任天堂が「マリオラン」に込めた成長ストーリーとは?

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任天堂 狂騒曲の第2幕がはじまった。
9月7日にサンフランシスコでのアップル新製品発表会で、マリオがiPhone向けのアプリとして12月に配信されることが発表された。
翌9月8日には任天堂の株価は急騰、一時2万9200円の前日比18%高まで買われ、第1幕最高値の7月19日3万2700円以来のレベルを回復した。
「スーパーマリオラン」に込めた成長ストーリーを紐解きたい。

■任天堂狂騒曲第1幕
任天堂の狂想曲の第1幕は、7月8日の「ポケモンGO」のダウンロード開始から始まった。
ダウンロード数がランキング1位となり、ポケモンGO人気が世界で社会現象化していることが伝えられると7月19日には株価は3万2700円まで上昇した。

わずか1週間で株価は倍以上になり、関連銘柄も暴騰したことから、市場は「ポケモノミクス」相場と名付けた。
ただ、その狂想曲は長続きしなかった。
任天堂がポケモンGOの収益貢献は限定的であることを発表。
市場に冷や水を投げかけ、株価は8月1日の2万100円までわずか9営業日で39%安と急落した。

任天堂狂想曲の第1幕の終演は、ポケモンGOの開発が米グーグルをスピンアウトしたナイアンテックというベンチャー企業の手によるものだったからだ。
任天堂はナイアンテックの30%の株主に過ぎず、任天堂の収入はポケモンのライセンス収入の持ち分法相当に過ぎない。

JPモルガン証券の試算によると、仮に同タイトルが月商100億円のヒットとなった場合でも、任天堂への貢献は年間100億円にも満たない程度とし、周辺機器販売による利益インパクトも限定的との見解を示した。
たしかに100億円では任天堂の通期売上5000億円に対して2%程度にしかならない。

■スーパーマリオランは成長ストーリーを期待できそう
アナリストや市場が期待していた任天堂のパラダイムシフトは100億円とかのレベルではないはずだ。
任天堂は、2015年にDeNA との提携でスマホマーケットに参入することを決めた。
この決定は、任天堂の創業者でカリスマ社長であった故・山内氏のつくったビジネスモデルから、ついに任天堂が脱却する表明だったのだ。

スマホの普及でスマホゲーム市場という新しい市場が完全に立ち上がった。
任天堂は、自社製品を侵食するとして一貫してスマホ市場への参入を拒否したためにこの市場に乗り遅れた。
2012年3月期に営業利益ベースで赤字となり、営業赤字が3期続いた。

従来の任天堂のビジネスモデルである、自前のゲームコンソールを赤字覚悟でプラットフォームとして普及させたうえで、自社ソフトの売上、サードパーティのソフトの委託生産料やロイヤルティ収入で稼ぐというスタイルはもう機能しなくなっていた。

アナリストや市場は、任天堂の保有するポケモンやマリオやゼルダといった知的財産(IP)は日本が世界に誇る強力なコンテンツであり、そのIPを行かす方向に行くべきだと考えていた。
任天堂がついに決意をしたのが2015年のDeNAと提携だったのだ。

スーパーマリオランは元祖スーパーマリオのように、マリオが走ったり跳んだりしながらコインを獲得し最後にフラッグに飛びついてゴールするダンジョンが続く。

スマホプラットフォームなので片手で操作できるようになっている。
非同期バトルモードも備わっていて、第三者と対戦することも可能だ。
集めたコインでキノコ王国を作成できる機能もあるようだ。
基本的には、無料でプレイできるが、ゲームの全コンテンツにアクセスするには課金が必要なシステムになる見込みだ。

スーパーマリオランは、任天堂の最強IP(知的財産)を任天堂が開発したアプリで配信、サーバ関係をDeNAが担当する。
市場が任天堂の回復のために必要と考えていたストーリーに近いだろう。
マリオの投入は今期中とは思われてはいなかったので、ポジティブサプライズだった。

■ゲームコンソールを侵食するのでなくシナジー効果を
中長期的な成長ストーリーがないと、株価は持続的に上昇しない。
任天堂がマリオランで大きな一歩を踏み出したのは間違いない。
今後、DeNAとの協業でリリースされる「どうぶつの森」「ファイアーエムブレム」も人気の高いキラーコンテンツだ。
マリオの投入でこの2本は秋口の配信を予定されていたが年度内へと延長された。

スマホ版どうぶつの森は、ゲームコンソール用のどうぶつの森と連携し、両方で遊ぶことでより楽しみが増えるようなスタイルになるようだ。
ゲームコンソール向けタイトルとの相乗効果を生み出すアプリとして期待されている。
任天堂の将来を背負っているのはポケモンよりもマリオなのだ。

スーパーマリオランは、今年12月にAppストアで、9か国語、100か国以上に向けて独占的に配信開始となる予定だ。
アップルのAPPストアに行ってみて欲しい。
スーパーマリオ人気を事前に受け入れるために、Appストアのマリオランの「Notify(通知)ボタン」をクリックしておくと、ソフトがダウンロード開始になれば通知してくれる。
これもマリオのためにアップルが始めた新機能だ。
12月に世界的な話題になることはほぼ確実だろう。
任天堂の未来を塗り替えることが出来るのだろうか、楽しみだ。

平田和生(ひらた かずお)
慶應義塾大学卒業後、証券会社の国際部で日本株の小型株アナリスト、デリバティブトレーダーとして活躍。
ロンドン駐在後、外資系証券に転籍。
国内外機関投資家、ヘッジファンドなどへ、日本株トップセールストレーダーとして、市場分析、銘柄推奨などの運用アドバイスをおこなう。
現在は、主に個人向けに資産運用をアドバイスしている。

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