『シルバー事件』HDリマスターPS4版の開発経緯や、当時の開発エピソードを須田剛一氏に訊く

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●よりディープに“須田ゲー”の原点が分かる!
アクティブゲーミングメディア(PLAYISM)より2017年上半期に発売予定のプレイステーション4用ソフト『シルバー事件』。
本作のプロデューサーであるグラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏(オリジナル版ではディレクター)のインタビューを掲載。
オリジナル版、HDリマスター版、プレイステーション4版の違いや、『シルバー事件』の開発経緯や、“フィルム・ウインドウ”システムの誕生秘話などをうかがった。

※週刊ファミ通2016年11月17日号(2016年11月2日発売)の記事を再編集したものです。

●HDリマスター版でのこだわりとは?
――まずは、HDリマスターPC版が全世界へ向けて発売されることになった経緯を、改めてお聞かせください。

須田1999年に発売された『シルバー事件』ですが、日本国内でしか発売されませんでした。
それでいつか世界へ向けて発売したいな、という思いがあったんです。
そこであるとき思い立ちまして、約9年前に『シルバー事件』のニンテンドーDS版を英語対応で出す!と、宣言しました。
実際に移植までは進んだのですが、ニンテンドーDSの2画面を活かすことがまったくできなかったんです。
もうひとつ問題としてあったのが、膨大なテキスト量の英語翻訳です。
翻訳は信頼できるところに頼まないといけませんし、テキストのクオリティーのチェックも含めて、条件を満たすには難しい壁がありました。
当時もいろんなめーかーと掛け合ってはいましたが、どうしても英語化を任せる踏ん切りが付くラインには達しませんでした。
そして2年前、アクティブゲーミングメディアさんから「自分たちなら自信を持って翻訳ができます」という話をいただいたんです。
翻訳は『シルバー事件』を日本語でクリアーしているスタッフが担当し、海外スタッフの多い会社なので、とにかくチェックも徹底的にできると。
そこでようやく、踏ん切りが付いたという形です。

――言葉の問題は解決でき、そこからHDリマスター化につながっていくわけですね。

須田やはりやるのであれば、現代の解像度に合わせないといけないので、そこもしっかりできるのか検証しています。
イラストなどは当時のオリジナルデータが残っていたので、バッチリ綺麗にできました。
ただし、3Dグラフィックなどは、さすがに当時のデータは使えません。
その点もアクティブゲーミングメディアさんが全部作り直してくださって、ようやく納得のHDリマスター版ができました。

――ではつぎに、プレイステーション4版の開発が決定した経緯もお聞かせください。

須田じつは少し前からプレイステーション4版を出す、という計画はあったのですが、これもまたなかなか思うように進まなくて。
そんなあるとき、東京ゲームショウ2016の真っ最中に、日本一ソフトウェアさんに『シルバー事件』のお話をしたら、すぐに新川宗平社長とNISAの山下社長にお会いすることになりまして、もう会った瞬間に「ぜひお願いいたします」という話になったんです。
それが後押しとなり、プレイステーション版の開発が決定しました。

――ということは、プレイステーション4版は日本一ソフトウェアさんから発売されるのでしょうか?
須田いえ、日本ではアクティブゲーミングメディア(PLAYISM)から発売され、海外版を日本一ソフトウェアで発売する、ということになりました。
キャラクターや作品をしっかり尊重してくれる会社ですし、『ダンガンロンパ』シリーズなども海外では日本一ソフトウェアさんが発売し、しっかりファンを獲得しているので、強力なパートナーが増えたと思います。

――では、HDリマスター版とオリジナル版で、変わっている部分などを教えてください。

須田もちろんシナリオなど、基本的にはオリジナル版とほぼいっしょですが、イラストに関しては、『シルバー事件25区』のときに描き下ろして頂いたイラストが、第3話の“パレード”に新たに追加されています。
今回、ようやく日の目を見ることができました。
あとは、3Dモデリングをすべて作り直しています。
とにかく綺麗にしすぎずに、プレイステーション時代のポリゴンの良さや“ジャギ”の雰囲気をあえて残しています。
そこはいちばん時間
をかけたポイントですね。
さらにプレイレスポンスを良くしているので、より遊びやすくなっていますよ。

――たしかにプレイしていて、すごく当時のポリゴン感があるのに、とても綺麗なグラフィックに感じました。

須田そこの落としどころは本当にこだわったポイントなので、PC版での反響も「バランスがとてもいい」と好評をいただいています。
プレイステーション感って今見ても僕は悪くないと感じていて、ああいった雰囲気も、ポリゴン芸術の一部だと思っていて、あの雰囲気を残したかったんですよね。
自分としては、その匂いをうまく出せたと思います。

――ほかには、HDリマスター版でこだわっていたポイントはありますか?
須田やはりテキストの英語化ですね。
『シルバー事件は』表のシナリオがあり、ジャーナリストの目線で裏を描くという、ふたつの軸で展開される中で、行ったり来たりする言葉の意味や伏線の張り方など、かなり複雑な変化球をたくさん投げています。
それを完璧に英語化できるかどうかが、本当に不安だったんですよ。
そこを翻訳スタッフがしっかりとシナリオを読み込んでくれて、“俺”と呼んでいるのは自分のことなのか、それとも“己(おのれ)”のことなのか、という意味合いも全部確認していただきました。
僕は英語ができないので、残念ながら自分自身ではチェックができないのですが、海外ユーザーからのテキストの評価はすごく良いですよ。

――海外のユーザーからはどのような反響をいただいていますか?
須田いまのところ、怖いぐらいすごく良いゲームだという評価をいただいています。
ただ、現在はいままでグラスホッパー・マニファクチュアの作品を遊んでくれたファンの人たちが買ってくださっているのだと思うので、反応の良さはなんとなく伝わってきます。
今後プレイしてくださる、僕たちのゲームを知らない人や、「おもしろうなゲームがあるな」って感じで、ふらっと興味を持ってくださった人たちの評価がとても気になりますね。
まったく違う目線で『シルバー事件』を遊んでくださると思いますから。
1999年当時リリースされた、日本のインディーゲームを遊んでもらって、どんなことを思うのかなと楽しみです。
さらに、プレイステーション4版では、現代の若いゲーマーたちに遊んでいただけるチャンスですよね。
まったく感じたことのない体験をしてもらえると思うので、期待がありますね。
ボロクソに言われちゃうのかなぁって心配もありますが(笑)。

●気になるプレイステーション4版の特徴を訊く
――プレイステーション4版は、どのような販売形態でリリースする予定ですか?
須田パッケージ版と、ダウンロード版の両方を用意しています。
ダウンロード版はPC版と同じ価格帯で、低価格で遊んで頂けると思います。
パッケージ版は、かなり豪華な内容にすることを予定していますね。
海外限定ですでに、PC版の限定パッケージが発売されていますが、より豪華にします。

――それは楽しみですね。
プレイステーション4版の追加要素などは予定されていますか?
須田今回プレイステーション4番では、弊社のサウンドチームによるリミックス楽曲をさらに追加しようと考えています。
あとですね、じつは操作方法を変更したいと思っています。
完全に現代の操作方法に合わせた仕様に、より操作しやすく、プレイステーション4専用だからこそできる操作方法にしたいと考えていて、そこはぜひ楽しみにして頂きたいですね。
オリジナル版の操作は本編のチュートリアルで、主人公の上司であるナツメダイゴが「操作を習得するまでに、若干の時間はかかるだろう」と言うくらい複雑でしたが、ひょっとしたらプレイステーション4版は、「操作は少し洗練された」なんてセリフに変えるかもしれませんよ(笑)。

――(笑)。
お話は過去に遡りますが、『シルバー事件』を開発した当時、こだわったポイントなどはありますか?
須田こだわる、こだわらないのもっと奥底の話かもしれません。
当時ヒューマンという会社に在籍していた無名の僕が、いきなり独立して作った会社で作り出したゲームですから。
メジャーな会社から独立したわけではないので、バックボーンが何も無くて。
その中で新しいものを作るというチャレンジから、作品が売れるのかどうなるのかも分からないままで、不安のほうが多かったですよ。
社長という立場もありましたが、その中でチャレンジをとにかくしていこうと思い、自分の中でずっと炎を燃やしていないと、糸が途切れてしまう。
それくらいの緊張感の中で作っていました。
僕の中では『シルバー事件』に自信があって、作品の完成系イメージもあるんです。
それをスタッフに伝えながら作成していくのですが、気の知れたスタッフは別ですが、立ち上げ当時なのでまったく信頼関係の無いスタッフも居るわけで、そのスタッフたちに「これをやる意味はあるのか?」、「本当におもしろいのか?」という疑問に応えていかなきゃいけないわけですよね。
でも、このゲームがどんな作品なのかって自分でも説明ができないんですよ。
こういう作品はそれまでに無かったので、何かに例えることができないんですよね。
とにかく、雲を掴むような感覚の中で作っていったんですよ。
社内だけでなく、アニメパートもあれば、実写パートやCGパートなどの、いろんな外部スタッフにも、ひとりひとりにそれを刷り込んでいくわけです。
だから仕事の大半は、僕のイメージを理解してもらうことが大半でしたし、アイディアを思い付いてもかんたんに伝えられることじゃなくて。
だからこそ、相当な緊張感の中で、30代の僕の怒りや気合が詰まっているかのような作品ですね。
モノづくりをしている中で、『シルバー事件』の当時が、いちばん尖っていたと思います。

――たしかに、須田さんのギラギラとした野心のようなものが作品全体から伝わってくる作品だと思います。

須田HDリマスター版の作業などで、『シルバー事件』当時のことを思い出すと、当時の僕が蘇ってきて、まるで別人格かのような30代の僕が見えてくるんですよ。
とても気合が入っていて、本当に頑張っていたと思いますよ。
ヤツはちょっとキレてまして、『シルバー事件』をゲーム業界の人たちに投げかけようと思っていなくて、世界中に居る同じ世代の、映画関係者、アート関係者、音楽関係者などに向けて、日本からこういうスゲーものを作ってやる!っていう感覚だったんですよ。
ゲーム業界の地位ですとか、売り上げとか、そんなことは全部ふっ飛んでましたね。
ゲームっていうのはもっとすごいモノなんだってことを、ほかのジャンルの人たちに分からせてやる!って気合でしたよ。

――独立し、須田剛一という個人の立場から、作品性をすべて出そう考えたわけですね。

須田とにかく自分の中でやりたいことや、表現したいことを全部吐き出したかったんですよ。
だから実写もアニメもありますし、もっとやりたいくらいでした。
自分にとって、表現として料理できないものは無い。
どんな材料がきても俺のシナリオで形にしてやる!そういう勝ち負けの世界で挑んでいました。
でも、発売後は正直ほとんど売れませんでした。
当時はその思いや気合が届かなかったんだと思います。
しかし今回、HDリマスター版や、プレイステーション4版が出る、ということは現代になって、ようやく届いたってことですよね。
そこが僕にとっては嬉しい誤算と言いますか、剥き出しの自分自身がようやく認めて貰えたのかなと。

――会社を立ち上げたとき、最初からアドベンチャーゲームを作ろうと考えていたのですか?
須田そうですね。
初期のメンバーが基本5人だったので、この人数できるものはアドベンチャーゲームしかないなと考えていました。
その前に関わったタイトルがアドベンチャーゲームの『トワイライトシンドローム』シリーズ、『ムーンライトシンドローム』だったという流れもありましたし、自分でテキストを書いて物語を作るというスキルが自分の中でできあがっていった段階でした。
しかし、自分がシナリオ書きたいというよりは、自分がゲームの素材になると思ったんです。
たとえばプログラム担当は、“フィルム・ウインドウ”システムでプログラマーがプログラム上で文字の位置やフレームを出しているので、デザイナーでもあります。
そしてイラスト担当、背景の3D担当が居て、じゃあ僕が成果物として何を出せるのか考えると、それは言葉なんですよね。
言葉でボリュームを出し、少ない人数でやり応えを出せるものと言えば、テキストベースのアドベンチャーしかない。
でも、普通のアドベンチャーではなく、新しいものを出したいと考えて、このアドベンチャーというジャンルを選んだんです。

――物語的にも『シルバー事件』は、『ムーンライトシンドローム』と繋がりがありますよね。

須田厳密に言うと難しいのですが、繋がっているようで、繋がっていないような感じですね。
僕の中で『ムーンライトシンドローム』はとても重要な作品で、『シルバー事件』にも影響されています。
というのも、『ムーンライトシンドローム』は、開発中に、現実で凶悪な殺人事件が起きてしまい、自主規制ですが、かなりシナリオや表現を変更せざるを得なくなってしまい、あのとき、犯罪のせいで自分の作品が壊されてしまいました。
なぜ、こういった連鎖が起きてしまうのか?なぜ犯罪者は生まれてしまうのか?犯罪者は何を考えているのか?そこで、次回作では犯罪を描こうと考えて、その感情の延長線上で、ウエハラ・カムイという男や、『シルバー事件』が生まれたとも言えます。
なので、作品が繋がっているというより、僕の中での感情が密接に繋がっているからこそ、『ムーンライトシンドローム』と『シルバー事件』はリンクしているんだと思います。

――須田さんが表現したかったものと、少人数だからこその制約がいろんなアイディアに結びついているわけですね。

須田あとは現場のライブ感ですね。
例えば“[Placebo]編”は最初、ただの日記のようなメモだったんですよ。
それが“[Transmitter]編”が終わったあとに読めるものだったものが、作っていく中で発展していって、シナリオとして独立したんです。
そして“[Placebo]編”を担当している大岡まさひさんの解釈を聞き、そのつぎのシナリオで、僕がその解釈をあえて裏切ったり。
そういったライブ感が『シルバー事件』をより色濃くしたのだと思います。

――それでは、本作の象徴でもある“フィルム・ウインドウ”システムは、どのような発想から生まれたのですか?
須田プレイヤーの目線を変えたかったんですよね。
画面には絵があって、テキストがあっても、プレイヤーはテキストにずっと目がいくわけじゃないですか。
どんなにいいイラストがあっても、あくまで情報にしかなっていなくて。
テキストとイラストだけなんですけど、キャラクターがここに居て、こういうことが起きているということが演出できれば、シーンとしてプレイヤーの記憶により残るんじゃないかなと。
最初は未知数でしたが、だんだんと形になっていったときに、これは成功したなと実感しました。
スタッフたちも“フィルム・ウインドウ”の形ができあがってきた段階になって、「あれ、このゲームおもしろいぞ?」って思い始めたんです。
“フィルム・ウインドウ”を通して、そこからようやくチームが団結していきましたね。

――“フィルム・ウインドウ”システムはどのような感じで調整していったのですか?
須田もう全行程、全フレームを僕がチェックしました。
プログラマーに「もうちょっとココを遅くして」とか、「ここのフェードアウトを素早くして」とか言いながら、とにかく全力やり切りましたね。

――『シルバー事件25区』のHDリマスター版を期待しているユーザーも多いと思います。

須田ぜひやりたいですね。
今回発売して、「これで終わりです」ってことになってしまうと、ただただ昔の作品を復刻しただけになってしまいますよね。
ですが、このシリーズってコアメンバーの4人である、僕と大岡まさひさんがシナリオ書いて、イラスト担当の宮本崇さん、池田正輝さんが絵を描いてくれれば、すぐに作れると思うんですよ。
『シルバー事件25区』のHDリマスター版ももちろんですが、過去、未来のお話など、追加シナリオをしっかりとやりたいですね。

――それでは最後に、本作を楽しみにしているファンのみなさんにメッセージをお願いいたします。

須田1999年当時、プレイステーションで発売された作品が、HDリマスター化され、プレイステーション4に登場する、というのはなかなか無いことだと思います。
当時、まったく無名だったインディーズの僕たちの作品を今の若い世代の人たちに遊んで頂けるということが、とにかく嬉しいですね。
僕の作るゲームは“須田ゲー”と呼ばれることが多いです。
それは僕も自覚していて、『シルバー事件』は、僕が作りたいもの、僕の100%以上のものをブチ込んだ作品です。
これこそ、本当の、原点である“須田ゲー”です。
ぜひ1度手に取って、体験してみてください。

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