『東方Project』商業・海外展開の裏側、その背景には時代の変化が

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これまでZUN氏の意向で商業展開は一切行われてこなかった『東方Project』。
その状況が一気に変わったのがプレイステーションで展開されている「Play,Doujin!」というプロジェクトだ。

元々は『東方Project』作者のZUN氏が協力する形で「ZUN×PlayStation プロジェクト」という名称で始まったこのプロジェクト、現在は『東方Project』以外の同人作品もリリースし、全ての同人ゲームサークルに商業展開の可能性という名の夢と希望を与えてくれる存在となっている。

今回、その仕掛け人の一人でPlay,Doujin!を取りまとめるメディアスケープの江崎望氏、そしてPlay,Doujin!で作品をリリースしている同人サークルのメンバーであるあんかけスパのチヒロ氏(@chihiro_zys)、CUBETYPEの響谷ゆろ氏(@yuropu)、AQUASTYLE のJYUNYA氏(@_jyunya)の4人にPlay,Doujin!の可能性や未来への展望などについて語ってもらった。

◆『東方』のオリジナル作品ではなく、二次創作はどうか
――では最初に簡単に自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか。

江崎:メディアスケープ代表取締役の江崎と申します。
基本的にはサポートで、イベント等の手配を行って、全体のPRをやらせてもらっています。
それと『東方Project』全体を扱うテーマやキャラクターアバターを制作して販売をさせてもらっています。

響谷:サークルCUBETYPEの響谷ゆろです。
昨年PS4で『幻想の輪舞』を出しました。
今は次の新作『東方紅舞闘V』をPS4とPS Vitaで作っているところです。

チヒロ:サークルあんかけスパのチヒロです。
サークルでは主にグラフィックを担当しています。
2月にPS4で『東方紅輝心』をリリースし、9月20日には北米で海外ローカライズ版がリリースされました。
現在は次回作を制作中です。

JYUNYA:サークルAQUASTYLE代表のJYUNYAです。
グラフィッカーとディレクターをやっています。
昨年6月にPS Vitaで『不思議の幻想郷 -THE TOWER OF DESIRE-』をリリースしまして、現在はPS4とPS Vita向けに最新作『不思議の幻想郷TOD ?RELOADED-』を制作しています。
北米では『不思議の幻想郷 -THE TOWER OF DESIRE-』の海外版『Touhou Genso Wanderer』が2017年2月にリリース予定です。

――では「Play,Doujin!」についてお聞きしたいんですが、プロジェクト発足のきっかけは何だったのでしょうか?
江崎:元々はオリジナルの同人ゲームを出していこうと始まったプロジェクトなんですけど、ソニーさんから「『東方Project』の二次創作を出すことはできないか」という話がありまして。
それでZUNさんに「オフィシャルに公認された形で、『東方』の二次創作を家庭用ハードでリリースできないか」ということを相談したら興味を示してくださって。

──『東方』のオリジナルタイトルではなくて二次創作に目を付けたと。

江崎:ええ。
普通であれば、ZUNさん本人に『東方』シリーズを出してくださいって話になるんですけども、あえて二次創作ってところが興味深かったようで乗り気になってくれました。
その後はソニーさんともトントン拍子に進んでいきましたね。

――サークルさん側としては『東方』の商業化っていう展開についてはどう思われたのでしょうか。

JYUNYA:僕的には商業うんぬんって部分は特に気にしてないんです。
開発も宣伝も全部自分らでやっているので、実際は以前と何も変わらなかったですね。
ただ“リリースする場所が変わっただけ”みたいな。
もちろんプレイステーションに出せたのが嬉しかったっていうのはありましたね。

チヒロ:PS4で出せるっていう話が出た時に、まさか僕たちのゲームを出せることになるとは想像してなかったですね。
お話を頂いて改めて出せるようになったっていうところからは、同人でやっている時と何も変わらなかったです。
心境の変化とかはありましたけど。

響谷:同人ゲームを作っている人たちは基本的にゲーム好きなので、「憧れの家庭用ゲーム機で出せる」となったら手を出すしかないなと。
PS4の開発環境がパソコンとあまり変わらないし、開発メンバーも一緒なので、実作業は今まで通りでした。
「憧れの家庭用なので頑張って出そう」と進めてきて完成したらパッケージまで出来てしまって。
素晴らしくて感動もひとしおってところですね。

――AQUASTYLEさんの『不思議の幻想郷 -THE TOWER OF DESIRE-』はPS4ではなくてPS Vitaでリリースしていますね。

JYUNYA:最初はPS4で考えていたんですが、僕自身がパソコンの前でゲームするのがだるくなっていたこともあって、ソニーさんに「PS Vitaでやりたいです」と言ってみたんです。
そしたらどっちでもいいよって言われたので、PS Vitaで出すことにしました。
けどPS Vitaは色々制限があり、予想していたよりも大変でした。

響谷:うちも次はPS Vita版が出ます。
以前ZUNさんと飲みながら話していた時に「シューティングは大画面で座ってやりたい。
携帯機じゃ弾避けは無理だよね」っていう話で盛り上がったことがあって、その時はそれで洗脳されてしまって(笑)。
なので、PS Vitaは無いなと思っていたんですけど、AQUASTYLEさんの『不思議の幻想郷 -THE TOWER OF DESIRE-』を見たら羨ましくなったので、次はVita版作ろうということになりましたね。

◆CD-ROM頒布は受け入れられなくなってきている
――PCで展開していた同人ゲームを商業の家庭用ハードに持ってくることの一番大きい意味は何でしたか?
江崎:最近はスペックの高いPCを持っているゲーマーや、同人ゲームを取り扱うショップが減り、同人ゲームを頒布する場所がイベントしかないという状態になってきています。
それによって遠方のファンとの距離感ができてしまっている。
それを打破する可能性の一つとして、家庭用ハードが使えるのであれば、それはいいことじゃないかなと思いまして。

――家庭用ハードでリリースされるソフトであれば全国どこにいても入手できますからね。

江崎:それに今はCD/DVDドライブを搭載していないノートPCも多いですし、そういう方の場合はそもそもCD-ROMというメディアが使えない。
じゃあUSBメモリをメディアにしてゲームが頒布できるかというと、そういうわけにもいかないですし。

──同人ゲームをイベントやショップで販売しても、すでに使っているPC自体がそのメディアに対応していないってことは出てきていますね。

江崎:そうなんです。
“頒布するメディア自体がユーザーに受け入れられていない”という状況が始まっていて、残った道はスマホか家庭用ゲーム機なんですが、スマホは市場的に厳しい上に機種依存も激しく、実際売るとなってもマーケットプレイスが大手に占領されていて、僕たちのような同人サークルが今から入るのは難しいんです。
であれば、まだゲームにお金を払ってくれる人がいる家庭用ゲーム機はまだまだ行いけるんじゃないかと。
だから、そこに行くのが自然な流れの様な気がします。
最近インディーデベロッパーさんが家庭用ゲーム機でゲームを出しているのも、そういうことだと思うんですね。
そこに同人ゲームが入ってきてもそれは不思議じゃないのかなと思っています。

――そういった中に『東方』を始めとする同人ゲームを出せる場所があるなら、どんどん進出していくということですね。

江崎:そうですね。
ZUNさんも最近その許容範囲が広がってきていて、その中の一つに同人ゲームの進出も含まれているのかなと。
最近はゲームセンターの『東方』プライズの解禁もありましたし、少しずつ『東方』の商業展開が広がってきていて、ZUNさんもそろそろ商業でやってもいいのかなと思っているのかなと思います。

――「Play,Doujin!」という場で商業展開に参加しているサークルさん達へは、どのように声を掛けていっているのでしょうか。

江崎:サークルさんに開発力があって、PS4の開発環境に対応できるかはもちろん、付き合いのあるサークルさんも色々見させてもらいつつ、ソニーさんからの「このタイトルいいんじゃない?」って要望を元に声を掛けさせて頂いたりとかですね。
最初に「ZUN×PlayStation プロジェクト」を発表した時のPVに選んだのはAQUASTYLEさん、領域ZEROさん、苺坊主さんの3サークル。
その後参加頂いたCUBETYPEさんはフットワークの軽さと新しいことにすぐ挑戦できるということでテーマ化、リリース、メディア化全て一番乗りを果たして頂きました。

JYUNYA:江崎さんから開発力があるってお話がありましたけど、初めてだったので当時は何も考えてなかったんですよ。
「とりあえずやってみよう」くらいで。
で、ゆっくり開発していたらCUBETYPEさんが後から参加してきて「ウチはもう出すけどそっちはまだなの?」と言われたので、「じゃあ出す、6月には出す!」って。
そんな感じでお互い煽り合っているんです(笑)。

響谷:今JYUNYAさんから煽り合っていたって話がありましたけど、お互いマジに煽っていたと思うんで(笑)。
そういう意味では良いライバル関係ですね。
同じ組織ではないけどいい刺激になるんですよね。
サークルは別々だけど「Play,Doujin!」という枠の中で一緒にやっている良い仲間だなと。

江崎:サークルさん同士の繋がりって、企業同士の関係とは違うんですよ。
ウチは「同じ看板の下に皆で集まりましょう」というゆるい関係でやっていますし、パブリッシャーの黄昏フロンティアさんとも広告等でお互いキャンペーンを組んでいこうと言っています。
企業というよりは同じ「Play,Doujin!」の協力関係ということで、あまり縦割り的なものをせずにやっていますね。
実際情報公開に関してはフリーダムというか、専用サイトを内部的に持っていて、内側のコミュニティをしっかり作ってやりとりしています。

――他にはない面白い関係が築けていますよね。
ちなみに現在「Play,Doujin!」に参加されているサークルさんはどのくらいなんですか?
江崎:参加表明済みのサークルさんだけで13サークルです(2016年10月現在)。
最近は外部から「参加できますか?」ってお話をいただくこともあります。
やっぱり機密保持の関係である程度の実績として、同人で完成品1本はリリースしている等の条件はありますが、それに適合するのであれば「やってみましょうか」と割と緩くOKを出しています。
その上で、実際できるのであればプロダクトにし、やっぱり難しいということなら今回は白紙に戻しましょうと。
そこはもうダメ元で気張らずにチャレンジ頂けるようにしたいんです。
ある程度ソニーさんのレギュレーションにも適合するようにとは言っていますが、過度に締め付けないのは一つの方針ですね。

――サークルさんをまとめるという意味では普通の会社組織や団体とも違うわけですが、メディアスケープさんとしてもパブリッシャーとしてやっていくのは初めてだったと思うので、大変だった部分はあったんじゃないでしょうか。

江崎:普通なら難しいのかもしれませんが、全員が同人ゲームという枠の中で育った人間ということもあって、今のところは意思疎通しやすいです。
逆に難しさよりは楽しさや、忙しさの中に喜びを感じている状況ですね。

――サークルさん側としては先ほど家庭用ゲーム機向けに商業展開することになっても今までと特に変わりはないという話がありましたが、周辺の状況や気持ち的に変化が出てきた部分があるとしたらどんな部分でしょうか。

JYUNYA:開発だけに絞っていうならば、PCで作って出力する機種が違うだけで作り方も全く変わらないので、いい時代になったなと思います。
むしろ、同人PC版にあった「僕のお父さんのPCでやったんですけど動きません」とか、「最新のPCなんだけど動きません」という問合せへのカスタマーサポートがいらなくなったのは変わったというか楽になった点です。
PS4やPS Vitaなら全員動くというのが前提なんで。

──同人とは言えユーザー対応は大変そうですもんね(笑)
JYUNYA:気持ち的な意味では「雑誌で見たよ!」とか、「ニュースサイトで見たよ!」って言われるようになったことですね。
マニアックな趣味でしかなかった同人ゲーム制作が露出して、見られて、お店ではPVが流れているって状況を見ると、自分たちが今凄く注目されているんじゃないかって(笑)。
日の目を浴びている感じが凄く嬉しくて、モチベーションが上がり、気分が良かったっていう変化はあります。

チヒロ:同人では“同人をわかっている方”がゲームを買っていくので、面白い面白くないって感想は全てサークルや作者に直接来るんです。
でも「Play,Doujin!」によって『東方』に詳しくない方がプレイすることも増えてきているので、プレッシャーを感じることが出てきました。
同人ゲームって「好きなものを作ったから見てくれ!」っていう気持ちで出すんですけど、家庭用ゲーム機で出すことによって「独りよがりじゃなくサービス精神を出していかないといけないな」と気持ち的に変わってきましたね。

響谷:ウチでは新作を出すたびにエゴサーチをするんですけど、同人でPC用に出していた時は年齢層が高かったんです。
それに対して家庭用ゲーム機で出した後に色々と調べてみたら、中高校生が凄く増えたなと。
濃い層から薄く広くの層まで届くのは、家庭用のいいところだなと思いましたね。

――そういえば現在「Play,Doujin!」に参加されているサークルさんは全て法人化されていませんよね。
例えば今後、サークルさんが法人化したとしても「Play,Doujin!」での扱いは変わらず、といった感じでしょうか。

江崎:変わらないと思います。
仮に法人化されてもそれは構わないと思っています。
「Play,Doujin!」に参加されるタイミングではサークルさんであった方がいいと思いますが、開発する側の思いの方が大事ですね。
もし法人化したいというサークルさんが出てきた時は、それをどうやって実現できるかを柔軟に考えられたらと思っています。

――確かにサークルさんだけで実現できないものを、実現するっていうテーマもありますもんね。

江崎:日本における法人システムの関係上、なかなか個人で家庭用に手を出せません。
その壁をどう越えるか、というところで出した結果が、ウチが代表になるというシステムです。
今のところそれで上手く回っていて、今後どう変わるかはありますが、今みんなの作りたいものを大事にするにはこれだというところですね。

◆『東方』文化は素晴らしいから海外に出るべき
――「Play,Doujin!」では海外展開も行われていますが、これはプロジェクト立ち上げ時点から構想があったのでしょうか。

江崎:「海外展開をしたい」というサークルさんが出てきた時に、「僕らはそれを実現できる方法を考えましょう」というのはありました。
海外展開が実現したきっかけとしては、以前「プレコミュCaf?」というプレイステーションの生放送番組で日本一ソフトフェアさんの方にご挨拶する機会がありまして、その時に「海外版ローカライズもできますよ」というお話を伺ったんです。
日本一さんといえばキャラクター展開も非常にお上手なので、『東方』の海外展開をお手伝い頂くことはできますかと伺ったところ、とんとん拍子に進みまして。

──なるほど、日本一さんとの出会いが海外展開へのきっかけだったと。

JYUNYA:あと海外展開については知り合いが、以前から「『東方』の文化は素晴らしいから文化として海外に出るべきだ!」って言っていたんです。
“個人から世界へ”みたいなことをやれればいいねと。
僕もそれを聞きながら「コミケで日本デビューして、そこから世界へってカッコイイな」って思っていて。
その流れで日本一さんと出会ったというのが大きかったと思いますね。

――ちなみに『東方』って海外での認知というのはどんな感じなんでしょうか。

江崎:結構認知されているんですよ。
アニメイベントにZUNさんが出るって情報が出ると、かなりお客さんが来るし、『東方』のファンイベントも開かれたりしています。
あと日本の即売会に海外の方が来たりしますね。
中にはコスプレされている方もいたりして。
なので、海外ファンの認知度は高いと思います。
海外にローカライズされていないゲームも有志による翻訳を頼りに遊んでいるという状況なので。
それに海外ではしっかりした『東方』のwikiも存在していて、キャラクターも一通り英訳されています。

響谷:うちも海外版を作る際には海外の『東方』wikiを参考にしていますね。

JYUNYA:海外の方が海外版『東方』wikiの用語を使っているから、変に翻訳するよりもそれに合わせるっていう感じです。
『東方』用語は『東方』wikiを踏襲し、それ以外の単語は普通に翻訳しています。
例えば、東方のスペルカードや東方由来のアイテムがあったら、そのまま訳さずにローマ字読みで読ませてくださいと。
まぁ、どこまでが『東方』のアイテムなのか、って部分もあるんですが。

響谷:ウチがAQUASTYLEさんと違う部分としては、1本目は自分のサークル内で翻訳して、それを日本一さんに編集してもらいました。
次回作では最初から日本一さんにお願いしようと思っています。

――『東方』は和ゲー色が強いのでローカライズする際の翻訳に関するエピソードは色々ありそうですね(笑)
JYUNYA:一番苦労したのは漢字一文字の表現。
例えばローグライクのアイテムで「金」「徳」「力」といった印一文字ありますよね。
それらを翻訳して「Power」だと文字がはみ出すし、略して「P」としてもPを意味するものはいっぱいある。
それで海外の方にリサーチしたりして、協議の結果「PH」や「PW」と二文字でいこうと。
そのまま漢字一文字でもいいかなとも思ったんですが、例えば僕らがハングル一文字で書かれたものを脳で記憶できるかっていうと違うなと。
僕らは日本人だから日本語をデザインですと言い張れるけど、全く知らない言語だったらデザインとして見ることができませんよね。

──言語の違いは悩ましい海外に移植する際は悩ましい問題ですよね。

JYUNYA:あとはUI関連の縦書き部分も悩みましたね。
和風感を出すために縦書きを使ってたんですが、それをどう訳したもんかと。
横書きの英数にする手もありましたが、僕らは日本人で僕自身のためにゲームを作っているのに、海外表記のためにデザインを変えるのは何か違うんじゃないかと思い、でデザインを変えずに英文字を縦に書いちゃおうと。
見辛いんですけど、これは和ゲーなんだから迷ってもしょうがないってことで。

チヒロ:うちのゲームでは、ステージのテクスチャの中に屋台に書かれた“りんご飴”等の日本語がいくつかあったんですけど、そこはもうゲームと関係ないところなので、日本の文化として、そのまま出させてもらいました。
例えば目的地の看板の名前とかゲーム中に読めないと困るものだけは翻訳していますね。

響谷:彼らは和ゲーである『東方』の世界を感じたくて買うんだから、その世界を崩してまで向こうに合わせるのも違うんじゃないかとも思うんですよね。
結果はわからないですが、これは海外のユーザーさんに聞いてみたい部分でもありますね。

◆10〜20代がファン層の80%を占める『東方』というジャンル
――商業展開を開始したことで、『東方』のファン層が変わってきたという実感はあるのでしょうか。

江崎:変わってきたというか、変わっていたものが見えたという感じです。
『東方』のイベントに行くと若い方を結構見かけていたんですが、実際にどれくらいいるのかはわからなかったんです。
でも家庭用でゲームを出したところ、中高校生のツイートが増えたのがわかったので、やっぱり居たんだなと。
今までは何となく居るんだろうな程度だったのが、可視化されましたね。
あと去年の「例大祭」で一般参加者に年代のアンケートを取った結果、10代が半数を占めたんですよ。

――それは驚きますね。

江崎:ええ。
10代が半数、残り半数の40%が20代で、約8割を10代と20代が占めてました。
一般参加層者の年齢層が予想を超えて低かったっていうのが分かりましたね。

──自分ですら『東方』に興味を持ってゲームやアレンジCDを買い漁って10年は経っているのに、今10代のファンがそんなに多いっていうのは驚異的です。
何をきっかけに入ってくるのか、そこは気になりますね。

JYUNYA:『東方』って去年で20周年なんです。
ニコニコ動画で『東方』コンテンツが盛り上がって「『東方』のお客さんめっちゃ増えたよね」とか言っていましたけど、それですらもう10年前。
20年も経てば『東方』への戸口や入り口って全然変わってくると思うんです。

──確かに常に増え続ける若いユーザー層が同じ戸口から入ってくるとは考えられないですしね。

JYUNYA:入り口が一般層に近づいているんだな。
最近だとゲームセンターの音ゲーですよね。
どの筐体にも『東方』楽曲が入ってる。
ディープな層やネットの中でライトだったニコニコ動画すらはるかに超えて、ゲームセンターという一般的な場所に『東方』の入り口があるんです。
そこに僕らが家庭用ゲーム機という一般の入り口に来て、さらに近づいたのかなと。

――ユーザーは若い方を中心に増えていっているということですが、逆に作り手──『東方』二次創作やオリジナル同人ゲームを作るサークルさん自体の数って増えているんですか?
JYUNYA:同人ゲームのサークル数は増えてないと思います。
今は個人がネット上でその才能を世に知らしめることができる時代ですよね。
だから集う必要がないし、集ってゲームを作るってことをしなくなってきているんです。
昔は「みんなで何かやるぞ、この指集まれ!」って集まっていったんですけど、今はもうその必要はないので、よほどゲームソフトを作りたいっていう目標を持っている人たちが数人集まらない限り、同人ゲーム制作サークルが増えないんじゃないかなと思うんですよ。

──とりあえず個人で表現しようってところに落ち着いちゃいますもんね。

JYUNYA:あとは最近ライト層が増えた結果、“同人ソフトというご祝儀”が効きかなくなってきましたね。
僕らが頑張って作っても一般の家庭用タイトルと比べられてしまいます。
「同じ500円や1000円で、なんでこんなもんなの?なんでサポート悪いの?」とか。
だからもうそういう意味ではリスクもあり、作り手に夢がなくなってきたのも同人ゲームサークルが増えない理由なんじゃないかなと思っています。

響谷:僕もこういった同人ゲームサークルで活動を続け、家庭用でも出してってやってきましたけど、そういう活動をする最後の世代なんじゃないかと勝手に思っているんです。
(渡辺製作所さんやTYPE-MOONさんのような)僕らの1個上の世代の方々は法人化してガーっと上がって行き、僕らのような一個下の世代はメディアスケープさんの力によって僕らが僕らのままでゲームを出せるという。
僕ら以降の世代はスマホとかで個人の才能を生かしていくんじゃないかなって。

チヒロ:僕は世代的にはファミコンの末期頃からゲームの進化に立ち会ってきた世代で、ゲームを作ってみたいっていう思いが小さい頃から強かったんですよ。
だから、こうやって声をかけていただいて商業で出せるチャンスがあるっていうのはすごく夢があるなと。
なので、若い世代の方でゲームを作ってみたいって思いが少しでもある子たちには、どんどん出てきてほしいなと思っています。

――メディアスケープさんとしては若い世代の方たちに同人ゲームサークルとして入ってきて欲しい気持ちはありますか?
江崎:こちらとしても面白いゲームを作っている方には、声を掛けたりして行ければと思っています。
でも実際個人でできる環境になったというのは間違いないと思いますね。
時代に周辺の環境が追い付いたのかなと。
なので、そういった個人制作者の方もバックアップできるようにとは思っています。
ゲーム制作者の輪ってどうしても広がりにくいですし、同人ゲームが他のエンタメジャンルに食われがちなのはどうしようもないと思うんですけど、その中で出来ることはまだあるというのが僕らの持論なので。
もうちょっとあがいてみたいと思っていますね。

――僕もライターとして10年以上同人ゲームを応援している立場なので、まだまだ盛り上がっていって欲しいと思っています。
では「Play,Doujin!」の今後の展開について、どういった未来を目指してビジョンを描いているのでしょうか。

江崎:パブリッシャーとしては「サークルさんに一本でも多く新作を出して頂く」ということを長く続けていきたいです。
こういうプロジェクトって途中で終了するのが一番いけないことだと思うので、ちゃんと続けていきたいですね。
あと最近は色々なイベントに「Play,Doujin!」でブースを出しているんです。
今は東京がメインですが今後は地方のイベントにも出ていきたいです。
そこでPS4/PS Vitaでも個人制作のゲームが遊べるんだということを、少しでも多くの人に知って頂きたいです。

――ありがとうございます。
リリースされるゲームが増えるに従って更に盛り上がっていけることを祈っています。
最後にみなさんの新作情報とかあればぜひ宣伝をお願いします!
JYUNYA:12月22日に最新作『不思議の幻想郷TOD- RELOADED-』が発売されます。
シリーズ集大成で最終作ですので内容には是非ご期待ください!そしてその前の12月8日には黄昏フロンティアさんから『東方深秘録 〜 Urban Legend in Limbo.』が出るんですけど、そちらは原作になります。
12月は2本、ほぼ連続の形で『東方』がパッケージで登場し、全国のゲームショップに並びますのでよろしくお願いします。

響谷:うちは今年11月2日にPS VitaとPS4で対戦格闘アクションゲーム『東方紅舞闘V』が出ます。
アドホック対戦もできますし、プレイステーションネットワークでも対戦ができて、それぞれ交互にちょっとお安くなるみたいなところもあります。
あと『幻想の輪舞』を購入していると、PS4がそれを認識して『東方紅舞闘V』から『幻想の輪舞』に対戦に行けるという連係機能もあります。

チヒロ:うちは現在解禁できる情報がないのですが、『東方』のアクションRPGを作ってみたいということで集まったサークルなので、次の作品も集大成にしようと準備しています。
こちらの制作をがんばって続けたいと思います。

──いやぁ……全作楽しみです。

江崎:これらの新作をきっかけにまた戸口が広がって、いい意味でのライトな方がどうやって『東方』の界隈に融合して行くのか楽しみですね。
『東方』って知る人ぞ知る、みたいな部分がまだありますから。

──商業展開が更に充実してきた頃、『東方』というジャンルをとりまく世界もまたガラッと変わってきたりするかもしれませんね。

江崎:そうですね。
あと、最後に言っておきたいことがあるんですけど、「Play,Doujin!」のいいところはどこまでも自分が主役ってところなんです。
あなたがたが主役です!
――おお!大事なところですね。
今後のPlay,Doujin!、本当に楽しみです。

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