『Mighty No. 9』稲船敬二氏インタビュー――日本代表のゲームだと思って応援してほしい
●レトロチックだけどいまの時代に合わせたアクションゲーム
スパイク・チュンソフトから、本日2016年6月21日に配信された(※)ニンテンドー3DS、プレイステーション Vita、Wii U、プレイステーション4、プレイステーション3、Xbox One、Xbox 360用ソフト『Mighty No. 9』。
本作は、稲船敬二氏率いるcomceptとインティ・クリエイツが手掛ける横スクロールアクションゲーム。
クラウドファンディングサービス“Kickstarter(キックスターター)”、“Makuake(マクアケ)”で4億円以上もの資金調達に成功し、注目を集めた。
今回、ファミ通.comでは、『Mighty No. 9』について稲船敬二氏にインタビューを実施。
クラウドファンディングの導入に至った経緯や、本作へ懸ける想いなどをうかがった。
※ニンテンドー3DS版、プレイステーション Vita版の配信日は後日発表。
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――前編ではプロジェクト全体のコンセプトをお聞きしましたが、ゲームのコンセプトを教えていただけますか?
稲船僕はファミコン初期からゲーム業界にいて、ゲームの歴史とともに生きてきたと自負しています。
ファミコンの時代は、“日本のゲームが断トツでいちばんだ”と世界中で言われていて、とくにアクションゲームは直感的な気持ちよさや楽しさ、手触りが優れていると世界中のファンから賞賛されていました。
――当時はアクションゲームの名作がたくさんありましたね。
稲船海外では昔のアクションゲームを作った日本のゲームクリエイターが尊敬されています。
僕も海外へ行ったとき、海外のクリエイターから「あなたの作ったゲームで育ち、ゲームクリエイターを目指しました。
いまはプログラマーやっています」などとよく言われます。
褒め言葉だと思いますが、それほどの影響力が昔のアクションゲームにあったというわけです。
そのアクションゲームの元祖を開拓した人たちが、いまの時代に合わせて作ったらどうなるのか?そして、昔のアクションゲームファンに「本物だ」と言ってもらえるアクションゲーム、というのがコンセプトです。
――本作を作る上でこだわられたところはどこですか?
稲船プレイヤーをノスタルジックに浸らせたいわけではないので、8ビット、16ビットのゲームの流れを汲みつつ、レトロなゲーム感だけどいまの時代に合わせる、というところにこだわりました。
――“いまの時代に合わせる”というのがポイントなんですね。
稲船いまの時代というのを無視してただレトロにしても、それは制作側の自己満足に過ぎずマニアにしか受けません。
すべての人に共感してもらうには、当時の面影を持ったままいまの性能に合わる、という部分が絶対必要なんです。
「日本の『ロックマン』のようなタイプのゲームだね」、「20年ぐらいゲームしていないけど、できるかもしれない」と手に取って遊んでみると、「懐かしいな」と言ってもらえる。
でも、いまのゲームでなくてはいけないんです。
――いまのゲームというのは?
稲船昔の横スクロールアクションゲームは、遊んだときのスピード感がすごくゆったりしているのですが、いまのゲームはすべてのスピードが速い。
とくにソーシャルゲームは、動きはもちろん、ゆっくり説明文を読んでゆっくり遊ぶ、というものではありません。
そのスピード感が昔と強く違うなと感じていたので、『Mighty No. 9』はレトロチックでありながらいかにスピードを出せるかということを目指しました。
――以前イベントで本作をプレイさせていただいたときに、地上でも空中でも使用可能なダッシュ“アクセラレート”をくり返していくと、かなりのスピード感を味わうことができました。
稲船ふつうに歩いている分には速くないのですが、アクセラレートをうまく使えば素早い動きが可能で、空を飛んでいるような感覚も味わうことができます。
本作は、いまのゲームに慣れている人がこのスピード感についていけることを前提にしつつも、そのスピード感に逆にやられてしまう。
つまり、判断力の悪さによって穴に落ちたり、ミスしてしまうような作りにしているんです。
――昔のアクションゲームはかなり難度が高めでしたが、本作の難度はどのくらいを設定しているのでしょうか?
稲船そうとう難しめに調整しています。
開発のインティ・クリエイツさんには、「僕らがクリアーできないレベルにしてください」とお願いしました。
どんどん難度が上がっていくので、最初はそれなりに楽しめますが、ステージをクリアーしていくとかなり苦戦すると思います。
『Mighty No. 9』をたくさん売りたいと考えたとき、ふつうのゲームではこういったことはマイナス要素になってしまいますが、反対にこのゲームに関してはそれがプラス要素になると信じています。
また、いまはゲームを実況する時代ですので、プレイ動画を見て「楽しい」とか、「そんなすごいことができるのか」とか、実況映えすることも多少意識しています。
――マルチプラットフォームになった理由を教えてください。
稲船ファンの声を素直に聞くと、マルチプラットフォームになってしまうんですよね。
Kickstarterキャンペーンでは、「こういう要素を入れてほしい、このプラットフォームで出してほしい」とファンからいろいろな声が出てきて、それに対応するにはこのぐらいの資金が必要です、という形でストレッチゴールを設けました。
僕らの予想を上回る4億円もの資金が集まり、結果的にすべてのハードを網羅してしまったということですね。
――それぞれ性能も機能も違いますし、マルチプラットフォームというのはたいへんそうですね。
稲船こんなことを言ったらファンに怒られてしまうかもしれませんが、正直なところちょっとやりすぎたかなと(笑)。
ここまでプラットフォームを広げなければ、もっと早い段階で発売できていたと思います。
自分たちが作れること、やってあげたいこと、ファンが望むことのバランスをしっかり取らなくてはならないと反省しているので、この経験をつぎにつなげたいですね。
――またクラウドファンディングをやりたいと思いますか?
稲船デメリットもすごくありますが、素敵なメリットがたくさんあるので、ぜひやりたいと思っています。
いまの形かと言われるとそうではないかもしれません。
もう少し進化したクラウドファンディングもありえるのかなと。
――クラウドファンディング自体が進化するということですか?
稲船一部ではすでに始まっていますが、クラウドファンディングを始めてからすぐ、「これはパブリッシャーさんと組んでやったほうがよかったな」と思いました。
僕らは後から組みましたが、最初から組んでいたらスケジュールやコストの管理、プラットフォームのことなど、パブリッシャーさんの経験に基づく意見を聞くことができたと思うんですよね。
パブリッシャーというプロのよさと、資金調達や支援者との交流といったクラウドファンディングのよさを両方活かせるのではないかなと。
実際はそう簡単にやろうよと言ってくれるパブリッシャーさんはいないと思いますけどね。
――支援者への体験版の配信やイベントでの出展など、ファンが実際に『Mighty No. 9』をプレイする機会がありましたが、国内外での反響や手ごたえはいかがでしたか?
稲船すべての人の話を聞いたわけではないので不満に思う人もいると思いますが、その割合よりも「思っていた通り」、「予想以上だった」と、ポジティブな反応を示してくれる人のほうが多かったですね。
また、イベントではたくさんの人が並んでくれて、プレイされた人が楽しんでくれている光景をよく目にします。
まだ一部しか見せられていないのに、国内外ですごく喜んでもらえたので、早く全部を遊んでほしいですね。
全部遊べばキャラクターをもっと好きになってもらえると思います。
ただ倒すためのキャラクターではなく、それぞれのキャラクターに対して愛着が湧くように作っているので、お気に入りのキャラクターが見つかると思います。
――では、最後に『Mighty No. 9』を楽しみにされている方々へメッセージをお願いします。
稲船本当に長くお待たせしてしまいましたが、ようやく皆さんにお届けすることができます。
日本のゲームが全盛期だったころに、世界中の人が熱狂したゲーム性、感覚などをしっかりと残しながら、どうすれば日本のゲームが世界で立ち向かえるか、ということに対するひとつの方向性だと思って作りました。
お金がなくても戦えるところを世界に示せるゲームですので、日本代表のサッカーを応援するように、日本のユーザーたちに日本代表のゲーム、コンテンツだと思って応援してほしいです。
いまはノーマークかもしれませんが、皆がこのゲームとキャラクターを応援することで、世界で立ち向かえるコンテンツにまで引っ張り上げることが可能なんじゃないかなと思っています。
僕らにとって新たなチャレンジでもありますので、まずはゲームを手に取って楽しんでもらいたいですね。
チャレンジがうまくいったときは「やったね」と言ってくれたらいいし、うまくいかなくても「ナイスチャレンジ」ぐらい言ってくれたらうれしいです。
Mighty No. 9
メーカー:スパイク・チュンソフト
対応機種:ニンテンドー3DS / PlayStation Vita / プレイステーション4 / プレイステーション3 / Wii U / Xbox One / Xbox 360
発売日:2016年6月21日配信(※)
価格:各2500円[税抜](各2700円[税込])(※)
ジャンル:アクション