「Pokémon GO」が生まれるまでの物語、ナイアンティックとポケモンに聞く
全世界で5億回もダウンロードされ、100カ国以上で親しまれているスマートフォンゲーム「Pokemon GO」。
2015年9月の発表、そして2016年7月のローンチで大きく注目され、これまでにない規模で楽しまれている同作は、位置情報を使った新世代のゲーム「Ingress」を手がける米ナイアンティックと、ポケモン社が力を合わせて開発した。
今回、その開発現場をリードした担当者たちが日本に集い、その場を取材する機会に恵まれた。
この場に集ったナイアンティック側のメンバーは、「Pokemon GO」のプロダクトマネージメントを担当、つまり開発をリードする役割を担い、先般の「iPhone 7」発表時にアップルの発表会でも登壇した野村達夫氏、野村氏の上司にあたりナイアンティック製品本部長の河合敬一氏、日本を拠点に活動するナイアンティック日本法人社長の村井説人氏、そして前週末に開催された「Ingress」のイベントで高松・倉敷から戻ってきたばかりのアジア統括マーケティングマネージャーの須賀健人氏の4人。
対するポケモン社からは、Pokemon GO推進室長でポケモン社側でさまざまな調整のコントロール役を担った江上周作氏、同室テクニカルディレクターの吉川佳一氏、ユーザーの安全な活動に向けた取り組みなどを担当する遠藤憲司氏、Pokemon GO Plusの実装などを担当しIngressのエージェントでもある小川慧氏の4人。
複数のメディアが同席する場で、開発のきっかけや開発中のエピソードがどんどん明らかにされ、今後の取り組みをわずかに匂わせるコメントも披露。
本誌ではナイアンティック河合敬一氏にごく数問、質問することもできたので、そのやり取りも終盤にお届けしたい。
■きっかけは「ポケモンチャレンジ」野村氏
「Pokemon GO」開発のきっかけは、2014年4月の「ポケモンチャレンジ」でした(※関連記事)。
それがナイアンティックの目にとまって、ポケモン社にアイデアを持っていったところ、スタートしたのです。
須賀氏
僕の友人がポケモン社に在籍しており、相談してみたところ、石原さん(恒和氏、ポケモン社社長)に繋がったのです。
江上氏
ポケモンチャレンジのアイデアには最初、驚きましたが、ポケモン社は、普段から新しいことを考えろと言われている会社です。
「ポケモンチャレンジ」もゴーサインが出て、たとえば告知映像の制作では登場させるポケモン選びや、3Dモデルの構築などを担当しました。
そのときグーグル側の担当だった野村さんが、(1996年に発売された最初の原作シリーズである)赤/緑のポケモン世代で、本当に愛情があって、わかってる方なんだなと感じたんです。
――野村さんがポケモンのことを「わかっている」と感じられたのはどういった部分でしたか?
江上氏
登場させるポケモンのラインアップもすでに選んでいただいていて「ポケモンはこれこれこういうゲームで……」といった説明もいっさい不要でした。
当時は、実現までの期間が短かったのですが、野村さんだからこそ実現できたと思います。
須賀氏
そのポケモンチャレンジの後、ナイアンティックから打診して、初めてのミーティングが2014年6月に実施されました。
そしてポケモンの石原さんがグーグルの米国本社へお越しになって、ナイアンティックラボと開発に向けた同意を行ったのです。
当時、石原さんの来訪時には、偶然、グーグルの受付にポケモンの人形が置いてあり、記念写真も撮って両者の距離がどんどん近づいていきました。
野村氏
ナイアンティックからお話するなかで「Ingress」のことも説明しましたが、石原さんはすでに当時の最高レベル(レベル8)になっていて、Ingressのこともすごく評価してくださっていました。
グーグル社内にお招きして、ポケモンのお話をしてくださる講演を……となったのですが、その講演の半分がIngressにおける「多重CF(コントロールフィールド)」の作り方という話で(笑)。
「Pokemon GO」の企画が開始されることになり、ディレクションしてほしいと打診を受けたのは2014年10月のことでした。
■2014年後半に開発開始野村氏
開発が決まってから、毎週、米国にいる僕と、ポケモン社の宇都宮さん(宇都宮崇人常務)たちと、ビデオ会議を行いました。
当時は、僕らから出るアイデアのほうがDS版のポケモンっぽく、ポケモン社からのほうがIngressぽいアイデア。
お互い、それぞれのプロダクトをよく理解していたのだと思います。
江上氏
石原は、とにかく「間口を広げる」という考えでした。
「Ingress」は本当に面白いゲームですが、当時はまだ英語版しかなく、プレイしはじめるにもGoogleアカウントが必要。
ビジュアル面でも黒を基調に、青と緑の世界観と、ちょっとハードルがある。
「Pokemon GO」ではもっとカジュアル、シンプル、簡単にしていこうという目標を掲げました。
須賀氏
そうしたミーティングを続けるなかで、2014年11月、両者は正式な契約書を交わしましたんです。
江上氏
ポケモン社からすると、不安はありました。
でも、当時はグーグルさん。
社内では「すごいコラボだね」と受け止めていました。
新しい技術を使った世界中が1つのシステムとなって、その上にポケモンがいる。
石原からは、ポケモンシリーズの中心人物であるゲームフリーク社の増田順一氏をキーパーソンとして、「Pokemon GO」に関わっていただこうという話がありました。
シリーズを作ってきた人ですし、王道感を出そうということです。
そこからだんだん体制が整って、野村さんがフル稼働していった形です。
野村氏
僕の世代はみんなポケモンをやっていました。
「Pokemon GO」のような世界観は、子供の頃、なにがしか妄想はしていたわけです。
だから極々自然というか……。
今こんなのを作ったんだと、小さいころの自分に自慢したいくらいです(笑)。
江上氏
当時、ポケモン社はGoogle Appsを導入していて資料の共有なども簡単でした。
メールのやり取りでも、すぐお互いに返答していて、スピードで滞ることはなかった。
野村氏
江上さんからは日本時間で深夜2時頃のはずなのいお返事が来るんです。
この返事にまた返したら、すぐ江上さんから返事が来るよね……と河合と話して、あえて時間を置いて返事したこともあります。
江上氏
夜型でしたので(笑)。
野村氏
今度はポケモン社の宇都宮さんが朝早く、4時〜5時くらいになるともうレスポンスがあるのです。
■「Pokemon GO」の原形と予告映像野村氏
開発当初はプロトタイプを作って、ゲームのアイデアを詰めていきました。
ポケモンの3Dモデルはなくアイコンで表示していましたが、大枠としては「ポケモンをリアルワールドで捕まえるゲームにする」ことは決まっていました。
でも細かな部分は作りながら改善を重ねていきました。
たとえばポケストップやジムは結構、後半になって出てきたものなんですよ。
当初はスポットが1種類しかない、つまりジムとポケストップの区別がなかった。
またバトルが1カ所に立ち止まるスタイルになるので、アイテム集めは別のところを歩く形にしよう、といったところも徐々に形作られていきました。
江上氏
開発時に両者で共感、同意していた部分は「課金をヘルシーにする」というものでしたね。
野村氏
グーグル時代、エンジニアとしては製品開発するときにいくら儲かるか考えず、いかに良いプロダクトを作れるかにフォーカスしてきたのです。
ポケモンさんもいわゆるソーシャルゲームのように一部の人に高額の課金が偏ることは、健全と思われていなかったですね。
須賀氏
こうした話が進んでいた2014年の後半に廣井隆太と僕がナイアンティックに入ります。
2015年3月ころから発表に向けて、SIX社の本山敬一さんと映像を制作することになりました。
野村氏
須賀と僕と本山さんの3人は、8bit(ドラクエ風マップのエイプリルフール企画)のときからずっと映像を作っているトリオです。
すごく面白くて毎年やっていて、ポケモンチャレンジのときもご一緒させてもらった。
絶大な信頼感があります。
今回もかつてのビデオの出来が凄すぎて……ゲーム開発中も、いろいろと迷うなかで、立ち返った場でもありました。
通常、インターネットサービスのトレーラーは制作しません。
製品を開発する立場からするとあまり先のことは言えないですよね。
ウソもつけませんし。
それでいていかに人をワクワクさせるのか……。
江上氏
私は2015年に入ってから、スマホアプリの開発をやっている部門に異動しまして、その後、発表会に向けてPokemon GO推進室が立ち上がり、専任となりました。
そこに吉川、小川、そして遠藤が入ってきた。
吉川は原作シリーズに携わり、Webサービス時代の立ち上げのころからポケモンに関わってきました。
そして小川はIngressのヘビーユーザーで、Androidの開発者でした。
宇都宮がスカウトしたんですよ。
小川氏
2014年、IngressのiOS版がローンチした直後、渋谷でIngressのイベントがあったんですよね。
そこで宇都宮さんがたまたま隣にいて。
■ナイアンティック独立へ須賀氏
そんなころ、ナイアンティックラボの独立が浮上してきました。
僕も入社して3カ月くらいのころです。
江上氏
本当にびっくりしましたよ(笑)。
どうなっちゃうんだろうって。
夏の発表よりももっと前の段階でした。
グーグルさんとの契約として進んでいたので独立によってどんな変化があるのか。
特に開発体制が、独立によってどうなるのか不透明でした。
ちょうどそのときの開発フェーズは、いろいろ作っては壊す時期が続いていたんですね。
野村氏
ナイアンティックはグーグル社内のインターナルスタートアップで始まったので、もともと異色な存在。
独立はかなり自然だったんです。
もし独立せずグーグルのままだったら、アップルさんのカンファレンスは出られませんでしたね(笑)。
河合氏
私は今から1年ほど前、独立後の2015年10月にナイアンティックへ入社しました。
他の日本人メンバーからするとちょっと遅れてグーグルから移った形です。
ジョン(ハンケ氏、ナイアンティック創業者)は、グーグルに入って最初の上司でした。
2007年からグーグルマップの開発に携わっていたのですが、独立時によかったらどうかと声をかけてもらいました。
地図というものは、外出時に使われることはあっても、外出そのものきっかけになることはあまりないですよね。
ナイアンティックの手がけるプロダクトとの違いは面白いなと感じていました。
■Pokemon GO Plus、決まっていたのはひとつだけ
小川氏
ポケモン社側でのPokemon GO Plusの担当でしたが、開発は任天堂さんです。
私が担当に配属された段階で、すでに石原と任天堂さんの間で、こういうデバイスがどうか、と話が進んでいました。
当初から、ボタンと、押して光るLED、そしてバイブレーションという3つの機能はありました。
これを開発するといっても、当時、決まっているのは「リアルワールドでポケモンを捕まえる」ということだけでした。
そこでAndroidの簡単なアプリを作ってはこれを繋いで、地図上にポケモンを出してみて……と進める。
ゲームアプリ本体の開発が進むに従って、それに合わせていく形でした。
野村氏
小川さんが入る前から連動するデバイスがないかなという話があり、ジョン・ハンケも気に入ったのです。
江上氏
過去にもポケモン関連で、歩数計デバイスなどを提供したことがありました。
石原はこういうデバイスも大好きなので、そのあたりから生まれたアイデアだと思います。
スマートフォンを見ずにプレイできる、ナイアンティックさんの言うヘッドアッププレイに繋がるデバイスとしても考えていました。
野村氏
家族で楽しめるデバイスというイメージもありましたね。
河合氏
Pokemon GO Plusを繋げていると、ゲーム画面上でもそれにあわせた表示が出ます。
子供がPokemon GO Plusを持って、親御さんがスマートフォンを手にして2人の間で話ができますよね。
■フィールドテスト、厳しい声あった須賀氏
2016年3月、日本で「Pokemon GO」のフィールドテストを開始しました。
野村氏
Ingressのエージェント(プレイヤー)を中心にフィードバックを得ました。
こうした方々は、みなさんリアルワールドゲームを体験されていて、良く理解されていた方が多かったです。
ゲーム性も、プレイの反応を見ながら変えていきました。
ポケモンの写真を撮ってシェアするという期待していた通りのリアクションもあれば、「これ、面白くないんじゃないの?」と厳しいコメントもたくさんいただきましたが、テスターのみなさんと一緒に作っていったと思っています。
――フィールドテストで盛り込んでいったものは?
野村氏
たとえば遠くのジムをタップして情報が得られるようにしました。
また細かな部分ですが、捕まえたポケモンを「博士に送る」ときのユーザーインターフェイスの改善なども行いました。
そうした直接的な声だけではなく、プレイ結果という部分でも参考になるところがありました。
たとえばレベルも、フィールドテスト中は最高でレベル16でしたが、どのくらいのスピードで進めて行っているのかといったデータを見つつ、河合が最終的に調整しました。
河合氏
フィールドテストのユーザーから寄せられる反響は全て拝読していましたが、なかなかお返事できませんでした。
プレイしていただくだけで得られるデータもすごく大事で、フィールドテスト終了直前まで参考にしていました。
その結果、成長を実感できるよう、レベルを40くらいまで分割したのです。
レベルアップ時にはアイテムをもらえるようにしたり、新たなアイテムを解除したりする仕組みも入れました。
たとえばレベル19まで経験値がどれくらいになるのか、デザインできたのは大きかったなと思っています。
テスターの皆さんからは、厳しいお声が多かったのですが、フィールドテストがなければ、ここまで至らなかったと思います。
江上氏
当社ではこれまでもアプリやゲームの開発をしていますが、デバッグもしっかりして、製造チェックをして……というものでした。
ところがフィールドテストでは、この未完成な状態で出すのか?と社内では大きな議論になりました。
もちろんユーザーに触っていただかないと完成しないのはわかります。
でもフィールドテストの初期段階は本当にバトルも何もなかった。
マップがあって、ボールを投げてポケモンを捕まえるだけ。
これはゲームなのか、という声もあったほどで、テスターの方からは「これは何をすればいいのか」という書込みもあった。
もっとちゃんとしたものを触らせるべきではないかという議論もあって、初めての経験でした。
野村氏
ナイアンティックの出自がネットサービス企業ということで、なるべく早くお届けして、どんどん修正していくというDNAなんですよね。
ある程度未完成でも、優先順位を付けて、やるべきことを進めていくというスタンスです。
日本でのテストは3カ月ほどありましたが、この期間もポケモンさんには驚かれました。
江上氏
βテストって、一般的には1カ月くらいじゃないのか、こんなに長くやるものなのか、と驚きました(笑)。
■人を集める「ルアーモジュール」――フィールドテストにも1ユーザーとして参加し、フィールドテスト時のプレスツアーにも参加しましたが、正式版の提供開始後に、その場にいるプレイヤー全員のポケモン出現率がアップするルアーモジュールが追加されていることに気付いて驚きました。
野村氏
個人的にも好きなアイテムです。
アイデアはIngressの「ポータルフラッカー」(一定時間、入手できるアイテムが倍増する)がもとです。
健全に遊んでいただきたいという考えがあって、ルアーモジュールって使っても自分への利益がそこまで大きくない。
でも使ってみると、周囲に人が集まってくる。
このあたりが両者の有料課金アイテムに対する考えにマッチしました。
ナイアンティックでは「Pay to Win」(課金で勝つ、有利になる)という考え方を避けていたんです。
河合氏
ルアーモジュール自体は、フィールドテスト中に開発し、提供していたのですが、これがぜんぜん売れなかったんですよ(笑)。
テスト時には、実際に課金することはできなかったのですが、湯水のようにコインを差し上げていたんですね。
それでも売れなくて、すごく心配したんです。
――それが人気になったのは。
ユーザー密度(ユーザーの多さ)の違いですか?
河合氏
そうだと思います。
野村氏
ユーザー数が限られたフィールドテストでは、ルアーモジュールを使っても、自分1人しか恩恵を受ける人がいなくて、まるで動けない「おこう」(ポケモンの出現率が高まるアイテム)みたいな感じでした。
でもみんなで遊ぶようになるとそこで舞う花びらが、ソーシャルインタラクションというか、ダイナミクスがあって、東京でも、サンフランシスコでも、必ず花びらが舞っている場所があるんですよね。
――集まる人が多くなると、その分、ポケモンの出現率に影響があるのですか?
河合氏
いえ、人が集まるからといって余計に出ることはないです。
でも気分は良いじゃないですか。
まるで一杯奢っているようで(笑)
江上氏
それ以外にもアイテムのアイデアを出しました。
買ったらすごく強くなるようなものではないのですが、アイテムのアイデアを出してみると、ナイアンティック側からのコメントとして「Pay To Win」って返信されているものばかり。
しまいには「PTW」って略されるものもありました(笑)。
――(ポケモンのたまごをかえす)「ふかそうち(孵化装置)」は?
野村氏
ナイアンティックとしては「人々を外に出す」というミッションにマッチするところを求めていて、「ふかそうち」はまさにそんなアイテムです。
江上氏
ポケモンといえばたまご、というアイデアはすんなり採り入れることができました。
そして歩いていくと孵化するというのは楽しい。
本編でもある仕組みで、それがリアルワールドでできるのは楽しいです。
かといって、“育て屋さん”みたいなものを作るわけにはいかない。
そこでちょっと制限を作りました。
タマゴを返すために歩く、たくさん孵化したければ買っていただくと。
――ボツになったアイテムはありますか?
野村氏
うーん、やりたくてやれていないとこはありますけども……ボツはないですね。
ただ、今の「Pokemon GO」で完成ではありません。
まだやりたいことの1割くらいなんです。
――以前の取材でIngressは2週間に一度のペースでバージョンアップという話でしたが、Pokemon GOではいかがですか?
河合氏
同じです。
2週間です。
――操作画面で工夫した部分は?
野村氏
できるだけ広い年齢層で遊んでもらえるようにするという目標がありましたので、子供っぽさが行き過ぎないようにするですとか、洗練されたデザインにするとか、その一方で親指の届く範囲にメニューを置くといったあたりです。
手を加えた部分はいろいろあります。
――Ingressと比べて、省かれた機能もいくつかあると思います。
たとえば他のユーザーとのチャットや行動ログといった部分です。
このあたりの考え方は?
河合氏
ナイアンティックとしては、プロダクトを通じた狙いとして、「新しい物に出会う」「体を動かす」「他の人と何かする」という3つが共通しています。
たとえばIngressと同じ仕組みで、表面だけポケモンになっても仕方ありませんよね。
チャットがなくともジムのバトルやルアーモジュールで、他のユーザーの存在は感じとれます。
その表現の仕方はいろいろあって、やりたいことは共通しているんです。
――リアルイベントの予定は?
野村氏
どうやって進めていくのがいいのかというところですね。
実施していくのでしょうが、具体的なところはまだまだ検討している段階です。
やりたいことの残り9割のうちの1つです。
(2015年9月の発表会で披露された)トレーラー映像を観ると何をやりたいか、伝わると思います。
あの映像には夢が詰まっています(笑)。
■「ここまでとは思っていなかった」――多くの人にプレイされていますが「これは大変なことになる」というのはいつごろ感じましたか。
野村氏
ローンチするまでわからなかったです。
「外に出て楽しい」というのはIngressでわかっていたことですし、「Pokemon GO」の仕上がりとして間口を広げた結果、大きく受け入れられるのは感触としてありましたが、ここまでになるとは。
河合氏
予想の100倍を超えてきました。
ここまでとは思っていませんでした。
週末に公園で集まるくらい、それまでのIngressよりももうちょっと大きくなるだろうとは思っていましたが……。
――ポケモン社としては、過去に手がけた商品で、相当の規模に達したものもあると思うのですが、Pokemon GOのヒットはその感覚からするといかがでしたか。
江上氏
間口を広げるということで、「ポケモンチャレンジの豪華版でいいんだ、本当にシンプルにするんだ、ポケモンのタイプをなくすくらいでいい」という話まで出ましたが、そこまでシンプルにするのはゲーム側としてはちょっと待ってと(笑)でも、当初の狙い通り、簡単にシンプルしたものの、ここまで盛り上がるとは思いませんでした。
ポケモンは20年続いたコンテンツで、原作以外のソフトやカードゲームなど、いろんなプロダクトがあります。
何回もヒットの経験はありますが、趣味が多様化した今の時代で、ここまで風景が一変するようなことが実現するとは思っていませんでした。
米国でのニュースが届いたときにも「まさか」と思っていました。
海外の子会社から「すごい人が集まっている」と報告があってもその周辺だけじゃないかと疑心暗鬼だった。
石原からすれば、「最初のポケモンはこれくらいだった」となるかもしれません。
でも、20周年の今回、すごいなと思います。
■リリースした国の順番――リリースした国の順番は予定通りでしたか?
野村氏
Ingressを通じて、ロケーションを使ったゲームを受け入れる地域はわかっていました。
そこでまず豪州、ニュージーランドと、規模は小さくも、英語圏な場所からスタートしたのです。
そして何かあってもすぐ対応できるよう、タイムゾーンが一緒の米国というのは当初から考えていました。
日本もIngressが人気でしたので、提供しようとしましたが、想定よりも多くの人に利用され、サーバーも安定させないといけないと考えたのです。
――そういえばIngressもそうですが、メンテナンスのために遊べない時間を設ける、といったことはありませんね。
野村氏
もともとインターネットサービスって止まるものじゃないですよね。
仕組みとしてもそれが前提で作られています。
河合氏
クラウドバンザイなところはもちろんありますね。
――大手通信キャリアのネットワーク部門に聞いたところ、Pokemon GOのローンチの影響として、位置情報の登録信号は増えたがトラフィックはさほど影響を与えていないとのことでした。
何か通信面で工夫していますか?
野村氏
モバイルゲームなので、通信はなるべくしないように心掛けました。
できるだけ小さなサイズの通信になるようかなり工夫しています。
たとえばポケモンの3Dモデルは、独自の圧縮フォーマットで保存しているんですね。
――日本ならではの楽しみ方や特徴はありますか?
野村氏
ユーザーの反応という面では特別なものは思いつかないですね。
須賀氏
自治体からのお問い合わせは非常に多いです。
これはIngressで培った経験、影響が大きいと思います。
河合氏
日本ではIngressがアプリランキングに戻ってきたこともありましたし、市場として位置ゲームのポテンシャルの高さは感じています。
世界的にも、欧州のように公共交通機関が高度に発展しているマーケットはフィットするのでしょう。
――Pokemon GOに対しては不正なツールもあります。
対応は?
野村氏
不正ツールの利用はやめていただきたいです。
ゲームプレイへの影響だけではなく、サーバーへの負荷、想定していなかった利用パターンなどの影響があります。
■新ポケモン追加、近日か――これからのPokemon GOに追加される機能はどんなものになりますか?まだ言えないと思いますが、ヒントだけでも。
野村氏
そうですね、具体的なことは避けますが……「151」に囚われない、何かがあるかもしれませんね(笑)。
■Pokemon GOを入口に――ポケモン社としてはどういった影響があると観ていますか?
江上氏
Pokemon GOは、スマートフォン上でポケモンが動く本格的なものです。
携帯ゲーム機が販売されていない地域では、これまでアニメやゲーム以外の商品で認知されていたかもしれませんが、Pokemon GOによって、ゲームとしての認知が上がるのではないかと。
これから南アジアなどへ拡大していくなかで原作に触れる地域が増えていきます。
その一方で、より深い遊びをしっかり作っていきます。
たとえば位置ゲームとしての深さを求める方はIngressという選択肢もあります。
ポケモンのゲームとしては原作シリーズのゲームがある。
入口としての「Pokemon GO」があることで、みんな共存して、ユーザーの好みが拡がる。
両者にとって良いことだと思っています。
――安全対策としてどのような取り組みをしていますか?
河合氏
当然のことですが、安全に遊んでいただきたいです。
身の回りに気をつけてくださいと発信していくのが重要で、起動時の画面から、一定の速度以上になると運転中ではないか問いかけるなど、いくつもの仕掛けがあります。
また仕組み上、野村であっても、この(取材会場の)場所に、ある日突然、ミュウツーを出現させようと思っても、出せないという仕掛けになっている。
極めて抑制的に考えなければいけないところだと思います。
須賀氏
リアルワールドゲームは現実世界を楽しんでいただくことが一番です。
IngressやPokemon GOをきっかけに出かけて、訪れた先を楽しんでいただくことが大事なんです。
野村氏
外に出たら楽しいし、コミュニケーションのきっかけになって世代を超えた共通の話題にもなります。
でも、現実世界には危ないところもある。
周りを見てプレイしてほしいですね。
――ありがとうございました。
■河合さん、最後に教えてください!
以上が複数のメディアが同席した場面での主な話だ。
開発のきっかけ〜開発中の裏話がたっぷり披露されたが質問したい点はまだある。
あ、河合さん、教えてください。
地図上にポケモンを出すのってどういう仕掛けなんですか?
河合氏
現実に重ね合わせる仮想の部分は、現実に近いほうが実感がわきますよね。
水辺にコイキングが出るというのは、「だよね」と言っていただける。
日本だけじゃなくグローバルでやらなきゃいけないところで、どこのデータを集めてくるのか、どう処理するのか。
それにあわせてどう調整するのか。
ハードルはたくさんあります。
面白いのは渋谷です。
みずポケモンがたくさん出るんですよ。
――それって渋谷川があるからですか?
河合氏
そうなんです。
暗渠があるんです。
下に流れているんです。
「なぜこんなところに水ポケモンが出るんですか?間違っていませんか?」と言われると、いや実はね……となってみんなビックリする。
そういう発見もありますよね。
僕も地図の仕事をしない限り、渋谷川のことは知らなかったです。
――グーグルマップでの経験が活きたと。
みずポケモン以外はいかがですか?
河合氏
たとえばラスベガスって、周囲が砂漠で、熱くて乾いているのでヒトカゲがよく出現します。
サンフランシスコはベイや橋の周辺はゼニガメがよく出ます。
なのでラスベガスとサンフランシスコの人は、持ってるポケモンがぜんぜん違うんですよね。
――ちゃんと地域性が出ると。
河合氏
東京へ来ると水が多いなと思います。
――ポケストップの周囲は出現しやすいのですか?
河合氏
そうですね、多少出やすくしてあります。
あとは人口動態やさまざまデータをもとに出現する場所を決めています。
――都市部とそれ以外のポケモンの出現の違いというのは課題として把握していると思うのですが、どう解決されますか?
河合氏
これは一回対策して終わりではなく継続的に実施していかなければいけないと思っています。
おそらく近々、第1弾として何か調整を実施できるでしょう。
これは「直しました」で終わるものではなく、気付かれなくなることがゴールでしょう。
「田舎でポケモンを出す」ボタンがあるわけじゃないのです。
実はあんまり簡単なものではないです。
――ポケストップ、そしてIngressにおけるポータル情報は、Ingressでのポータル申請がストップした2014年末時点でのもの、つまり2年近く前のロケーション情報ですよね。
このあたりはIngress側で改善していくのか、別の手段になるのか、いかがでしょうか。
河合氏
まずはIngressのユーザーさんから頂戴している情報なので、Ingress側でというのが筋なのかなとは思います。
でも、なるべく早く、スケールする形でやりたいです。
ユーザーさんと解決したいという話はジョン(ハンケ氏)もしていますし、今春には東北限定でIngressのポータル申請イベントもありました。
いろいろ試していきます。
――ありがとうございました。