大ヒット「FF15」を完成させた2つのルール

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11月29日に世界同時発売したゲーム「FINAL FANTASY XV(以下、FF15)」。
スクウェア・エニックスの大人気シリーズ「FINAL FANTASY」の最新ナンバリングタイトルだ。
発売後約1カ月で、全世界で500万本突破。
さらに売り上げを伸ばしつつある。

FF15は、シリーズ初めての「オープンワールド」(広大な世界を自由に動き回って探索・攻略できる)ゲームデザインを採用。
旅をする仲間との会話にはAI技術を取り入れた。

歴史のあるタイトルを背負いながらも、新しい挑戦をしている本作は、発売までにさまざまな苦境があった。
もともとは「FINAL FANTASY ヴェルサス XIII」というタイトルで2006年に制作発表されたが、タイトルの変更やゲームハードの進化を経て、10年目にファン待望の登場を果たした。

RPGゲームは、シナリオやバトルデザインに注目が集まるのが一般的だ。
発売後の話題は、攻略情報やネタバレ情報がメインになる。
しかしFF15は少し毛色が違う。
多くのファンがプレイ動画やゲーム画面のスクリーンショットをSNSにアップし、おのおのの楽しみ方を共有している。

“新しい形のヒット作”は、なぜ生まれたのか。
作品を生み出すために、スクウェア・エニックスという組織はどのように変わったのか。
田畑端ディレクターに話を聞いた。

●日本ゲームメーカーが直面していた大きな壁
――田畑ディレクターは、FF15を2014年から担当しています。
国内で最も有名といっても過言ではないタイトルを受け持つことに、不安やプレッシャーはありましたか?
田畑:最初に関わりだしたのは2012年ごろになるでしょうか。
FFというIP(知的財産)を受け持つことについては、あまり深刻に捉えてはいませんでした。
ただ、ファイナルファンタジーのナンバーを冠するゲームを、ハイエンドのゲームハードに向けて作ることのハードルの高さは強く感じていました。
「モノ作りが達成できるのかどうか」が見えなかった。

ゲーム作りには、どの開発者も感じている大きな壁があります。
最初に生まれた壁は2005年発売のXbox 360と、2006年発売のプレイステーション 3(PS3)。
それ以前はゲーム作りは“家づくり”みたいなものでした。
100〜200平米くらいの土地に、木造の家を設計するイメージ。
しかし、この2つのゲームハードが生まれたことで、“ビルづくり”に限りなく変わってしまった。

もちろんPS2の時も技術進化は必要でしたが、それは「PS1に対応した技術をPS2向けに引き上げて、パフォーマンスを拡大する」という、延長線にある施策でよかった。
しかしPS3のころになると、作るために必要な材料も技術も全く違い、“家づくり”のノウハウが生かせなくなったんです。
技術を近代化しつつモノづくりを続けることは非常に難しく、“下から積み上げよう”という考えを持つ多くのメーカーが苦戦した。
これって、ゲーム業界だけじゃなく、多くのモノづくりの会社が直面していることですよね。

――スクウェア・エニックスは、日本のゲームメーカーの中でも高い技術を持ち、人材も多く集まっています。
それでも苦戦したのですか?
田畑:スクウェア・エニックスは「CGを作る技術」でいうと、確かに日本の中では高いです。
ただし、リアルタイムにたくさんの処理を行う大きなゲームは、CGだけではなくフレームワークや支援するための技術が必要。
技術や仕組みに対する意識が追いついていませんでした。

多くのメーカーが伸び悩んでいる一方で、欧米発の新しいIPが生まれていました。
これらの共通点は、PCでゲームを作っていたデベロッパーが、PCの技術を持ち込んでPS3やX BOX360でゲームを作っていたこと。
PCでいいものを作れるところは成功し、下からの積み上げ式を選んだところは苦戦している――という状態でした。

FF15は結果的にPS4で発売されましたが、着手したタイミングはPS3でした。
次世代のゲーム機がどのようなスペックになるのか、僕ら自身分からなかった。
ただ、PS2からPS3への流れは知っていたので、何をすればいいのかは分かっていた。
PCゲームの技術を習得しておけば、次世代ハードがそれ以下のスペックになっても対応できる。
「PCのハイエンドスペックを想定してゲームを作るとしたら、どういうものができるだろうか?」というイメージを割り出していきました。

作るものがイメージできれば、どんな技術やソリューションが必要になるか分かる。
ゴールに向かうためのものを逆算していくと、やり方や組織を大きく変える必要があると見えてきました。

●「他人の仕事にブレーキをかけない」「ヒエラルキーをリセット」
――FF15の制作チームを、どういう形で変えたのでしょうか。

田畑:FF15の制作スタッフは最初は100人以下でしたが、プロジェクトが進むにつれて社内外合わせて数百人という大きなチームになっていた。
個々のタスクというよりは、意思決定をする上での固有の文化や、大事にしなきゃいけないものの傾向をリセットする必要がありました。

大きく変えた点は2つです。
1つ目は「他人の仕事にブレーキをかけないこと」。
長くプロジェクトをやっていると、会議をしてできたものにダメ出しをするだけで、仕事をしたつもりになってしまうことがある。
良かれと思ってしたアドバイスが相手にとっては負担になったり、個人的な感情が判断に混じったりも起こりうる。
「良いか悪いかの判断は僕がする」と、物事の決まり方をシンプルにして、1人1人のタスクを明確にしていきました。

2つ目は「ヒエラルキーをリセットすること」。
僕はずっと、チームにおいて「同じメンバーが主導していくこと」に違和感があったんです。
開発には、ビジョンを作っていく立ち上げ初期、プロトタイプを生み出していく序盤、量産していく中盤、品質を引き上げていく終盤がある。

その段階に合わせて、チームは柔軟に変化しなければいけないのに、開発規模が大きければ大きいほど固定化してしまう。
スタッフにも「この人は立ち上げは向いているけど、中盤は苦手」「序盤はうまくできないけど、終盤にはいい仕事をする」とさまざまな能力の違いがある。
それなのに、一度リーダーになるとずっとリーダーという状態にあった。
それを一度リセットしました。

――リセットすることで、チーム内での不満はありませんでしたか?「俺はこのチームのリーダーだ」とアイデンティティーを感じている人もいたのでは。

田畑:人間なので、感情がついていかないことはあると思います。
ただ、そういうメンバーに対しては「これは理屈の話だから。
右脳をシャットダウンして、左脳で考えてほしい」と伝えていました。
やり方や組織を変えるのは、ゴールに向かうための逆算。
「今のやり方の延長線にできるものは、目標に達している?」と聞いていきました。
また、実際新しいやり方を実行していくと、前よりもいい結果が出て、結果として自分のキャリアにとってプラスになるんです。
だからだんだんと分かってもらえましたね。

――自身の仕事の範囲が明確で、柔軟な形をとる組織は、日本企業よりも海外企業に多い印象があります。
どこか参考にした企業はありますか?
田畑:そのままきれいに習ったわけではないですが、これまで見たり聞いたりして「強い組織だな、入社したい」と思った企業は参考にしてますね(笑)。
今ぱっと出てくるのは、シアトルのバルブ・コーポレーション。
「Steam」というPCゲームのプラットフォームを作っている会社です。
バルブは、組織の形が不定で、目的に合わせてどんどん変わっていくんです。

――組織の仕組みを作ることと、その組織を指揮していくこと、ディレクターとしてどちらの方にエネルギーを使ったと思っていますか?
田畑:それはやはり、組織を作る方ですね。
時間が経てば経つほど、選択肢は絞られる。
でも最初だと、たくさんある選択肢の中から「絶対に右に行くぞ!」と宣言しなくてはいけない。
左派は「ちょっと田畑さんいいですか?絶対右はダメですよ、やめたほうがいい」と言ってくる(笑)。
でも右を選び続けると、今度は判断基準が「右の中でできることで、何を優先していくか」に変わっていく。
中盤以降は、開発そのものよりは、世界同時発売などの方面に力を割くようになっていました。

●世界同時発売を行った理由
――全世界で500万本を突破したFF15ですが、日本比率と海外比率はどのようなものでしょうか。

田畑:海外が圧倒的に売れています。
そもそも、PS4は海外のほうが台数が多いですから、予想通りではありますね。
日本での数字も、日本ゲーム市場の現状においてはかなりいいです。

――「日本先行、のちに海外展開」ではなく、同時発売を行ったのはなぜでしょうか?
田畑:そもそも最初から「世界同時発売したい」と考えて作品を作っていました。
海外同時発売だったからこそ、これだけの盛り上がりが生まれたのかもしれない。
FF15はオープンワールドのゲームシステムを採用していますが、これは欧米では何年も前から遊ばれているスタイルなんですね。
AAAタイトルの多くがオープンワールドです。
YouTuberの出現やeSportsの盛り上がりとも密接に関係があって、プレイヤーがプレイの様子をストリーミング配信して、視聴者がそれを楽しんで拡散していく。
逆に、1人でプレイするFFは、ストリーミング文化では「誰が遊んでもプレイヤーの個性が出ないじゃないか」と見向きもされない。

FF15が発売されて、日本のプレイヤーの多くがSNSなどにプレイの様子をアップしています。
本作は、オープンワールドにあまり親しみのない日本のプレイヤーでも、自分の遊び方や自分だけの体験をみんなに伝えたくなるような作品を目指して作りました。
完全オープンワールドのゲームと、これまでのFFのようなゲームとの、ちょうど中間を狙いたかった。
FF15が多くのユーザーにとっての「オープンワールドの遊び方入門」になったらいいなと。

――現状は、その狙いが成功していると捉えていますか?
田畑:「ハマっているけど、全然ストーリーが進まない!」「サブクエや釣りばっかりやっている」という声もよく聞きますから(笑)、70%くらいは成功しているかな。
ただ、残りの30%は、これまでのRPGの遊び方の意識が強く残っていると感じています。
プロモーションやアップデートを通じて、「楽しんでいる人は、こんな楽しみ方をしているよ」ともうちょっとていねいに遊び方を伝えていく必要があるかもしれません。

日本だとまだまだ「ゲームは買っておしまい」という意識がある。
でも、海外のオープンワールドゲーム……例えば「GTA5」や「ウィッチャー3ワイルドハント」などは、発売後も何度も何度もアップデートがかかって、プレイヤーが満足できるようにずっとアクティブに保たれているんですよ。

日本はどの家庭にもインターネットがあって、スマホがありますが、ゲーム機をインターネットにつないでいない人たちも2割くらいいる。
そうした人たちに、「ゲーム機をネットにつなげるともっと楽しめるよ。
発売で終わりではなくて、楽しさがどんどん増していくんですよ」と伝えられたら。
ただ、ゲーム機からのお知らせのような形ではなくて、違うコミュニティーやストーリーから発信できたらいいと思っています。

――では、海外に向けてはどうでしょうか?
田畑:これまで海外展開をするにしても、6カ国にしか対応していなかった。
今回は12カ国なので、正直ものすごくいっぱいいっぱいでしたが(笑)、より地域を増やしていきたいですね。
日本も合わせて、ユーザーの層を厚くするという縦軸と、広い地域に展開していくという横軸、その両方で進めていきたい。
もちろん、簡単なことじゃないのは承知していますけど、難しいからこそやってみたい。

今回FF15を海外同時発売してみて、「FFだから実現できたこと」と「FFだから実現できなかったこと」の感触が分かりました。
シリーズだからこそ評価される点と、されない点がある。
そういった面でのノウハウが蓄積されたのは、非常に大きかったです。

――最後に、ビジネスパーソンに向けてメッセージをお願いします。

田畑:プロジェクトには大小ありますが、数年がかりのものになるとゴールを見通すのは難しい。
でも、プロジェクトの成功した絵を考えるんです。
「全世界に同時発売」「これまでより多くの言語に対応」「ストリーミング配信をみんな楽しくやっている」――この描いたゴールにそぐわないものは「やらない」と決め、ゴールから逆算して今日するべきことを決めていく。
それが、リーダーシップの1つの形だと思っています。

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