青天井の任天堂株、「トランプ旋風」に6倍高の思惑も
[東京15日ロイター] – 任天堂<7974.T>の株価が「青天井」の様相を帯びてきた。
米国でのスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO(ゴー)」のヒットを背景に、関連株を巻き込んで株価は連日の大幅高となっている。
15日には個別銘柄の売買代金として過去最高の記録を更新した。
過去には約2年で6倍超の株高をみせた同社株。
大相場再来への思惑が高まる一方、期待先行の面も強く、反動で急落した際の全体相場への影響を懸念する声も出ている。
<「トランプ旋風」>
「トランプの人気は止らないね」──。
ある国内証券トレーダーは苦笑いする。
米国大統領候補のことではない。
任天度は、創業時、トランプや花札などカードゲームを販売していたことから、株式市場での通称は「トランプ」だった。
同社株は15日に2万7780円と2010年6月以来、約6年ぶりの高値水準を回復した。
「ポケモンGO」の人気ぶりが明らかになる前の7月7日終値と比べ、86%の急騰。
この間、時価総額は約1兆8200億円増加。
サノヤスホールディングス<7022.T>やイマジカ・ロボットホールディングス<6879.T>など関連株も急騰するなど、まさに「トランプ旋風」となっている。
英国の欧州連合(EU)離脱ショックがいったん後退し、急反発した日本株だが、足元では調整一服感も出ている。
日本株の上値の重さが意識されるなかで、任天堂の急騰ぶりに「この値動きに頼って収益を上げようという投資家も多い」(前出の国内証券トレーダー)という。
通常なら急騰後の反動安が警戒されるところだが、「材料があまりにも強烈。
短期的な調整があっても、当面は上値模索が期待できる」(中堅証券)との声もあり、騰勢はしばらくは続くとの見方が多い。
<過去の大相場>
強気心理にあるのが、過去の値動きだ。
同社株は上場以来、何度か大相場がある。
ゲームソフトの代表作「スーパーマリオブラザーズ」が発売された85年には、同年5月末から86年7月までに株価は3倍以上上昇。
バブル期の1989年3月末から90年8月にかけては株価が5.8倍に急騰した。
携帯型の「ゲームボーイ」の登場に加え、据え置き型ゲーム機「スーパーファミコン」の期待が高まった時期だった。
さらに据え置き型の「Wii」が発売された06年には、その前年の8月中旬から07年11月の間に、株価は約6.4倍に上昇。
取引時間中の上場来高値7万3200円を付けたのはこの時だ。
仮に「ポケモンGO」の登場で、過去の大相場を体現した場合、ヒットが伝わる前となる7月7日終値(1万4935円)に対し最大で約6.4倍、単純計算で9万5584円まで上昇し、上場来高値を更新する計算になる。
<一極集中>
もっとも、すべての市場参加者が強気というではない。
市場では「ここ数日で『ポケモンGO』の社会問題化が、クローズアップされてきた。
今後の既存のゲーム機ビジネスへの悪影響も懸念される」(高木証券・企業情報部長の藤井知明氏)との声も出ている。
また、足元の急ピッチな株高を受け、同社株に投資家の資金が集中している。
15日の売買代金は4760億円に上り、13年5月に東京電力(現東京電力HD)<9501.T>が付けた個別銘柄としての過去最高記録4456億円を更新。
東証1部全体の売買代金の約15%(前日は17%)を占めた。
こうした一極集中ぶりに、市場では「任天堂の株価が崩れてしまえば、全体相場も一気に崩れる恐れがある」(国内投信ファンドマネージャー)との声も聞かれる。
ミョウジョウ・アセット・マネジメントCEOの菊池真氏は「広汎にわたり業績懸念があるなか、グローバル景気に関係のないゲーム関連などには関心が向かいやすい」とする一方、「極端に1銘柄に一極集中するというのは、株式市場全体に懐疑的な見方が広がっている証拠でもある」との見方を示す。
<利益貢献を見極めへ>
任天堂株の予想株価収益率(PER)は112倍、株価純資産倍率(PBR)は2.87倍とバリュエーションでは評価できない水準に上昇してきている。
過去3度の大相場においては、任天堂は着実に売上高を伸ばしており、大相場には一定の裏付けがあった。
しかし、今回の「ポケモンGO」ブームがどう業績に貢献するのかは、まだ見えない。
任天堂は「ポケモンGO」のアプリを直接手掛けていないため、利益は株式の持分などに応じた計上となる。
米国などでは社会現象となりつつあるが、任天度がビジネス面でどのような広がりをみせていくかはまだ未知数だ。
「スーパーファミコン」など自社のハード機器から、スマホにビジネスの中心が移った場合、過去の大相場を当てはめてよいのか──。
投資家も模索することになりそうだ。
(長田善行編集:伊賀大記)