ID@Xbox ディレクター クリス・チャーラ氏に聞く デベロッパーが少しでも開発に注力できる体制を整えたい
文・取材・撮影:編集部 古屋陽一
●いまいちばん注目している国は日本!
2016年7月9日〜10日、京都市勧業館みやこめっせにてインディーゲームの祭典BitSummit 4thが開催。
会期中に、Xbox OneやWindows 10のインディータイトルを配信するID@Xboxのディレクター、クリス・チャーラ氏にお話をうかがう機会があった。
2013年のスタート以降、良質なインディータイトルをリリースし続けることで注目を集めるID@Xboxだが、その進捗などを聞いた。
――今回で3回目の参加とのことですが、BitSummitに対する感想を教えてください。
クリス私はBitSummitはいいイベントですよね。
ことに、今年は過去最高の盛り上がりかもしれません。
人が集まっていて、イベントがエネルギーにあふれていますね。
なによりも、ゲームのクオリティーが毎年毎年よくなってきています。
質とともに、いろいろなジャンルの幅広い方向性のゲームが揃っている。
“ダイバーシティ(多様性)”に溢れているんですね。
『Bloodstained:Ritual of the Night』や『Kyub』のようにしっかり作りこまれたゲームがある一方で、実験的なタイトルや、さらにはVRまである。
とても幅広いゲームが揃っているのが刺激的です。
――BitSummitを定点観測されて、日本のインディーシーンはより成熟してきているとの印象ですか?
クリスインディーゲームのデベロッパーは大きく成長してきていると思います。
逆に、海外のデベロッパーがBitSummitにタイトルを持ってきたりもしている。
両者が刺激し合っているようですね。
――とくに気になるタイトルは?
クリスたくさんあります!強いていえば『ボコスカウォーズII』ですね。
画面をフルに使って、おもしろいことをやっている。
あとは、『PRINCIPIA: Master of Science』。
アイザック・ニュートンなど、実在の偉人と競いながら、科学アカデミーの学長を目指すなんて、ユニークですよね。
すべてを版画のグラフィックで制作した『しっぽねこと消えたエビフライBY NEKOGAMES』も印象的でした。
そういう意味でもバラエティー豊かでおもしろいですよね。
――ID@Xboxについて聞かせてください。
講演では2013年のスタート以降、数百億円の売り上げがあったとおっしゃっていましたが、改めての手応えは?
クリスそれはお答えするのが難しいですね(笑)。
一面から見れば、ものすごくうまくいっているし、デベロッパーの皆さんにはたくさんのタイトルを出していただいています。
売り上げを上げているタイトルもありますし、継続的にタイトルがリリースされていることはすばらしいことだと思っています。
一方で、私たちとしては、もっとやることはあるとも感じています。
最終的には、デベロッパーの皆さんに、いかにスムーズにタイトルをリリースしていただくかということを重視していますので、そういった意味では改善点もいっぱいあります。
まだまだ私たちは、現状では満足していないです。
――いまでもスムーズかと思われるのですが、どこが足りないのですか?
クリス細かいお話だと楽しくないかもしれませんが(笑)、たとえばXbox OneのID@Xboxプログラムに入ってから、実際にタイトルをリリースするまでの期間を考えると、多くのデベロッパーがまったく同じ質問をしてくるといった課題とかもあるんです。
それを、ID@Xboxに入ってきた人に、いち早くシェアできれば、作業の効率化が図れる。
たとえば、5回メールをやり取りする時間を減らせば、それだけクリエイターに開発時間を還元できる。
それで開発の時間が増えれば、最終的にはユーザーさんにそのゲームが届けられるのが早くなるわけです。
本当に細かいところかもしれませんが、そういうところで私たちは改善できる点はたくさんあると思っています。
――システムとしてはある程度成熟していて、あとは微調整といったところですか?
クリスそうですね。
――ちなみに、いま申請してから配信されるまで、“これだけ短縮したい”といった、明確な目標はあるのですか?
クリス実際のところ、プロジェクトプラグラマーのなかには、作業の効率化をチェックしている者もいます。
ひとりは、そういうことをやっているスタッフもいます。
どれだけメールを受け取って、どれだけメールを送っているかとか。
メールのやり取りに関しても2種類あるんです。
ひとつはゲームそのものに関わる質問。
もうひとつはプログラムに関する質問です。
プログラムに関する問い合わせは、だいだいいつも同じなんです。
私たちとしては、後者の質問をぐっと減らして、逆にユニークなゲームに関する質問にフォーカスできるようにしていきたいというのはあります。
――ちなみに、ID@Xboxタイトルは、1年間にどれくらいリリースされているのですか?
クリス2013年のID@Xboxのローンチから、250タイトルがリリースされました。
実際に開発中のタイトルは1000くらいあります。
――では、ID@Xboxに登録しているデベロッパーは何社くらい?
クリス相当な数のデベロッパーさんからお問い合わせをいただいておりますが、その中から開発キットをお渡ししたのは、2000くらいですね。
――世界中でID@Xboxは活用されていると思うのですが、とくに注目している国は?
クリス日本です。
――本当ですか?
クリス本当にそう思っています。
日本にはいいゲームがたくさんあります。
『Kyub』や『リバーシクエスト』、それに『Bloodstained:Ritual of the Night』もリリースされますし。
とはいえ、正直なところ、人気になるゲームは、世界中のいたるところから出てきていますね。
ひとつの国というよりも、いろいろなところから出てきています。
実際のところ、ID@Xboxへの申請は、ほとんどの国からいただいています。
どこがいちばんホットかは、世界中でけっこう変わるんですよ。
スウェーデンがよかったり、ドイツからすごいタイトルが複数でたりとか……。
そんな“ホットな国”を探すというのは、おもしろい視点かもしれないですね。
――ちなみに、「こんな国から申請が来るんだ!」と驚かされた国はありますか?
クリスうーん、概ねすべての国に開発キットを送っているからなあ……(笑)。
――講演では、ID@Xboxは、(E3で発表されたばかりの)Xbox One SやProject Scorpioの機能をサポートしているとのことでしたが、もうすでに実装されているのですか?
クリス開発者向けのツールやライブラリが提供できる形になったときには、もちろん、提供させていただきます。
――これから提供される?
クリスE3でアナウンスした以上のことはお話しできないのですが、いまお話できるのは、“デベロッパーは、ID@Xboxの開発者も含めて、Xbox One SやProject Scorpioで搭載される機能を、利用できるようになる”ということです。
――任天堂が、個人クリエイターとの契約を7月7日から解禁したのですが、ID@Xboxでは、個人に対して門戸を開く予定はないのですか?(※ID@Xboxは法人契約のみ)
クリス実際のところは、会社を作るのはそんなにたいへんではないと思っています。
日本でも法人格の取得はできるので、それはやっていただけたら……と思っています。
もうひとつは、必ずしも個人に対して門戸が開かれていないというわけではないんです。
専用のコンテンツをダウンロードして、市販のXbox Oneを“Devモード(開発モード)”に変更できるプログラムがあるんですよ。
それを作れば個人でもゲームを作ることは可能です。
さらに言えば、そうして作ったソフトを日本でも販売できるようになりました。
これはID@Xbox プログラムというわけではありませんが。
――つまり、Xbox Oneでも個人開発に対する門戸は開かれているというわけですね?
クリスそうです。
そういう意味では、たとえば個人の方がそれでゲームを作ってみて、いいゲームができたら、その時点で法人格を取得して、ID@Xboxに入っていただくことも可能です。
――最後に……ID@Xboxファンに向けてひと言お願いします。
クリスファンの皆様には、「ありがとうございます」と言いたいです。
そして、日本のデベロッパーの皆さんにも感謝しています。
今後も私たちでがんばって、ID@Xboxプログラムのタイトルをいっぱいお届けしたいと思っています。