ニンテンドースイッチは、特別で普通のゲーム機
■特別で、なおかつ普通なハード
今、ゲーム業界は任天堂が発表した新ハード「ニンテンドースイッチ(以下スイッチ)」の話題でもちきりです。
任天堂は2016年1月13日に東京ビッグサイトでニンテンドースイッチの発表会を開催。
さらに14日と、15日には一般向けの試遊会も同会場で開催されました。
試遊会は大変な賑わいで、人気のゲームはあっという間にその日遊ぶ分の整理券がなくなってしまう程でした。
発表会終了後は、いろんな方が、いろんな角度から、新しいハードはこんな可能性があるんじゃないか、ここが面白そうだと、意見を出し合っています。
ゲームの話でみんなが盛り上がるのは本当に楽しいですね。
さて、今回はこちらの記事でも、スイッチについてご紹介をしたいと思います。
ニンテンドースイッチは、これまでのハードと比較して、特別で、なおかつ、普通のゲームハードです。
矛盾するように思うかもしれませんが、その矛盾を工夫してまとめたのがスイッチというハードの面白いところです。
さらに言うならば、今回の発表会、そして試遊会からは、スイッチの独自性、意外性、普遍性の3つ要素が感じ取れました。
この3つがスイッチのポイントであり、この3つが成り立つのであれば、スイッチはとても人気のゲーム機になるかもしれません。
それぞれについてちょっと説明して見ましょう。
■任天堂が持つ独自性
独自性について。
独自性という言い方をすると、何か変わった機能、見たこともないゲーム、というように聞こえるかもしれませんが、その話は意外性の方にとっておきたいと思います。
ここで言う独自性は、スイッチにあって他のハードには絶対にないもの、という意味です。
つまり、任天堂のオリジナルなもの。
そう、任天堂のもっているゲームシリーズを指します。
今回の発表会で、スイッチは、この任天堂の既存ラインナップをしっかりと打ち出してきました。
本体発売と同時に「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(以下ゼルダ)」、4月28日に「マリオカート8 デラックス(マリオカート)」、夏には「スプラトゥーン2」、そして冬には「スーパーマリオ オデッセイ」。
任天堂のゲームが好きな人であれば、どれも間違いなく面白いと太鼓判のゲームばかりです。
特に、WiiUで登場して爆発的な人気を博しているスプラトゥーンの続編は、もうこれだけの為にスイッチを買ってもいい、という人も多いのではないでしょうか。
スーパーマリオ オデッセイ以外は試遊会に出展していましたので筆者もプレイしていましたが、どのゲームも大変に高い完成度で、今すぐ買って持って帰りたいと思える楽しさでした。
スイッチは据え置きゲーム機ですが、携帯機のように持ち運んで遊ぶこともできます。
テレビに接続して遊ぶ「TVモード」、本体にコントローラをつけて携帯機のように持ち運んで遊べる「携帯モード」、そして本体をスタンドで立ててモニター代わりにし、分離したコントローラーを使って遊べる「スタンドモード」。
この機能があることで、テレビがふさがっていてもゲームができます。
もちろん外でも遊べます。
据え置きハードなのに、みんなでハードを持ち寄って対戦することもできますし、テレビの無いところでスタンドモードを使って対戦をすることもできます。
この機能は任天堂のゲームと非常に相性が良く、対戦ゲームやパーティーゲームが遊べる環境を大きく拡大するでしょう。
■Joy-Conに込められた意外性
次に意外性についてもお話します。
任天堂のゲームハードは、ニンテンドーDSのタッチパネルや、ニンテンドー3DS(以下3DS)の裸眼立体視、WiiのWiiリモコンにWii UのWii U GamePadなど、意外な機能を持っていることが多いです。
スイッチに関していえば、それはJoy-Conと呼ばれるコントローラーです。
Joy-Conはとても不思議なコントローラーです。
Joy-Conは、例えばゼルダを遊ぶ時には他のハードにもあるような一般的なコントローラーの形で遊びます。
この一般的なコントローラの形をしている時は、Joy-Conは「Joy-Conグリップ」というグリップにさしています。
しかしこれはグリップから外すと左右2つに分かれるんですね。
2つに分かれると、実はそれぞれが小さなコントローラーとしても使えるようになっています。
この小さなコントローラーは、単純にマリオカートの対戦の時に2人分のコントローラーになってくれるわけですが、それだけではありません。
その1つ1つが、Wiiリモコンをさらに発展させたような多機能なコントローラーになっています。
まず、加速度センサーやジャイロセンサーによってコントローラの動きを感知します。
これはWiiリモコンと同じですね。
さらに、amiiboやSuicaなどを読み取るNFCリーダー/ライターを内蔵。
そして振動機能を強化して、まるでJoy-Conを通してゲームの中の物を触っているように感じられるHD振動。
さらに、IRカメラという、ものの形や距離を読み取ることができるカメラを搭載しています。
本体と同時発売のラインナップの中に「1-2-Switch(ワン・ツー・スイッチ)」というゲームがあります。
これはJoy-Conの機能を使った新しい遊びが詰まったタイトルです。
例えば「カウントボール」というゲームではJoy-Conの中に入っているボールの数を当てる、という遊びをします。
もちろん本当にボールが入ってるわけではありませんが、HD振動によってまるでボールが入っているかのようにJoy-Conが震えます。
そしてそれは、ボールが入っている感触だけでなく、ボールが何個入っているかも、読み取れるようなリアルな振動です。
あるいは、「大食いコンテスト」というゲームでは、実際に口を動かしてたくさんホットドッグを食べる、という遊びをします。
Joy-Conをまるで本物のホットドッグのように口の近くにおいて、パクパクと口を動かすと、ゲームの中のホットドッグがどんどん減っていきます。
これはIRカメラを使って口の動きを読み取っているんですね。
1-2-Switchはシンプルかつ、従来のゲームにはなかった面白い遊びがたくさん詰まっています。
そしてそれをJoy-Conという2つに分かれるコントローラーによって実現しているんですね。
このJoy-Conによる新しいゲームの提案が、スイッチの持つ意外性です。
■他のハードと同じようにも遊べる普遍性
スイッチは、任天堂の人気シリーズタイトルが発売した年からしっかりとリリースされて、そしてJoy-Conを使った新しい遊びも提案していく、ということがお分かりいただけましたでしょうか。
そして最後、3つ目の重要なポイントは、それでいて、普通のゲーム機でもある、ということです。
Joy-Conはとても小さくて、多機能で、今までに見たことのないコントローラーですが、同時に、2つをグリップに接続し1つに合体させて使うと、一般的なゲームのコントローラーをほぼ踏襲した形になります。
重要なのは、標準装備のコントローラーが、奇抜なデザインに見えて、一般的なコントローラーと同じようにも使える、という点です。
スイッチの性能の詳細は発表されていませんが、PS4やXbox Oneと同世代のゲームが遊べる程度のものとみていいでしょう。
これまで、任天堂のハードはその特有の仕掛けをどういかすかという点が注目されましたが、一方で任天堂以外のメーカーが使いこなせず、逆に他ハードとマルチ展開しにくい要因になることもありました。
しかしスイッチでは、この点を意識して特徴的でありながら、普遍性のあるハードの形になっています。
その成果の1つとして、北米の人気メーカー「ベセスダゲームスタジオ(以下ベセスダ)」が「The Elder Scrolls V: Skyrim」の発売を発表しました。
ベセスダは日本ではあまり聞きなれない人もいるかもしれませんが、世界的に人気のあるゲームメーカーで、Wii Uでは参入していませんでした。
The Elder Scrolls V: Skyrimは2011年に発売し、2016年にはPS4などでリマスター版の「The Elder Scrolls V: Skyrim Special Edition」も発売されています。
新作ではないとはいえ、ベセスダが参入するということは、インパクトのある出来事です。
また、国内市場に関していえば、スクウェア・エニックスの「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」がPS4、3DSと共にスイッチで発売される予定があることも早くから発表されているということは、非常に大きなポイントでしょう。
■スイッチは成功するのか
スイッチというハードについて、独自性、意外性、普遍性という角度からお話してみました。
スイッチというハードは据え置きゲーム機でありながら持ち運んで遊べ、Joy-Conという極めて特殊なコントローラーを武器に新しい遊びを提案し、なおかつ普通のゲームハードと同じようにも遊べます。
特別であり、普通のゲームハードであるということがお分かりいただけたんじゃないかと思います。
さて、最後にスイッチというハードが成功するか、という話をしたいと思います。
スイッチの持つこの独自性、意外性、普遍性という3つの要素は、そのままターゲットへの訴求ポイントになっています。
独自性は、言うまでもなく任天堂ファンに向けたもの。
恐らく現時点で最もしっかり訴求できているのがこの層でしょう。
ゼルダがやりたい、スプラトゥーンがやりたい、マリオがやりたい、という人達に、ゼルダもでます、スプラトゥーンもでます、マリオもでますと、バッチリアピールしているわけで、スイッチを購入するのに迷う必要がありません。
意外性は、普段ゲームをしない人、かつてゲームをやっていたけどやめてしまった人、あるいはスマートフォンのゲームで十分だと思っている人を振り向かせることに重要です。
こういった人達は、そのゲームが面白いかどうかはもちろん、話題になっているか、注目されているか、ということがとても重要です。
彼らは年末年始などの商戦期に大きく動く層です。
ですから、本体と同時発売の1-2-Switchが発売後ジワジワと話題になっていくとか、あるいは年末に向けてJoy-Conを使った斬新なゲームが発売される、というような流れが作れるかが重要になるはずです。
そして、それ以外のゲームファンにとって重要なのは普遍性です。
簡単に言えば、そのハードで色んなゲームが出る、ということです。
おそらく、現時点ではここのところが1番難しいでしょう。
スイッチが性能や機能としてサードパーティーが参入しやすい環境を作ったとしても、マーケティングはまた別の話です。
PlayStation4(以下PS4)やXbox Oneで発売されているゲームがやりたいユーザーは、既にPS4やXboxOneを購入しているでしょう。
そこに単純にスイッチでも発売される、というだけではなかなかついていきません。
ベセスダの参入はとてもいいニュースでしたが、ここに他のメーカーがどこまで追随してくるかはまだ分かりませんし、ベセスダ自体、The Elder Scrolls V: Skyrimだけでなく継続的にタイトルを投入してくれるかはまだ分からないでしょう。
最も大事なことは、スイッチのユーザーが任天堂以外のタイトルも買う、という流れを作ることです。
その為には、任天堂自身だけではなく、サードパーティーのキラータイトルも必要になるはずです。
国内でいえば「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」が発売される時に、ドラクエも出るし、スプラトゥーンも遊びたいし、家族みんなで楽しめそうだし、というように総合的にハードの価値を押し上げられれば非常に良い流れが作れます。
世界的にはPS4が非常に大きなシェアを持っている中に食い込まなければいけませんし、国内では消耗した据え置きハード市場を盛り上げるところから始めなければいけません。
簡単ではないでしょう。
しかし、簡単ではないことは最初から分かっていたわけで、任天堂はその為に、どうやら全方位で戦えるハードを用意したようです。
実際にどんな戦いが繰り広げられるのか、その中でゲーム業界自体が大きく盛り上がることも期待し、2017年3月3日の発売を楽しみにしたいと思います。