「ポケモンGO」にマクドナルドの広告? ポケモノミクスの真の威力

全世界で爆発的ブームを巻き起こしているスマホゲームのポケモンGO。
従来のゲームとは一線を画し、家から飛び出して現実世界の中で仮想現実のポケモンを捕まえなければならない。
また、ゲームのツールをゲットするには街中にGPSで設置された「ポケストップ」まで出向かないと、入手出来ない。

これが、ネット通販の攻勢や消費者の節約志向に悩む実店舗やショッピングモールにとって、大福音となっている。
ポケモンGOは、大きなうねりとなってポケモン経済、すなわち「ポケモノミクス」を生み、街角の中小商店から大企業まで、世界中の多彩な業種で売り上げの起爆剤になっている。
まさに、「ポケモンGOで桶屋が儲かる」事態なのだ。

■AR上に「マクドナルド」の広告がでるかも?新しいビジネスモデルとは?
まず、スマホを片手にポケモンを探すハンターたちのデバイスは、多量の予備バッテリーを必要とする。
歩き回るうちに内蔵バッテリーが干上がるが、ゲームを続行するため、いちいち電源のある場所で充電するヒマがない。
こうしてバッテリー販売が急増する。

特に、バッテリーを内蔵したスマホケースを販売する米Zagg社の株価が、2営業日で12.5%も上げている。
米家電販売大手ベストバイをはじめ、米通信大手AT&Tやベライゾン・コミュニケーションズの店舗でも、「電源やバッテリー関連アクセサリーの売れ行きが跳ね上がった」と報告されている。

また、ポケモンを探して何時間も歩き回れば、腹が減る。
「腹が減ってはバトルができぬ」とばかり押し寄せるハンターたちで、ピザ屋やファストフード店は混雑する。
ニューヨークの「リニツィオ・ピッツア」では前週末の売上が、その前の週末に比べ、75%も増加した。
同店では1時間あたり1ドル余りの費用を払い、店の周辺でポケモンの発現率を増やして拡張現実(AR)上に客をおびき寄せる道具の「ルアー」を購入。
売り上げをさらに上げると、鼻息も荒い。

ポケモンGOの開発元であるNianticでは、アプリ内課金やルアーとは別に、「スポンサード・ロケーション」を設定。
「これが新たなビジネスモデルになる」としており、実店舗への集客でスポンサーも潤い、Nianticや任天堂なども儲かる「ウィンウィン」のポケモノミクスは、さらなる拡がりを見せようとしている。
スポンサー候補に挙げられているのは、米ファストフード大手のマクドナルド、仏保険大手のアクサなどである。

■ポケモンGOの通信データを無料化する通信大手も
一方、米不動産検索サイトZillow社に出されたワシントン州レッドモンドの住宅広告には、「家から徒歩の距離に、3か所のポケモンジムと、5か所のポケストップあり!」と大きく書かれ、子供連れ家族の内見者を引き寄せている。
これらの若い住宅購入者の多くは、幼少時にポケモンのぬいぐるみを持ち、カードのコレクションをしていた世代だ。
ポケモンの世界観は浸透しているから、懐かしさが込み上げる。
彼らがポケモンをゲットするのではなく、ポケモンが彼らを捕獲しているようだ。

こうしたなか、ネットで「通信量を抑えながら賢くプレイする方法」の指南サイトが人気を集めているが、米通信大手のTモバイルは、ポケモンGO のアプリ使用者に対し、「ポケモンGO アプリ限定で、通信データはすべて使い放題」の方針を打ち出した。
通信量を気にせずに、思いっきりプレイできることをウリにして、他社から若年層の乗り換え顧客をごっそり奪うプランだ。
Tモバイル店舗では、充電バッテリーの半額セールを打つ。

さらに7月19日から、米配車サービスLyft とコラボして、ポケモンジムに出掛けるTモバイル顧客に、15ドルまでの乗車無料キャンペーンを打ち出す。
Lyft にとっては、自社のサービス宣伝の絶好の機会だ。
また、のどが渇いたTモバイル顧客には、米ファストフード大手のウェンディーズで冷たいフロスティーがタダというおまけ付きである。
ハンターたちは、無料フロスティーだけではなく、ハンバーガーやポテトも注文するだろう。
ポケモノミクスの面目躍如だ。

他方、英国ロンドンでは、25ポンドで、4人までの顧客を秘密のポケストップに連れて行ってくれるタクシーサービスも登場。
まだポケモンGO がリリースされていない中国でも、ネット通販大手アリババ傘下の淘宝網で、アプリのアクティベーションのため、すでにサービスが開始されたオーストラリアのApple ID が取引されている。
ポケモノミクスはもう、地下経済まで生み出している。

■クリントン候補やトランプ候補も関心
佳境に入った米大統領選の候補たちも、ポケモンGO に大きな関心を寄せている。
共和党のドナルド・トランプ候補は、「ポケモンGO で遊ぶ時間がほしいよ」と発言。

民主党のヒラリー・クリントン候補はさらに踏み込み、「誰がポケモンGOを開発したのかは知らないけど、ポケモンGOを使って、有権者の皆さんが投票所に押し寄せる仕組みを作れないか、考え中」と述べた。

実際、オハイオ州レイクウッドでクリントン候補が開催予定の政治集会にはポケストップが設定され、「マジソン公園で、無料のポケモンをゲットしよう!子供連れは大歓迎!有権者登録や、クリントン候補の演説つき!」と宣伝しており、ポケモノミクスは政治利用されている。
この面では、クリントン候補がトランプ候補に「勝利」しているようだ。

ポケモノミクスの威力は絶大であり、しばらくポケモンたちの経済旋風は止みそうにない。
(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

You may also like...