Nintendo Switchは鏡。見る人の心を写し出す
テレビゲームの世界は、新しいデバイスや技術の普及によって、その形は大きく進化している一方、楽しさを追い求める姿は変わりません。
変わるものと、変わらないもの。
過去と未来。
そして我々が宿命的に背負う日本という存在。
なかなか考える余裕のない現代ですが、少しだけ立ち止まって一緒に見つめてみませんか? 毎月1回、「安田善巳と平林久和のオールゲームニッポン」ゆるーくお届けします。
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谷理央(以下 谷):2017年、最初のオールゲームニッポンです。
今年もよろしくお願いします。
安田善巳(以下 安田):オールゲームニッポンも4年目に突入しましたね。
よろしくお願いします。
谷:さっそくですが、1月のゲーム業界では注目の出来事がありました。
平林久和(以下 平林):サッカークラブ育成ゲーム『カルチョビット』のスマホ版(『カルチョビットA』)がリリースされましたね。
ドット絵で描かれたキャラクターが、両軍合わせて22人も独自の思考で動きます。
スマホ画面をピンチアウトすると全員の動きを見られます。
谷:えっ?
平林:小さなキャラクターの動きとパラメータの変化を見ているだけで想像が無限に広がります。
まさに日本文化。
俳句の美学に通じるゲームです。
谷:平林さん、『カルチョビットA』が好きなんですね。
平林:ゲームボーイ版のころからの大ファンです。
今は安田さんがディレクターをなさった『スターリーガールズ』と同時並行して遊んでます。
安田:『スターリーガールズ』と『カルチョビットA』。
相当マニアックな組み合わせかもしれませんよ(笑)。
谷:『カルチョビットA』のお話は改めて聞くとして、1月といえばNintendo Switchの詳細が発表されましたので、その感想をお願いします。
平林:はい。
マジメに語りますとNintendo Switchは鏡。
見る人の心を写す鏡のように思えます。
Nintendo Switchの仕様、特にJoy-Con(ジョイコン)の機能からおもしろい遊びを連想する人は良いハードだと感じます。
特にピンと来ない人はネガティブな印象を持ちます。
Nintendo Switchを語る人たちは、ハードを論評しているようでいて、己のゲーム観を語っているのではないでしょうか。
谷:平林さんご自身はどういう印象を持ちましたか?
平林:モーションIRカメラはすごい発想だと思いました。
コントローラについたカメラが、人間の目では見えない光をとらえてモノの形や動きや距離を読み取ります。
この仕掛けはニンテンドーDSの「触る」やWiiの「振る」に近いパワーがあって、いつかとてつもないゲームが生まれてもおかしくないと思いました。
谷:ソフトが足りないという指摘もありますよね。
PlayStation 4で開発しているタイトルが、マルチプラットフォームでNintendo Switchにも発売されるのかどうか、心配する声もあります。
平林:はい。
Nintendo Switchは今だけではなく将来的にもソフト不足は指摘され続けるでしょうね。
モーションIRカメラについてはポジティブな見方をしていますが、ソフトの数が急激に増えていくイメージは湧いてきません。
ところで、Nintendo SwitchはPlayStation 4と比較されますが、私はPCが意外なライバルだとも思うんですね。
谷:PCですか?
平林:スマホゲームだけでは満足できない層は必ず存在します。
ではそういう人はゲーム専用機を絶対に買うかというと、そうではなくてPCを選択する人が増えています。
安田:そのPCゲーマーって、Steamユーザーをイメージしていますか?
平林:そうです。
Steamの存在は大きいですね。
現在、かなりの数の日本国内の会社がスチームにソフトを供給しようとしています。
ですから、13日のNintendo Switchのプレゼンテーションは見応え十分でしたけど、物足りなかったのは流通のことが一切触れられなかったことです。
任天堂のソフトだけではなく、サードパーティのソフトを今以上に売る仕組みの発表はありませんでした。
そのためSteamを選択するソフト会社が多いんじゃないかな、と。
谷:今後、任天堂が新しい流通システムを考えたり、サードパーティを増やす施策を打ったり、ということは考えられませんか?
平林:これは私の想像ですが、Nintendo Switchはまったく別の方向に行ったほうが「らしい」です。
ソフトが足りない、ソフトを増やす手を打つ……という今まで通りのやり方ではないほうが良いと思うんですね。
谷:どういうことですか?
平林:サードパーティといっても既存のゲーム会社ではなく、玩具メーカーと組むとか。
健康や教育をからめた展開するとか。
勝手に名前を出させていただきますが、レゴやタカラトミーやベネッセや小学館やサンリオ……こうした異業種がパートナーになる。
既存ゲーム機とは異なる別のソフト開拓がNintendo Switchには似合っているように思えます。
谷:確かに教育では『脳トレ』、健康では『Wii Fit』のようにゲーム機を使って成功した例もありました。
平林:というわけで、Nintendo Switchは運を天に任せる任天堂らしく、予測不可能です。
常識の物差しでは計りきれません。
ただし、新しいゲームを生み出す意欲を感じる楽しみなハードです。
谷:話は変わって安田さん、今年に入って注目する出来事は何かありますか?
安田:僕は今週前半まで台北ゲームショー2017に行っていました。
台北ゲームショーの規模も大きくなって、今年の開催期間中の来場者は43万人だそうです。
そんな熱気を感じてきたばかりでもあるので、やはりアジア市場が気になりますね。
それもただ市場規模が大きくなった、というだけではありません。
日本的なゲームがヒットしています。
たとえば、ネットイースの『陰陽師』はリリース以来、中国ではずっと売上上位をキープしています。
平安時代の舞台設定がウケているんですね。
谷:そうですね。
日本の伝統文化だけではなく、現代のポップカルチャーも浸透しているようですね。
『陰陽師』のゲーム内のカットシーンには、コメントが打ち込めてニコニコ動画風の演出がされています。
また、そのコメントがズラーっと並ぶことを、日本と同じように「動画弾幕」と呼ぶそうです。
安田:僕は開発者として中国のパブリッシャーの方とはよくお会いするのですが、最近はとにかく日本的なものを求められるようになりました。
舞台設定、シナリオ、キャラクター、声優さん、すべてにおいてですね。
極端な例ですが「地域差を考えないで、日本市場で売るようなつもりでゲームをつくってほしい」と言われた方もいます。
平林:そこまで徹底しているんですか。
安田:中国では「2次元ゲーム」という言い方をしますが、特に今はアニメ風の……日本的なビジュアルがちょっとしたブームになっています。
欧米のゲームユーザーが好む写実的なCGとは明らかに異なります。
で、谷さんがおっしゃるようにニコニコ動画的なコメントを共有する文化があったり、コスプレが流行ったり、日本的な文化が特に若い世代に浸透しています。
そういえば『君の名は。
』は、アメリカのアカデミー賞ではノミネートされませんでしたが、中国では大ヒット中です。
平林:平安時代と同じで、神社や巫女が違和感なくウケているということでもありますね。
安田:今まで、中国と日本は政治分野では摩擦があっても経済では交流するので「政経分離」。
あるいは政治分野では冷却しているが、経済分野では過熱しているので「政冷経熱」などと言われてきました。
ですが、もうひとつの要素があってそれは文化だと思うんです。
政治・経済とは別に、文化だけを切り取ると、中国は日本に対して門戸を開いていて、その結果、コンテンツを通じて日本文化が広まっています。
平林:オールゲームニッポンの初期の頃に、日本のゲームは欧米市場で売れるように無理するのではなく、日本市場向けにつくったものが自然に世界で認められてほしい……なんてことを語り合ってましたよね。
安田:そうでした。
懐かしいですね。
平林:当時はそんなのは理想論だとツッコミを受けることもありましたが、なんだか現実にそういう感じになってきていてうれしい思いがします。
谷:では、今月はこのへんで。
今年もゆるーく未来を予見していくオールゲームニッポンにしましょう。