新たなトレンドはゲームにどのような変化をもたらすのか…シブサワ・コウが考えるゲームの未来
パシフィコ横浜で開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC2016」。
その最終日となる3日目、「ゲームの未来」と題し、コーエーテクモホールディングス代表取締役社長である襟川陽一氏による講演が行われました。
ゲームプロデューサー「シブサワ・コウ」として『信長の野望』シリーズをはじめ数々のヒット作を世に送り出してきた襟川氏。
経営者とクリエイター、双方の視点を持つ氏にとってゲームの未来はどのように映っているのでしょうか。
■創造したIPを使って多面的な展開を
80〜90年代にかけてのゲーム会社のビジネスモデルといえばゲームの開発・販売を指していましたが、90年代以降はそれにとどまらず、会社のブランド化や新たなIPの創造など、多面的なビジネスモデルが求められるようになってきました。
襟川氏によると、重要なのは新たなIPを創造して終わらせるのではなく、それを軸に多面的に展開すること。
コーエーテクモの場合は、常に「プラットフォーム展開」「ジャンル展開」「コラボ展開」「タイアップ展開」「グローバル展開」の5つの展開を前提にゲームの開発に取り組んでいるそうです。
「プラットフォーム展開」とは、PlayStation(R)4やニンテンドー3DSといったハードウェアプラットフォームにゲームを移植展開すること。
最近ではこれに、DeNAやGREE、Yahoo!モバゲーといったソフトウェアプラットフォームが加わりました。
様々なプラットフォームに展開することで世界中で多くのユーザーを獲得、販売本数の拡大につながるというわけです。
ちなみに東南アジアではモバイルゲームが好調で、こちらも市場としての成長が期待できそうです。
1つのIPを様々なジャンルに派生させていく、それが「ジャンル展開」です。
コーエーテクモの看板タイトルである『信長の野望』を例に挙げると、歴史シミュレーションにはじまり、インターネット対戦ゲーム『信長の野望Internet』、オンラインMMORPG『信長の野望Online』、ソーシャルゲーム『100万人の信長の野望』、そしてポケモンとコラボした『ポケモン+ノブナガの野望』、AKBと組んだカードゲーム『AKBの野望』と様々なジャンルへと展開しました。
襟川氏によると、ジャンル展開によってIPの価値が強化され、ファンの拡大につながるそうです。
「コラボ展開」は他のIPとのコラボ企画。
代表作としては『無双』シリーズがよく知られており、『北斗無双』や『ONEPIECE海賊無双』、『ドラゴンクエストヒーローズ』など多くのヒット作が生まれています。
この展開の強みは、何と言っても新たなファン層を獲得できるということでしょう。
「タイアップ展開」では、アニメやコミック、玩具など様々な企業と組み、共同でマーケティングを行います。
アニメ化などのメディアミックス展開がよく知られていますが、コーエーテクモの場合は食品会社やタクシー会社、地方都市などとも組み、幅広いタイアップ展開を行っています。
「グローバル展開」は言葉通り、国内にとどまらず広く世界に向けてサービスを行うこと。
『ゼルダ無双』は全世界で出荷本数100万本を突破し、昨年2月に発売した『DEAD OR ALIVE 5 Last Round』も欧米市場で人気となり、累計DL数600万を突破しました。
また中国でPlayStation(R)4が発売されるにあたり『真・三国無双with猛将伝』がリリースされましたが、こちらもPS4タイトルとして1位を獲るほどの人気作となっています。
■ユーザーの選択肢を広げるため、複数の課金方法を
襟川氏はゲームの課金に関し、「今後は複数の課金方法を用意し、ユーザーに選んで遊んでもらうゲーム内容になる」と持論を述べました。
確かに最近はコンシューマーゲームでもダウンロード販売が急速に増加し、オンラインゲーム、ソーシャルゲーム、スマホ・ネイティブアプリでは月額課金、アイテム課金、ダウンロード課金など、遊び方に応じて自由に課金形態を選択できるようになりました。
コーエーテクモも『DEAD OR ALIVE 5 Last Round』ではパッケージ販売とダウンロード販売、そしてF2P版のアイテム課金といったように、複数の選択肢をユーザーに対して用意しています。
従来のように「パッケージ販売だけで勝負」というのは、厳しい時代が来ているのかもしれません。
■開発予算を抑えるカギは技術の共有化
次に話題に上がったのは、年々高騰していると言われるゲームの開発予算。
襟川氏によると、日本における家庭用ゲーム機の開発予算は最高でも50億円程度。
しかし、これが欧米になるとガラリと話が変わり100億は当たり前、AAA級ともなると数百億円をかけて開発することも珍しくないそうです。
スマホゲームにも開発費高騰の波は押し寄せており、2、3年前だと数千万から1億ぐらいで開発できていたものが、現在では開発費に2億〜10億、さらに開発費と同じくらいの金額をかけて運営するまでになったそうです。
襟川氏は、スマホの性能向上、リッチコンテンツ化、欧米のゲーム会社の参入など様々な要因から今後も開発費の高騰は続くと述べ、ゲームエンジンやノウハウの共有化、開発のグローバル化によるコストダウンが必要だと語りました。
とくにゲームエンジンのような基礎技術のノウハウが、今後ますます重要になってくるとのことでした。
■CG表現の違いが開発予算の差に
日本ではアニメ系のCG表現が中心なのに対し、欧米ではフォトリアル系のCG表現にフォーカスしていることが開発予算の差を生む大きな原因になっているそうです。
確かに海外ゲームの影響で日本でもリアル路線が増えてきたものの、ゲームのCG表現に関してはまだまだアニメ系のほうが主流。
メーカーが海外でも勝負したいと考えた場合、これまでとは違うCG表現を求められ、それが開発予算高騰の一因となる可能性はあります。
コーエーテクモもこの問題に取り組んでおり、現在開発中の『仁王』もリアル系へのチャレンジとして開発が進められているそうです。
■業界統合が新しい面白さを生み出すきっかけに
ゲーム業界でも2000年代に経営統合が世界的に進み、2010年代になるとM&Aが盛んに行われました。
日本ではパッケージ系の会社がスマートフォン系の会社にM&Aされるケースが目立ちますが、欧米では逆にスマホ系の会社がパッケージ系の会社に統合されることもあるようです。
襟川氏は「いずれもプラットフォーム展開が目的。
開発予算の高騰化に伴ってスマホ系の会社の起業が落ち着きつつある中で、今後はM&Aによる統合化がますます進む」と見解を述べたうえで、「経営統合やM&Aによってゲームの内容が変化し、新しい面白さが出てくるだろう」と語りました。
■新たなトレンドがゲーム業界を盛り上げる
襟川氏はゲーム業界における新しいトレンドとして、「ゲーム実況」「スマホとゲーム機の融合」「VR」「GPS」「AI」の5つを挙げました。
ゲーム実況が人気コンテンツ化していることをふまえ、今後は実況されることを見越して「見て楽しい」表現演出を求められる時代になると指摘。
スマホとゲーム機の融合に関しては、スマホとゲーム機だけでなく、パソコン、業務用ゲーム機まで含めたマルチプラットフォーム化がさらに進むと語りました。
VRについてはPlayStation(R)VR用に制作した『真・三国無双』のテスト版をプレイしたエピソードを例に「没入感が非常にすごく、本当にそこに存在するかのようなリアリティが素晴らしい」と昂奮を交えて語り、「今後VRコンテンツが増えることは確実で、業務用や非ゲーム分野でも活躍するだろう」と期待を寄せました。
『ポケモンGO』のヒットでにわかに注目を集めているAR(拡張現実)については、「2010年にARを使った実用アプリ『セカイカメラ』がAMDアワード大賞を受賞したので非常に興味を持っていたが、これほどのヒットになるとは思わなかった」と本音をポロリ。
しかし、襟川氏自身もARはゲームと非常に相性のよい表現手法だと感じており、ぜひ取り組んでいきたいと意欲を見せました。
また、『ポケモンGO』の登場によって再びGPSの機能が脚光を浴びているので、GPSとARを活用したゲームがこれから一気に市場に出てくるのではないかとも語りました。
今やチェスや将棋の世界では人間を越えるまでに成長したAIですが、襟川氏は「今後はAIが強化されたゲームが数多く出てくる」と考えているようです。
コーエーテクモでもAIの開発には注力しており、『信長の野望』の次のバージョンではAIを相当強化していく予定だそうです。
最後に襟川氏は、「もはやゲームは一部のゲームマニアのものではなくて、社会の中で大きな存在として認識され、その影響は様々な形で指摘され、ニュースにもなっています。
ゲームがプレイヤーの人生に大きな影響を与えることを我々は自覚して、ゲーム開発を行なう必要があると思う。
課金や価値観や表現など、ゲームが社会によりスムーズに受容されるよう、クリエイターとして、プロデューサーとして、会社として、ゲーム業界として、真摯に取り組むことが求められる時代だと思います」とまとめ、講演を終えました。
キャッシュリッチな企業というと、M&Aに動いたり、既存事業や新規事業に資金投入したり、はたまた株主に還元するなど、投資家の注目が集まりやすい。
そこで参考なるのが、与信管理支援会社リスクモンスター が、発表した「金持ち企業ランキング」だ。
東京商工リサーチの企業情報を活用している同ランキングは、今回で4回目となる。
2016年6月28日時点で開示されていた2016年3月期決算以降を反映しており、金融機関を除く決算短信提出企業3011社が対象となっている。
■2016年のベスト20の顔ぶれは?
ランキングのベスト20を見てみると、1位は調査開始以来、トップに君臨するファナック、2位以下は下記のとおりである。
ランキングの評価は、現預金から長期・短期の借入金や、社債、割引手形などの債務を差し引いた「ネットキャッシュ」の多寡から算出されている。
()内は前回との変動額である。
1位ファナック 山梨県6866億円(▲1846億円)
2位キャノン 東京都6320億円(▲2104億円)
3位信越化学工業 京都府5838億円(1295億円)
4位任天堂 京都府5704億円(357億円)
5位三菱自動車工業 東京都4262億円(419億円)
6位SMC 東京都3634億円(▲826億円)
7位日本航空 東京都3523億円(390億円)
8位京セラ 京都府3412億円(11億円)
9位富士重工業 東京都3375億円(4355億円)
10位 パナソニック 大阪府2884億円(▲375億円)
11位 ローム 京都府2809億円(2億円)
12位 リクルートHD 東京都2427億円(▲344億円)
13位 富士フィルムHD 東京都2352億円(▲1786億円)
14位 日揮 神奈川県2036億円2599億円(▲563億円)
15位 キーエンス 大阪府1983億円(956億円)
16位 シマノ 大阪府1801億円(249億円)
17位 バンダイナムコHD 東京都1747億円(212億円)
18位 大正製薬HD 東京都1721億円(125億円)
19位 三菱電機 東京都1701億円(▲1808億円)
20位 ヒロセ電機 東京都1647億円(169億円)
■ファナック・キヤノンはROE重視に舵取り?
1位のファナックと2位のキャノンは前回と同じ顔ぶれだが、注目したいのは2社ともキャッシュを大幅に減らしているという点だ。
ファナックが1846億円、キャノンも2104億円のキャッシュ減少である。
キャッシュを多く保有しているということ自体は、必ずしもすべての利害関係者に歓迎されるわけではない。
特に上場企業には自己資本利益率である、ROEを高める経営戦略が求められており、とりわけ「当面の投資先がないキャッシュは株主に還元すべきだ」との意見も強くなってきている。
ROEはもともと、外国人投資家が注目していた指標であり、2014年のJPX日経インデックス400指数の登場でも注目された。
2社とも同指数に選出されている。
実際、ファナックは2015年3月期に連結の配当性向を、30%から2倍の60%に引き上げ、さらに2016年2月には6年半ぶりに自社株買いを実施するなど、ROEを重視する経営に大きく舵を切っている。
2位のキヤノンも、2015年にネットワークカメラ世界最大手、アクシスコミュニケーションズを約3300億円で買収、2016年には激しい競争の末に東芝メディカルシステムズを6655億円で買収している。
■三菱自動車は燃費データ不正問題が尾を引く
5位となった三菱自動車においては、2016年4月に発覚した燃費データ不正問題が、業績を直撃している。
全国軽自動車協会連合会が発表した、軽自動車の5月販売台数では、三菱自動車の売上は前年同月比75.0%減と激減している。
2017年3月期の業績見通しは、当期利益が1450億円の損失見込みとなっており、エコカー減税に関する追加納税も考えると、今後もネットキャッシュの減少が避けられない見通しだ。
他社の動向もあるが、2017年のランキングでは順位を下げる可能性が否定出来ない。
■任天堂へのポケモンGO効果は?
4位で5704億円の任天堂に関しては、世界中で話題となっているポケモンGOの影響が気になることころだ。
ただ、このソフトは任天堂が配信しているアプリというわけではなく、関連会社である株式会社ポケモンの利益を一部取り込むことによって、はじめて業績に影響が及ぶ。
株価が急騰するなどの過熱ぶりには、任天堂自身が「業績への影響は限定的」と公式発表するほどの騒ぎになっている。
だが、キャッシュフローの面でマイナス要素があるわけではなく、同社にとっての大きなプラス要因であることに間違いはないだろう。
今後は2016年9月のウェアラブル端末「Pokemon Go Plus」発売の影響も気になるところだが、一時4500万人いたとされるユーザーが、3000万人ほどに落ち着いているとのデータもあり、大幅なジャンプアップは期待しにくい。
為替や景気動向にも大きく左右される企業のネットキャッシュ。
来年もファナックが1位記録を更新するのか、はたはた他社が猛追するのか今後も要注目である。
(ZUU online編集部)