VRや『ポケモンGO』が業界を変え、ハード戦争はコミュニティ戦争に変わる――カドカワ 浜村弘一取締役の講演“ゲーム産業の現状と展望<2016年秋季>”リポート

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●ハードは世代交代を止め、バージョンアップの道へ
2016年10月14日、カドカワ株式会社 浜村弘一ファミ通グループ代表(以下、浜村代表)による講演“ゲーム産業の現状と展望<2016年秋季>”が実施された。

本講演は、毎年春・秋の二度にわたって、業界アナリスト及びマスコミ関係者を対象に行われているもの。
今回は、“体験がゲームを変える 〜プラットフォームの終焉と再生〜”をテーマのもと、VRと『ポケモンGO』という新しい体験が市場を席巻する中で、プラットフォームの概念そのものが変化しつつあるという、ゲーム業界の状況が語られた。

●体験の連鎖によってユーザーが増えていったVR
VRと言えば、10月13日にプレイステーション VR(以下、PS VR)が発売されたことが記憶に新しいが、PS VRの発売よりも前に、VRによる体験は人々のあいだで広まっていた。

バンダイナムコエンターテインメントが期間限定(4月15日〜10月10日)で運営した、VR体験ができる施設“VR ZONE Project i Can”を始め、VRが体験できるイベントや施設が多数登場。
予約が困難な催しも少なくなかった。

これらがVRに興味のあるユーザーを刺激し、市場への期待が高まったところで、満を持して登場となったのがPS VRというわけだ。
PS VRは、発売までに何度か予約受付が行われたが、すぐに受付終了するほどの人気を誇った。

ファミ通ゲーム白書に掲載されているIDGのデータによれば、世界のVR市場規模は、2017年には3000億円を超えるという。
浜村代表は、“VRはモニターの進化であり、流行る・流行らないの問題ではなく、必ず浸透していく”と語る。
人々が映像やゲームを楽しむためのモニターとしてテレビが登場し、続いてスマートフォンが浸透していったが、そのつぎにはVRが広まるということだ。

●スマートフォン市場にも大きな変化が
つぎに浜村代表は、ゲームを変えたもうひとつの“体験”、『ポケモンGO』について語った。
VR同様、人々の体験の連鎖によって広まっていった『ポケモンGO』。
そのユーザーの約半数は、ほかのゲームアプリを遊んでいない人であることが、『ポケモンGO』配信直後のeb-iの調査によって明らかになっている。

なお、『ポケモンGO』における課金は、ポケモンを捕まえる際に役立つアイテムなどを購入する際に発生する。
いわゆる“ガチャ”は存在しないのだ。
近年は、『ポケモンGO』以外にも、ガチャ以外の課金方法を採用したゲームアプリが増えてきている。
たとえばカプコンの女性向けゲームアプリ『囚われのパルマ』は、エピソードを有料で配信する形式だ。

また、浜村代表は、『グランブルーファンタジー』などで知られるサイゲームスが、家庭用ゲーム機での開発を進めていることに言及。
「サイゲームスのタイトルが成功するなら、自分たちも家庭用ゲームに参入しようか……」と、サイゲームスの動向に注目しているアプリメーカーは多いという。

ここまで語られた、スマートフォン市場の変化をまとめると、“客層の変化”、“ビジネススキームの変化”、“ハイエンドゲーム機とのボーダーレス化”が挙げられる。
これはすなわち、いままでにスマートフォンゲーム市場と交わりのなかったコミュニティとの、ユーザーの取り合いが始まったということだ。

●家庭用ゲーム機は“終わりのないハード”へ
スマートフォン市場に変化が訪れている一方、家庭用ゲーム機市場はどうか。
浜村代表は、スリムになった新型プレイステーション4と、11月10日発売予定のプレイステーション4 Proについて触れ、“プレイステーションは、世代交代をせずにバージョンアップをする道を選んだ”と述べる。

すでに有料会員が2000万人以上もいる、PlayStation Networkのコミュニティ。
そのコミュニティが失われてしまうリスクがある世代交代施策よりも、コミュニティをハードの根幹に据えたバージョンアップ施策のほうが有効だと考えたのではないか――そう、プレイステーションは終わりのないハードになったのだと、浜村代表は分析した。

マイクロソフトも、ソニー・インタラクティブエンタテインメントに近い戦略を採用している。
アメリカなど25ヵ国で8月2日に発売されたXbox One S(国内では2016年発売予定)は、従来のモデルより小型化を実現したもの。
また、Xbox Oneのゲームが遊べるパワフルなコンソール“Project Scorpio”を、2017年末に展開することも明らかにされている。
ユーザーコミュニティについては、Windows 10とXboxのユーザーの融合が進められているところだ。

プラットフォームの抗争というのは、これまではハードやソフトの売り上げを競うものだった。
それが、これからはユーザーコミュニティ獲得戦争/ネットワークサービス戦争になるということが、上記から読み取れる。

これは任天堂も例外ではない。
NXの詳細はいまだ明かされていないが、会員サービス“マイニンテンドー”の展開や、スマートフォン用ゲーム『スーパーマリオラン』(2016年12月配信予定)の投入などは、特定のデバイスやプラットフォームに囚われない、次世代のコミュニティ作りの布石だと浜村代表は語った。

●核となるのは“ユーザーコミュニティ”
新たな体験によってゲームのビジネススキームが変わるとともに、プラットフォームの概念も変わりつつある。
“大切にすべきは、ユーザーコミュニティ”――このことを意識して各社の施策を見ると、その意図がわかってくる。

オンラインストア/サービスの充実は、ユーザーIDを獲得するため。
さまざまなデバイスでコンテンツを展開するのは、コミュニティを拡大するため。
新型PS4/PS4 Proの発表会とAppleの発表会が同日(現地時間9月7日)に行われ、PS4 Proとニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータが同日(11月10日)に発売されるのは、ユーザーコミュニティの維持・活性化を競っているからだ。

浜村代表は以前の講演で、スマートフォンゲームと家庭用ゲームは融合していくこと、リアルとバーチャルの垣根を超えてゲームが新たなステージに突入していくことを語っていた。
その結果が、プラットフォームの概念の変化と、ユーザーコミュニティの取り合いの発生だ。
コミュニティ戦争は、今後さらに進んでいくだろう、と浜村代表は締めくくった。

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ユーザーコミュニティの取り合いは、果てが見えない。
VRにおいて、音楽や映像のコンテンツが数多く展開されているように、いわゆる“ゲーム”と呼ばれるもの以外のコミュニティも、どんどん競争相手として登場するからだ。
それは厳しいことのようにも思えるが、エンタテインメントにまだまだ可能性があるということでもある。
ゲーム業界の未来がどう進んでいくか、我々メディアもしっかり見つめ、取り組んでいきたい。

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