ゲームボーイと言えない時代にトランプ現象

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テレビゲームの世界は、新しいデバイスや技術の普及によって、その形は大きく進化している一方、楽しさを追い求める姿は変わりません。
変わるものと、変わらないもの。
過去と未来。
そして我々が宿命的に背負う日本という存在。
なかなか考える余裕のない現代ですが、少しだけ立ち止まって一緒に見つめてみませんか? 毎月1回、「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」ゆるーくお届けします。

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谷理央(以下 谷): アメリカ大統領選挙ではトランプ氏が勝利しました。
選挙後も、トランプ氏に関連したニュースが続いてます。
トランプ氏とゲームは意外なつながりがあるんです。
2000年代初頭に『Donald Trump’s Real Estate Tycoon』という不動産王を目指すビジネスシミュレーションゲームが出てるんですね。
1989年には『TRUMP THE GAME』というボードゲームも発売されていたそうです。
シリアスなものからジョーク系まで。
トランプ氏を題材にしたインディーズゲームもたくさんリリースされました。
というわけで、今回はまずアメリカ大統領選挙の感想をうかがいます。

安田善巳(以下 安田): イギリスで行われたEU離脱をめぐる国民投票。
あの時と印象がかぶりますね。

平林久和(以下 平林): はい、大手メディアや識者の予想がはずれてしまった点が共通しています。

安田: 番狂わせのようですが、冷静に振り返るとヨーロッパの各国で移民への不満を訴える政党が議席を伸ばしていますし、フィリピン国民はドゥテルテ大統領を選びました。
お行儀が良くてきれいなことを言うリーダーよりも、ナタを振るうような豪腕リーダーが選ばれる。
今年、世界各地で行われている選挙は、そんな傾向があるようです。
「世界全体が不寛容になっている」とも言われていますが……。

平林: 確かに不寛容なのかもしれません。
けれども、世界の価値観を一元化するのがグローバリズムだとしたら、その動きに「待った」がかかっている、と解釈できませんか。
「世界のゲームと比べて日本のゲームは遅れている」という安易なグローバル比較に異論を唱えたい。
オールゲームニッポンのパーソナリティとしては、自分の国をファーストで考える気持ちは理解できちゃうんです。
さらに……ちょっと過激な感想でもいいですか?
谷: どんな感想ですか?
平林: トランプ氏といえば暴言が非難されてきましたが、ポリティカル・コレクトネス(政治的公正)を窮屈に感じている人の支持を集めたと思うんです。

安田: ポリティカル・コレクトネスとは、性別や宗教などの偏った表現をなくす。
差別を含まない中立的な表現にしようとする運動のことですね。
わかりやすい例で言うと、スチュワーデスをフライトアテンダント、看護婦を看護師へと言い換える。
この根底にある考え方です。

平林: そうです。
ゲーム業界は長年、この問題に頭を悩ませてきました。
古くはゲームボーイじゃないでしょうか。
ゲームボーイが発売されたのは1988年でしたが、ポリティカル・コレクトネスが厳しくなってきた90年代中頃には、「どうしてボーイなんだ!女性への差別ではないか?」と運動家たちから突っ込まれています。
ロールプレイングゲームに出てくる教会の十字架は、キリスト教の色が強いということで他の模様に書き換えられました。
最近も友人のゲームプランナーが、開発したゲーム内の「パン屋」という表現が差別的と指摘されていました。

谷: 僕らメディアの世界でも魚屋は鮮魚店、八百屋は青果店に言い換えるのが慣例化しています。

安田: ビジネスマンはビジネスパーソン、議長や会長のチェアマンは最近の英語ではチェアパーソンですものね。
ポリティカル・コレクトネスは、アメリカのほうが日本以上に厳しくて、最近は「メリークリスマス」も公の場では言えなくて「ハッピーホリデー」に言い換えているそうです。

平林: というわけで私の仮説ですが、過剰なポリティカル・コレクトネスに反対したい人がトランプ氏を支持したのではないか?と考えた次第です。
半分冗談ですが、このままではアンパンマンはアンパンパーソン、ウルトラマンはウルトラパーソンになると言われているくらいなので(笑)。
と、偉そうなことを言ってますが、今回の選挙結果で、じつはアメリカを知らなかったとも思いました。

谷: どういうことですか?
平林: 私を含む日本のビジネスマン……いや、ビジネスパーソンはアメリカに行くとしたら、圧倒的に多いのが西海岸か東海岸ですよね。
そこでつい、ニューヨークとロスアンゼルスがアメリカだと思ってしまいますが、その他の地域に住む人たちは別の価値観を持っていることを痛感しました。
アメリカのことがわかっているようでわかっていない。

安田: そういえば谷さん、最近数か月のアメリカ市場ではXbox One Sがよく売れてるんですよね。

谷: はい。
世界でもアメリカ市場だけを見てみますとXbox One Sの売上は絶好調のようです。

安田: そうなんですよね。
失礼ながら日本ではほとんど話題にならないXbox One Sがアメリカ市場全体で見ると人気ハードになっています。
確かに僕らはアメリカのことがわかっているようでわかっていません。

谷: 話は変わりますが、ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータが発売されました。
かなり売れたようですがどんな感想をお持ちですか?
安田: 売り切れ店が続出しましたね。

谷: はい。
初回で26万台が売り切れたそうです。

平林: ニンテンドークラシックミニについてはひとつだけ言いたいことがありました。
多くの記事が「レトロゲームが遊べる」と紹介していたんです。
私はこのレトロという言葉にひっかかりました。
レトロというと一部のマニア向けっぽいじゃないですか。
そうではなく、製品名からしてクラシックです。
クラシックといえば古典的価値があることで、これは一般のファンに広まるものではないか!と言いたくなったんですね。
そんなことをYahoo!ニュース個人のオーサーコメントを書いたら、9月のベストコメントの賞をいただけました。

安田: それにしても複数のソフト会社のタイトルが見事に集まりましたよね。
ファミコンの全盛期って膨大なソフト資産が生まれた良き時代であると同時に、いろいろな摩擦があった時代でもありますから。

谷: 摩擦、ですか?
平林: はい。
当時は任天堂が独占市場を誇っていましたが、じつは裏でハドソンがファミコンのライバル機、PCエンジンを構想しているとか。
ナムコと任天堂がライセンス契約をめぐって法廷論争を繰り広げるとか。
いろいろな事件がありました。
当時、私は現場の記者でよく「面従腹背」と評していました。
ともあれ、そんな過去を水に流してニンテンドークラシックミニが発売されたのはうれしい限りです。

安田: 12月の話題になりますが『スーパーマリオラン』はぜひとも成功してほしいですね。

平林: どうしてですか?
安田: 最初は無料で遊べますが、すべての要素を楽しむには1200円の課金が必要になるそうです。
事実上の買い切りコンテンツだと思うんですね。
ソフト1本分を有料でダウンロードする習慣が根づいてくれたら、ゲーム業界に新しい市場をもたらすでしょう。

谷: 確かに、おっしゃる通りですね。
『スーパーマリオラン』は12月15日発売ですから、次号では詳しく見ていきましょう。
ところでその翌日の12月16日、われわれオールゲームニッポンの3人が福岡情報技術サミット(FITS 2016)からお招きいただきました。
私がモデレーター、安田さんと平林さんがパネラーになって未来のITとゲームを語るという企画です。

平林: ところが、安田さんに別のご予定が入ったとか?
安田: ごめんなさい!謎の欠席ということでお許しください。
福岡に行けなくて残念ですが、おふたりのトークに期待してます。

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