を迎えられたというのは、本当に楽しかったんです。

●PS VRの戦略は……?
浜村しかし、このタイミングで大ヒットしたPS VRをリリースする戦略は、どのように練り上げていったのですか?
日野それは確かに気になりますよね。

吉田きっと、そうですよね(笑)。
新しい技術であるVRに挑むことに対して、何か勝算というか、戦略が前提にあって動いてきた、と思われるのは当然です。
ですが……じつはそんなことはなくて、開発の主要スタッフは皆、好きでやっていたんです。
仕事が終わった後の時間を利用して、勝手に技術研究をしていたんですね。

浜村え!?仕事終わりに手弁当で、ですか?
吉田はい(笑)。
じつは私もいっしょだったのですが、2010年の秋に、PS3で『GOD OF WAR』を作っていたチームメンバーたちと、仕事終わりに趣味で作っていたプロジェクトだったんです。
ちょうど当時、体感型コントローラーの「プレイステーション ムーブ モーションコントローラー」(PS Move)をリリースした時期だったのですが、このデバイスは、コントローラーの先端についている光る球の部分との距離を、「PlayStation Eye」(PS Eye)というカメラデバイスで読み取ることで、3D空間のトラッキングができるというものでした。

浜村ええ。
いまも、PS VR用のコントローラーとして活躍していますよね。

吉田そのPS Moveをですね……HMD(ヘッドマウントディスプレイ)に接続することで、簡易的なバーチャルリアリティーを実現できるのではないか、と勝手に研究していたんです。
その自作PS VR試作機とでもいうものを、皆、仕事が終わったあとにコントローラのコードを引き直して、PS3につないであれこれ試行錯誤していたんですね。
ここに、ちょっとその当時の写真を持ってきたのですが、これ、両方とも私です(笑)。

浜村これはすごい!
吉田そして翌年の2012年には、本当に試作機を作ってしまいました。

浜村これもすばらしい資料です……しかし、手作り感がすごいですね。

吉田そうでしょう(笑)。
この頃は、VR好きはもちろんですが、いろいろなスタジオからハード制作が好きな人たちも、次第に集まってくるようになりました。
そして、これはPS4の時代になったら、おもしろいものが出来るのではないか?という実感が生まれたことで、正式にPS VRのプロジェクトとして立ち上げたのです。
ここで、ちょっと最初にお見せした2010年秋に研究していた、PS3『GOD OF WAR』のVR版の映像も持ってきましたので、見てみましょう。

日野貴重な映像ですね、これは。

吉田HMDにつけたPS Moveでトラッキングをすることで、プレイヤーが主人公の視点で世界を見ることを実現しています。
主観視点でステージを進んでいくんですね。
当時は、まだカメラワークなどに難があったのですが、それでもVRで『GOD OF WAR』を遊んだときに、もっともびっくりしたことは“下を見ると私の体がクレイトスになっていたことだったんですよ!
日野ああ、なるほど!
吉田当時、これはすごいと純粋に驚きました。
だって、自分の体が筋肉隆々になっているんですから(笑)。

日野その感覚は、VR独特のものですよね。

吉田これまで体験したことのない驚きでした。
そして、もうひとつPS Moveに対応したダウンロードソフトとしてリリースした、『DATURA』という主観視点のアドベンチャーゲームがあったのですが、これも海外でPS MoveにHMDを付けたVRバージョンをイベント用に作ってプレイしていただきました。
この時点でのPS VR試作機は、まだ映画を見るためのHMDを改造したものだったために、前方のスクリーンに映像を投影する方式だったんです。
でも、この仕組みにレンズを搭載することで、PS4の時代になれば、本格的なVR空間を表現できるゲームが作れるだろうと実感できたんです。

日野PS VRの本体が淡く光るのは、つまり、この光でトラッキングをしているからですよね。

吉田そうなんです。
PS VRにはLEDが9個ついていますが、その位置情報をカメラで読み取っています。
これは、ただのデザインじゃないんです。

浜村純粋に近未来的でかっこいいデザインだな、と思っているプレイヤーは多いと思いますよ(笑)。

吉田デザイナーは、トラッキング用のLEDをつけなくてはいけないという制約があって、とてもたいへんだったと思います(笑)。
ちなみに、いまだから明かしてしまいますと、PS4とPS VRは、並行して開発していました。
だから、PS4のワイヤレスコントローラー(DUALSHOCK 4)にもトラッキング用のライトバーを実装したんです。

浜村つまり、VR空間にコントローラーを表示させたかったからですね。

吉田そうなんです。
でも、PS4の発表時には、まだライトバーが付く理由を説明はできないじゃないですか。

浜村それはそうですよ、だってPS VRの発表をしていないんですから(笑)。
なるほどなあ。

吉田そうですよね。
PS4の発表当時は、一部のユーザーさんたちに「どうしてコントローラーにライトがついているのか?暗い部屋だとまぶしいし、画面に反射する」ということで、よく怒られました。
けれど、「すみません」とか言いながらも……じつは、隠された理由があったのです。

●『スナックワールド』VR映像が制作中!?
浜村しかし、PS VRがこのように、まるでインディー的な試行錯誤から生まれてきていた、というのは以外でした。

吉田インディー的なと言えば、バンダイナムコエンターテインメントで『サマーレッスン』を開発された原田勝弘さんや、『Rez Infinite』を生んだ水口哲也さん、それから、カプコンの『バイオハザード7』の開発スタッフの皆さんも、VRの開発は会社からのOKがなかなか出なかったと伺いました。

浜村ヒットする保証も目算もつかない状況ですからね。

日野そうですよね。

吉田そうなんですよ。
先ほども話しましたが、3Dポリゴンの魅力を説いて回ったプレイステーション時代を思い出します。
しかし、バンナムの原田さんは、「VRよりも格闘ゲーム制作を薦められたので、しかたなく『鉄拳』チームの予算から、VR開発の費用を割いた」って話されていたのでびっくりしましたよ(笑)。

浜村そこまでしてVRを作りたい気持ちがあったんですから、驚きますよ。
それに、カプコンの『バイオハザード7 レジデント イービル』のチームも、ゲーム全体をVRに対応させてしまいましたからね。

日野『バイオハザード7』は、僕もVRで遊び込んだのですが、あのVR空間では、動かないでいることすら、怖いんですよね。
敵に襲われて、思わず体がのけぞりましたよ。
本当に(笑)。

浜村わかります(笑)。
ゲームの世界への没入感、ケタ違いですよね。

日野ええ。
なので僕らも、じつはVR作品を制作しているんです。

吉田ええ!そうなんですか。
何を作られているのですか?
日野まだ実験段階ではあるのですが、『スナックワールド』という、もうすぐアニメも始まるフルCGのクロスメディアプロジェクト作品のVR映像を制作しているんです。
主人公のチャップが、剣と盾でメドゥーサというボスを倒すシーンがあるのですが、その場面自体を、VRにしています。
ほかにも、いろいろな場面が体験できるものを目指しているのですが、やはり、先ほどの話のように、自分がゲームの世界の中に没入して、キャラクターたちと接触する、といった体験は、ものすごく感動的なんですよね。

吉田ええ、わかります。
VRでキャラクターと触れ合うときって、目線などもうれしいですよね。
自分を見てくれている感覚と言うか……。

日野そうなんですよ。
実際にVRの作品を制作してみたら、まさにその目線の高さがかなり大事だと思いました。
目の前のキャラクターが、自分よりも背が高いのか、それとも低いのか、といった点もVR空間だとすごく気になるんですよね。
なので、絶妙な背の高さを設定しなきゃいけなかったり……新しいモノづくりですね。
ほかにも、やはり武器などをVR空間で手にすると、「これが剣か……!」みたいに、つい眺めまわしてしまいませんか(笑)。
あの感覚が、すごく魅力的ですよ。

浜村その感じ、とてもよくわかります。

吉田ええ。
そういえば、先週、東京のソラマチという商業施設で、“ドラえもんVR”というイベントの発表があって、見に行きました。
そこで実際に、VRでドラえもんに触れ合う体験をしたのですが……ヘンな言い方ですが「会える」んですよ、ドラえもんに。
そして、「ドラえもん、こんなに大きいんだ!と思いますよ(笑)。

日野ドラえもんの身長などのスペックについて、数字ではわかっていても、顔が体の半分以上ありますからね。

吉田そうそう、顔があまりにも大きいんですよ。
それがね、怖いんです!
浜村まさかの吉田さんが、まるでVRを体験したことがない人の感想のようなことを(笑)。

一同(笑)
吉田でもね、VRってやはり夢があるというか、未来を感じる技術ですよ。
私は特にドラえもんの熱烈なファンというわけではなかったのですが、VR空間で、目の前の机の引き出しからドラえもんが出てきたときには、何か感動のようなものがありましたよ。

浜村私も、ゲームの歴史の黎明期、ファミコン初期の頃ですね。
当時は新しいゲームが出るたびに感動していたのを思い出しますよ。
いまは、それに似た感動をVRに感じるんです。

●PS4 Proの成功
日野感動したと言えば、ちょっと話はそれますが、プレイステーション4 Pro(PS4Pro)で遊んだ際の映像の素晴らしさですね。
僕は機器にこだわる性格なのですが、今回……徹底的に映像について実験をしたんです。

吉田実験というと?
日野PCのハイスペックな映像と、PS4 Proで出力される映像を徹底比較したのです。
PCは、タイタンという最高性能のグラフィックボードを4枚挿したもので、現在最高の映像を表現できるものです。
このPCで『バイオハザード7』を出力して、PS4 Proと比較したんですけれど、はっきり言ってしまうと、PS4 Proのほうが、僕はいいと思いました。
いろいろと理由はあるのですが、フレームレートや発色、チャンネルなどを交互に切り替えながら比較検討した結果、総合的にはPS4 Proにするべきだと、僕は結論しました。

吉田それは、ありがとうございます(笑)。
でも、日野さんがお持ちのPCが、すごい性能だというウワサは聞いていますよ。

日野そうですね。
PC好きとして一応フォローしておきますと、一般的なゲーム映像の数倍の映像出力性能を持っています(笑)。
僕の趣味のひとつとして、究極のゲーム映像を楽しむこと、というのが目標としてあるんですよ。
4Kのモニターに繋いで、4枚のグラフィックボードの搭載されたPCで海外のAAAタイトルをプレイすると、その映像美には感動するほどです。
しかし、PS4 Proのチューニングレベルは、そんな最高峰のハードスペックについていっている。
そうしたハードのコンセプトは、本当にすごいなと思います。
フルに4Kのレンタリングよりも、PS4 Proの中間色を引き延ばしたかのような映像処理が、むしろ美しく見えるようなところもあって……その辺りの仕込みがすばらしい。

吉田そうした映像表現を突き詰めていったのは、長年プレイステーションのハード設計に携わってきた、マーク・サーニーの手腕ですね。
いやあ、わかっていただけていて、うれしいなあ。

浜村PS4 Pro、すばらしいハードですよね。
でも、いまは品薄で買えないですよ。

吉田すいません。
PS4 Proは、プラットフォーム展開の途中で、あえてハイエンドバージョンを投入するという、家庭用ゲーム機において初めての試みでした。
我々にとっても、非常にチャレンジングで、どう魅力を説明していったらいいのだろうかというのは、すごく悩んだところだったのです。
ただ、我々としても「過去に例がないからやらない」というのは、理由と筋合いがつかない、ということでリリースを決断しました。
ふたを開けたら、想像以上の評判をいただけまして。

浜村マーケティング的な見方でいうと、発売日にPS4を買われた方々の買い替え需要を見越していた感じですよね?
吉田ええ。
でも、実際は、初めてPS4を買われるお客様が、「そろそろ買おうかな」と考える際の選択肢となったのです。
奇しくも、今年はXboxからは、Scorpioという似たコンセプトのハードがリリースされると聞いています。

浜村これ、話し合われたりしたわけではないですよね(笑)。

吉田いえいえ!もちろん、話し合いなどはありません(笑)。
でも、マイクロソフトさんも、考え抜いた結果、同じような結論に至ったのではないかと……ある意味で、ちょっと感動しましたね。
我々がPS4 Proを発表する前に、Scorpioの発表が先にあったので注目していたら、同じ発想だ!と。

日野PCゲームの世界では、同一プラットフォームの性能をアップグレードしていくという感覚は、当たり前のことじゃないですか。

浜村そうですね。

吉田過去の歴史を俯瞰すると、家庭用ゲームに次世代機が登場するたびに、PCのゲームファンが流入してきていました。
でも時代とともにPCの性能がどんどん上がっていくので、そのうち、PC好きなゲーマーさんは、またPCに戻ってしまうことが多いです。
そうした流れを、家庭用ゲーム機も途中にPS4 Proのような展開を挟むことで、ゲームファンに「まだ家庭用ゲーム機でもいいのかな?」と思っていただきたいと考えています。

●Nintendo Switchを持ち歩くふたり
浜村家庭用ゲーム機の最新ハードには、発売されたばかりのNintendo Switchがありますよね。
わたし、じつは驚いたんですけれど……。
おふたりとも、いまも楽屋に持ってきてましたよね、Nintendo Switchを早くも。

吉田はい、持ち歩いてますから。
そういうコンセプトの製品ですよね(笑)。
それに、GFF AWARD 2017が、発売後の初めての出張だったので、仕方ないですよ。

日野僕も、飛行機で『ゼルダの伝説ブレス オブ ザ ワイルド』を遊ばなくてはいけませんでしたから、それは持ち歩きますよ。

浜村いや、じっさいにおふたりが持ち歩いているのを見て、ちょっと驚きました(笑)。

日野でも、あらためて完成したハードを眺めると、やはりこうして仕上げてくる任天堂さんは、すごいなと思いましたね。
実際に、飛行機の中でも快適に遊べるんですよ。
スマホのゲームは、通信を多用するので、飛行機の中では遊べなくなるんですよね。
でも、Nintendo Switchは、機内モードにしたうえで、携帯モードで遊べば通信しないですむので、じっくり『ゼルダ』が遊べてしまう。

吉田私も、やはりゲームハードを作る会社にいる身ですので、感心しましたよ。
世の中の進歩というものは、基本的には同じ技術の進化をなぞっていくものです。
そうなると、その同じ技術の中で、「どれをチョイスして、どのように掲示して商品にするのか」という点が重要になります。
ハード制作は、ある種のプロデュース作業に似たものがあります。

浜村なるほど。
そうですね。

吉田コンセプトやユーザー数、価格。
どれをチョイスしてまとめられるかと考えて設計していくことは、とてもおもしろいんです。
Nintendo Switchを見て思ったのは、ゲーム&ウオッチから始まり、ニンテンドーDSから続く2画面のゲーム機ではない、普通1画面のアプローチに戻られたことが非常に興味深いと感じました。
任天堂さんも、それこそファミコン以降のハードやゲームボーイの時代は1画面でしたよね。
そのほうがゲームの移植もしやすいと思いますから。

日野そうですね。
そして、持ち出すというコンセプトもおもしろい試みだと思います。
また、例によっていろいろと実験をしてみたのですが。

浜村こちらも実験していたのですか。

日野ええ(笑)。
Nintendo Switchは、本体からドックに挿すと、すぐに画面が切り替わりますよね。
これがほんとうにプレイ中でも、同じ状態を保てるのかどうかが気になったんです。
なので、『ゼルダ』で馬に乗って疾走した状態から、ドックに挿してみました。

浜村わざわざ馬に乗って、そんなことを(笑)。

日野そうしたら、ちゃんと馬で疾駆する状態を維持したまま、リアルタイムでテレビのモニターに切り替わったんです。
しかも、これがかなり快適に行えるんですよ。
やはり、こういう試みに挑むというのは、新しいなと思いましたね。
タブレットで遊んで、パッと置いたらテレビで遊べるという。

吉田そうですね。
それと、インディーゲームにもとても注力されている点も気になりました。
私もインディーゲームが大好きなので、力を入れてきたのですが、今度はNintendo Switchでも、インディーゲームに注力されるとのことなので、業界を通じて、インディーゲームのディテールが楽しめるじゃないですか。

日野そうしたゲームを、気軽に遊べる遊び方へのアプローチには、感心しました。

●スナックワールドが目指す“リアルゾーン”構想
浜村いまは、ゲームの遊び方自体が変化している感じがします。
ところで、日野さんも、いまは『スナックワールド』で、世の中におけるゲームの遊び方自体を、変えようとしていませんか?
日野そうなんです。
VRもそうなのですが、究極的なゲームの魅力って、仮想現実だと思うんです。
自分が体験できないことを、体験するという。
これもゲームのすばらしさですよね。
それが、VRのヘッドセットであったり、オンラインゲームのような世界であるとか、いろいろな方法があります。
そのひとつとして、今度僕らが力を入れて作っている『スナックワールド』は、触れない映像ではなくて、実際に触れて体験する、という意味での仮想現実を目指しているんです。

吉田ほう。
実際に触れるんですか。

日野『スナックワールド』のコンセプトは、“リアルゾーン”と名付けました。
仮想現実ではないのですが、ゲームの世界とアニメの世界とリアルの世界が、地続きに繋がっているというイメージを作ろうという試みです。
たとえば、RPGなどでは、主人公がたくさんの剣などの武器を持ち歩いていますが、これはいったい、どうやって持ち歩いてるの?って思いませんか。

浜村そうですね、たしかに。

日野ですよね。
でもその回答は、「ゲームだから」ということになります。
『スナックワールド』ではこの問題も“リアルゾーン”として地続きの感覚を作るために、ちゃんと説明しているんです。
今日はここに実際に本物を持ってきたのですが、“ジャラ”という縮小された剣や盾がミニチュアのアクセサリーになったものです。

日野これらのジャラは、主人公が実際にキーホルダーにつけて持ち歩いている設定です。
これは腰にぶら下げていて、必要なときに拡大して使う。
つまり、作品の中に登場するキャラクターと、プレイヤーが同じ感覚でアイテムを持ち歩けるんです。

吉田だからリアルゾーンなのですね。
なるほど。

日野ほかにも、このジャラは、ゲーム中では宝箱から出てきます。
この入手に関しての部分も、現実では、さまざまなお店やコンビニなどで、宝箱を模した“トレジャラボックス”で販売する予定です。
ゲームの中で宝箱を開ける感覚を、現実で実際に体験するんです。

浜村ジャラには機能もあるんですよね?
日野ええ。
ジャラにはNFCチップが搭載されており、ゲームで読み込むとさまざまな特典が発生します。

吉田じゃあ、買っちゃうじゃないですか(笑)。

日野はい(笑)。

吉田人気ユーチューバーが、大人買いして開封する動画をアップしたりしてね(笑)。

日野そうですね(笑)。
同じくクロスメディアプロジェクトで展開して大きなブームを生んだ『妖怪ウォッチ』のときにも、“妖怪メダル”という玩具が、さまざまなメディアで相互に話題を生む効果を持ちました。
今度の“ジャラ”も、もちろんゲームにおまけとして付録になる場合もあるかもしれないし、モンスターを呼び出せる“スナック”というプレートなどもあるのですが、こうしたアイテムが物語の中でも、現実世界でも同じ扱いをされるという仕掛けがすごくおもしろいと思ったのです。
非常に新しい、クロスメディアによる一種の仮想現実の形態みたいなものができるんじゃないかなと楽しみにしています。

吉田これが、あらゆるメディアで連動や反応できるようになるのですか?
日野ええ。
コンビニを始め、いろいろな『スナックワールド』のスポットを作る予定です。

浜村今度も、世の中を動かしちゃいそうですね。

日野僕らも非常に力を入れているんです。
この『スナックワールド』は、もう間もなくスタート予定です。

●これからの10年を作るクリエイターへ
浜村PS VRと、スナックワールドのリアルゾーン。
どちらも、やはりゲームの遊びかたをずいぶんと変えそうだな、という感じがします。
ゲームの世界の進歩は加速して未来に向かっていきますが、もうお時間もないので、最後におふたりから、会場に集まった若いクリエイターやゲームファンに、業界の未来についてのメッセージをお願いします。

吉田今日は、GFF AWARD 2017に呼んでいただき、ありがとうございます。
ゲームコンテストの最終審査ですので、きっとゲームクリエイター志望の学生さんもたくさんいらっしゃると思うので、ひとこと言いたいのですが……いまは、技術の進歩とともに、ゲーム制作コストもすごく大きなものになっています。
我々も、『Horizon Zero Dawn』や、『アンチャーデッド 海賊王と最後の秘宝』などのような、すばらしいゲームが作れる状況にはなったのですが、その開発は、やはり何年もかけた大きな規模なんです。
その中にゲーム制作者として参加すると、それはものすごく貴重な経験にはなるのですが……どうしても、同じ素材を磨き続ける、といったような作業もあるわけです。
それも大切なことではあるのですが、いまは皆さんお若いので、やはりゲームクリエイターとして成長するために、小さな規模のゲームを短期間で作って、どんどん世の中に出して経験値を溜めてほしいです。
そうして次に行くというのが、きっといちばんいいですね。
そのためにも、少人数でとてもインパクトのあるゲームを作ることができるVRやインディーゲームは、自分が成長するためにとてもいいチャレンジを与えてくれるんじゃないかな、と思います。
そうした、自分が成長するための機会を与えてくれるような“場”がどこなのか。
多少どうなるかはわからないリスクがあったとしても、そこを考えて、この業界にチャレンジしてほしいと思います。

日野今日はGFF AWARD 2017の最終公開審査で審査員を担当しましたが、学生たちのプレゼンテーションを見ていて、「やっぱり楽しそうだな」と思いました。
あの小規模な人数で、わいわい話しながら、きっと「ああじゃないこうじゃない」と、楽しく作っては、たまにはケンカをしたりして、やってるんだろうなと。
そう思うと、いま吉田さんが言われたように、プロになったら、少人数の規模でゲームを作る機会は、おそらくほとんどないくらいに、少なくなります。
だからこそ、いま仲間で集ってゲームを作っている皆さんは、本当にいい経験をしているも思います。
なので、学生や若いクリエイターには、積極的にクリエイティブに挑戦してほしいんです。
僕らも福岡を拠点とするゲーム会社として、皆さんをずっと応援していくつもりですから。
ゲームクリエイターを育てて仲間を増やしていき、日本全体として見たときにも、もっとクリエイティブに強い国になってほしいと思っています。
最近は、少し海外のゲームに負けている感もある気がするので……。
ぜひ、“おもしろいものが見られるかもな”と思った人は、この業界を目指して、がんばってください。

PS VRと『妖怪ウォッチ』で大ブームを起こした吉田氏と日野氏。
ゲーム業界の10年をキーワードとしたトークショーから感じられたのは、激動の技術の進歩の中でも、常におもしろいことを生み出そうとする、クリエイタースピリッツだった。
それは、“GFF AWARD 2017”にノミネートした若きクリエイターたちの気持ちと、どこかシンクロするかのような、クリエイティブの熱量に溢れていたように思う。
これからの未来を創る若き世代に、このトークショーの内容はどのように響いたのだろうか。

今後ファミ通.comでは、実際に10年目を迎えた第10回福岡ゲームコンテスト“GFF AWARD 2017”の最終審査から授賞式までの一部始終のリポート記事を掲載予定だ。
激動の10年の中、若きクリエイターたちの登竜門として多くの作品がジャッジされてきた福岡ゲームコンテスト“GFF AWARD”だが、10回目に集った作品は、非常に高クオリティーのものばかりで、審査はかつてないほどに難航した結果に!リポートを楽しみにしていてほしい。

(C) LEVEL-5 Inc.

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