復刻版ファミコン、父と息子の絆を紡げるか
ここ数年、自分が子供の頃に使っていたおもちゃを息子にお下がりとしてあげてきた。
それらはゴミ同然のおもちゃではなく、筆者にとっては家宝であり、コレクターが見ればうらやましがるようなものだ。
小さな博物館を開けるほどの数のビンテージものミニカーも譲った。
映画「スター・ウォーズ」のエピソードIV、V、そしてVIのバトルシーンをすべて再現できるほどの数のフィギュアも与えた。
ちなみにその中にはイウォークも含まれていた。
だが息子がそのバトルシーンを再現したかと聞かれれば、答えはノーだ。
それどころか、ライトセーバーを使った戦いごっこすらやってくれない。
ミニカーたちもわが家の地下室の床に無造作に投げ捨てられている。
荒廃したその様子は、ドラマ「ウォーキング・デッド」のワンシーンのようだ。
しかし任天堂が復刻版ファミコン「NESクラシック・エディション」(日本では「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」)を発売したことで、再び希望がわいてきた。
これならば筆者が子供時代に熱中したおもちゃであっても、息子も一緒に楽しんでくれるはずだ。
息子は暇な時間があれば常にビデオゲームで遊んでいる。
筆者も昔はそうだった(子供の頃に一週間の家族旅行に行った際、出発前にゲームをポーズし、帰宅してすぐに再開できるようにしておいたこともあった)。
1980年代に登場したこの8ビットのゲーム機の復刻版で「ゼルダの伝説」、「メトロイド」、そして「スーパーマリオブラザーズ」などの名作30作をプレーし続ければ、7歳の現役ゲーマーと40歳になる元ゲーマーの父親が絆を深められるだろうと考えた。
「コントローラーのコード」に困惑
NESクラシック・エディションの開封は2人で行った。
息子が本体を取り出す横で、筆者がコントローラーの開封を担当。
「これが、コードっていうんだ」と自分が説明すると、息子は困惑した表情を見せた。
しかし電源を入れてシステムを起動すれば、スタート画面から漏れる明かりが2人を照らした。
30作品をスクロールしながら見ていくと、個人的に1番のお気に入りである「パンチアウト!!」があった(日本版には含まれていない)。
1980年代には各家庭のテレビの前に子供たちが陣取って、誰もがNESで遊んでいた。
その中でも「パンチアウト!!」をプレーすれば、どんなにひ弱な子供でもボクシングの世界チャンピオンになれた。
筆者と息子は何日にもわたり、時間があればNESクラシック・エディションを囲んだ。
朝の通勤や通学時間前にも遊び、夕食後もお風呂ではなく一緒にゲームをしたこともあった。
その中であらためて解説をしなければいけなかったこともいくつかある。
「2人用プレー」と書かれていても、必ずしもひとつの画面で同時に遊べるわけではないと教えた(昔は2人用プレーといっても順番に遊ばなければいけないゲームがあった)。
ゲームの中のキャラが死ねば、出だしからやりなおさなければいけないことも説明した。
息子はそれを面倒だと感じていたが、それは乗り越えなければいけない。
生きていく上で技術を身につけるには、何事も繰り返し練習することが不可欠だからだ。
NESクラシック・エディションの四角いコントローラーが、息子の小さな手にぴったりとフィットしていたことがほほえましかった。
力を入れてボタンを押し、ドンキーコングを倒そうと集中しているその様子を見て満足感を覚えた。
2人で「ダブルドラゴン? ザ・リベンジ」 をプレーした際は協力して敵を倒し、どちらかが操作を間違えて死んだ時はお互いに笑った。
その中でも1番時間をかけて遊んだのが、フットボール・ゲームの名作である「テクモ・ボウル」(日本版には含まれていない)だ。
ゲームに登場する「ロサンゼルス」のチームは、もともとロサンゼルス・レイダースをモデルにしている。
最強のランニングバックであるボー・ジャクソンが所属しているので、ロサンゼルスを選んでおけば間違いはないと息子には教えた。
息子はそのボーを操作して80ヤードのタッチダウンを決めると、わが家のリビングにあるテレビの前で喜びのダンスを始めた。
その姿を見て父親として誇りを覚え、息子との間に絆が紡がれている実感が湧いた。
子供の思い出を作るということ
米国任天堂で営業マーケティング部門の副社長を務めるダグ・バウザー氏は、NESクラシック・エディションを通して親子の絆を育みたかったとしている。
「子供は親が関心を持っていることに自然と引かれる傾向があり、ビデオゲームについては特にそうだ」と話す同氏は、「現代のゲームでは子供にかなわなくても、これならチャンスがあるだろう」と続ける。
しかし親がどれほど努力をしても、子供たちが一生覚えていてくれるような思い出を作ることは容易ではない。
一緒にAボタンとBボタンを連打してピーチ姫を救おうとした時間のことを、息子がいとしく思い出してくれる日はくるのだろうか。
ペンシルベニア州立大学のゲアリー・クロス教授によれば、父親は子供の経験を共有し、自らが子供時代につけた知恵を伝授したいと願う傾向があるが、実際には子供たちの世界を「よく分かっていない」という。
NESクラシック・エディションをプレーしながら、生きていく上で大切なことを息子には教えたつもりだ。
しかしそれをどの程度覚えてくれたのかは、分からない。
そんなある朝、息子が筆者をリビングに呼び出し、「テクモ・ボウルで遊ばない?」と誘ってきた。
火曜日の午前7時15分のことだった。
学校に行く時間まではあと20分ほどある。
筆者はわずかな量のコーヒーを飲み、息子の隣に座った。
「僕がロサンゼルスね。
このチームが一番強いんだ」と息子は教えてくれた。