初代『ポケットモンスター』と「ポケモンGO」、2つの熱狂の共通点とは?

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2016年の夏の話題を一身に集めている「Pokemon GO(ポケモンGO)」。
「ポケモンGO」をプレイしている(もしくは、プレイできない)キッズたちにとって、今年の夏は特別なものになることは間違いない。

1990年生まれの筆者にとっては、小学校に入学した97年がまさに“特別な夏”だった。
97年4月から始まったアニメ『ポケットモンスター』(以下、ポケモン)で人気に火がつき、給食の時間、掃除の時間、休み時間、放課後に至るまで、みんながポケモンの話をしていた。
6月にCDが発売されるとすぐに買いに行き、B面の「ポケモン言えるかな?」を暗記した。
私たちの世代は、九九よりも早く151匹のポケモンを覚えたのだ。

リアルタイム世代にとって、熱狂は“美しい思い出”で、あの時何が起こっていたのかは分からない。
しかし、「ポケモンGO」がリリースされた16年から当時を振り返ると、あの頃には見えなかったことが見えてくる。

発売当時のポケモンブームをまとめた本、ポケモンビジネス研究会発行の『ポケモンの秘密』(小学館文庫)から、当時のブームと「ポケモンGO」の共通点を探ってみよう。

●日本を代表するIPは「口コミ」で広がった
「ポケモンはピカチュウのイメージしかない、アニメが元なの?」と思っている人も多いかもしれない。
この作品の始まりは1996年に発売されたゲームボーイソフト『ポケットモンスター』。
ソフト制作はゲームフリーク、代表取締役の田尻智さんがディレクターを務めた。

赤と緑の2タイプが同時発売された『ポケモン』の定価は各3900円(税別)で、初回出荷は23万本(赤13万、緑10万)。
当時はゲーム業界が元気だったので、これだけの売り上げでも「大成功」とは言いづらい。

しかし『ポケモン』は、市場に出てから売上本数が大きく伸びた。
伸びた要因は“口コミ”。
当時「演歌のよう」と称されたようにじわじわと広がり、96年夏に100万本を突破した。

別バージョンの「青」(限定版)も96年10月に発売。
一気に60万の予約が集まり、生産はパンクした。
小学生だった私が「赤」を買ってもらえたのは97年の夏だったが、半年以上経過してもなお品薄状態が続いていたのを覚えている。

盛んにメディアミックスを行った本作は、アニメやコミック、ポケモンカード、玩具などさまざまに展開していった。
その影響を受けてポケモンブームは過熱し、ゲームの売り上げも伸びていく。
「青」「ピカチュウバージョン」を加えれば、現在までの累計販売本数は国内1300万本、世界4600万本を超える。

他ハードでの発売ソフトも含めた世界でのシリーズ累計販売本数は2億本。
スクウェア・エニックスの『FINAL FANTASY』シリーズが1億本、任天堂の『マリオ』シリーズが5億本であるから、日本を代表する巨大なIPに成長したことは疑いようがない。

●“通信”要素からの逆算で生まれた『ポケモン』
『ポケモン』は、当時の携帯型ゲーム機の“王者”であった「ゲームボーイ」用ソフトとして生まれた。
1989年に登場したゲームボーイは、大きさが15センチ、起動には単三電池が4本も必要で、明らかに子どもの手にはデカかった。
その一方、子どもが落としても壊れない頑丈さが売りだった。

ゲームボーイの特徴は、“通信ケーブルの端子がついている”こと。
別売りの通信ケーブルで友達のゲームボーイと接続して対戦ができ、ファミリーコンピュータ(ファミコン)は「子どもが家にこもってしまって、友達とコミュニケーションをしない」といった苦言があったようで、ゲームボーイは機能からしてコミュニケーションが生まれる仕組みを作ろうとしていたのだ。

しかし、発売されてしばらくは、通信機能はほとんど活用されていなかった。
そもそも、ゲームボーイで人気だったのは自分のペースでできるパズル系のゲームで、通信対戦需要があまりない――といった面もあったようだ。

『ポケモン』は、この通信ケーブルからの“逆算”で生まれたのだという。
田尻さんはゲームのアイデアのブレインストーミングで、このように発言したそうだ。

「対戦するだけじゃなくて、ゲームの中で集めたもの、お金とか、アイテムみたいなものを通信ケーブルをつかって自分から友達へ、友達から自分へと交換するような遊びを作ったら面白いんじゃないかな」
“交換”は、昆虫採集から生まれたアイデアだ。
少年時代の田尻さんは、野山で虫を採り、川で魚を捕まえて、成果を友達に自慢したり、交換したりするような少年時代を過ごしたのだという。
「子供の頃にやった昆虫の交換を現代の子供でも体験できる」――そこから、誰もが一度は体験するであろう“キャラクターカードのコレクション”という要素を加え、『ポケモン』が組みあがっていった。

世界を冒険して1番強いやつと戦いに行くというRPGのストーリー、「ポケモン図鑑」を埋めるというコレクション要素、自分の相棒としてポケモンを育てていくという育成要素。
そしてさらに、友達とポケモンを交換したり、育てあげたポケモンを戦わせたりできる通信要素。
それらがかみ合った作品が『ポケモン』だ。

●自然と通信をしたくなる仕組み
通信をしなくても、ゲーム本編をクリアすることはできる。
しかし、プレイしていると通信がしたくなってくる。
ポケモンは“進化”して強くなるのだが、150匹のモンスターのうち、別のゲームボーイと通信しなければ進化できないポケモンも存在していた。

初代で“最強”の一角に数えられていた「フーディン」などはその中の1つ。
強くてかっこいいポケモンをゲットするためには、友達と通信する必要があった。

また、「赤」と「緑」のバージョンによって、登場するポケモンや出現率に違いがあるのもポイントだった。
ポケモン図鑑を完成するために、バージョン違いのソフトと通信し、友達と交換したくなる(交換したポケモンは図鑑に登録される仕組み)。

この「赤」「緑」のバージョン違いを同時発売したのは、ゲームプロデューサー宮本茂さんのアイデアだ。
「せっかく交換するのだから、ソフトも赤と緑の2本出してみたら」。
この色分けが、のちの「青」「ピカチュウバージョン」、そして「金」「銀」といった新作ソフトにも続いていっている。

制作陣にまんまと乗せられていることを知るよしもなく、当時の子どもたちは盛んにポケモンを交換していた。
家で『ポケモン』をプレイしていると、お母さんに怒られる。
だから近所の公園で、学校の校庭で、駐車場で――と、毎日のようにゲームボーイを持って外に出た。

レアなポケモンを持っている子や通信ケーブルを持っている子はモテた。
そんなに仲良くないクラスメートからも、「今日放課後遊ばない?」と声をかけられていたのだ。

●初代『ポケモン』と、「ポケモンGO」との共通点
「ポケモンGO」は、“昆虫採集”という面において、初代の基本に立ち返ったようなゲームだ。
そして、初代が「ゲームボーイに最適化されたゲーム」として生み出されたことを考えると、スマートフォンが持つ位置情報(GPS)やカメラ機能から逆算したような設計になっている。

コミュニケーションに関しても、「ポケモンGO」は盛んに生み出している。
「ポケストップ」や「ジム」といった人が集まりやすいスポットがあることで、「ポケモンGO」プレイヤーが自然と分かり、「調子はどうですか?」と声をかけたくなるようになっている
また、幸か不幸か、あまりにも不親切なチュートリアル(ゲームの進め方の説明がほとんどない!)によって、「どうやればアイテムがゲットできるの?」「どうすればジムで勝てるようになるの?」「どんなポケモンが強くなるの?」とオンラインやオフラインで聞き合うといったコミュニケーションが発生している。
弊編集部でも、1日1回は「ポケモンGOのQ&Aコーナー」が展開されている。

その一方で、スマートフォンの機能をフルに生かせているとは言えない部分もある。
1番は“交換”だ。
初代から『ポケモン』というゲームの基本となっている交換機能が、「ポケモンGO」には実装されていない。

とはいえ、交換に関しては、今後の実装が予定されているようだ。
「世界とつながっている」ことを生かしたものになるのか、それとも「傍にいる人と簡単につながれる」ことを生かしたものになるのか……どういった形になるかは不明だが、どちらにせよスマホの特徴を生かしたものになるはずだ。

●初代の裏技、「ポケモンGO」の隠し要素
さらにもう1つ、初代『ポケモン』の有名なエピソードをご紹介しよう。
ゲームが発売された当初は、「ポケモンは全部で150匹」と公表していた。
しかしあるユーザーが偶然、151匹目のポケモン「ミュウ」を発見した。

ミュウは、ゲーム本編で度々話題にされてはいるが、普通にプレイしていれば遭遇できないモンスター。
テストプログラムを削除した後のスペースに、プログラマーが遊び心でデータだけ入れていた、“バグ”のような存在だ。

初代『ポケモン』は、遊び心なのかバグなのか、「レベルを100にする裏技」「コイキングをミュウにする裏技」などが見つけ出されていた。
こうした裏技を知っている友達が学年に1人はいて、裏技を使いこなせる子は人気者になった。

当時は、あの裏技は口コミで広がっていたとばかり思っていた。
しかし、実はインターネットを介して伝わっていた面もあるのだという。
小学生が小学生のために開設したWebサイトもあったりして、“進んでいる”人も存在していたのだ。

現在、「ポケモンGO」の裏技(隠し要素)は数多く発見されている。
有名なもので言えば、「最初の3匹を何回もスルーしていると、最初からピカチュウがゲットできる」など。
裏技の情報が誰からともなく共有され、プレイしているみんなが知っているのって、ちょっと初代の「ミュウ」に近い。

ちなみに裏技については、デマも数多くあった。
「金」「銀」のときには、伝説のポケモンセレビィの出現に関して非常に有名なデマがあり、当時の私は何度も試したが、結局手に入らなかった。

「ポケモンGO」でも、現在ゲームに関する「個体値はXLが強い!」「いや、そうじゃなかった」「ここにはレアポケモンが出る」「そうでもなかった」などなど情報が錯綜中。
歴史は繰り返されている。

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