「プレイステーションは元気です」SIE WWS吉田修平氏がPSXの印象やプレイステーションの今後を語る
文・取材:編集長 豊田恵吾
アメリカ・アナハイムにて、2016年12月3、4日(現地時間)にわたって開催された、プレイステーションファンのためのイベント“PlayStation Experience 2016”(以下、PSX 2016)。
本イベントに参加したソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏に、PSX 2016の手応えや今後の展望などをうかがった。
●私にとってPSXは楽しいだけのイベントです(笑)
――PSXは3回目の開催となりますが、率直な感想をお聞かせください。
吉田私にとってPSXは“楽しいだけ”のイベントでして(笑)。
海外のイベントに出るとよろこんでいただけるので、出るだけで反応があるというのは楽なんですね(笑)。
場がシーンとすると、反応が困るじゃないですか。
そういう意味でもオープニングショウケースは楽しかったですね。
初日は1万人くらいの来場者がいらっしゃったのですが、みんながプレイステーションのファン。
ビジネス的なイベントはいっぱいありますが、ほかのイベントとは異なり、PSXはファンと近いところで話ができますから。
オープニングショウケース後は、会場をまわってパネルをみたり、インディーブースをまわるのが毎年恒例となっているので、初日はずっと会場にいました。
ゲームを遊んだり、ファンと話したり、写真を撮ったり、SNSにアップしたり。
写真を撮ってほしいとか、サインがほしいとか、そういったユーザーさんもたくさんいらっしゃって楽しかったですね。
――昨年と比べて盛り上がりはいかがですか?
吉田チケットも売り切れていますので認知度はあがっていると思います。
オープニングショウケースに人が入り切らないほどで。
朝から大行列ができていて、オープニングショウケースの会場には約4000人が入れるのですが、申し訳ないことに全員は入り切らなかった。
ただ、屋外にも巨大モニターを設置してオープニングショウケースやパネルの模様は中継していましたので、おかげさまで屋外でも盛り上がっていただくことができました。
――開催場所をアナハイムにした理由をお聞かせください。
吉田ファンイベントですので、毎回場所を変えて行おうと。
ラスベガスもそうですが、家族やカップルでPSXを楽しむとともに、たとえばアナハイムの観光スポットに行っていただくなど、その場所を楽しんでいただければという考えですね。
早めのバケーションとして来ていただけるようなロケーションを選んでいるのだと思います。
――会場でのファンの声で印象的だったものはありましたか?
吉田PSXは有料イベントですので、いい意味で混んでいません。
人数に対して、広々とセッティングしているんですね。
ですので、ゲームの待ち時間が短いんです。
そういった状況の中でも、かなり並んでいただいているタイトルがあって驚きました。
『Horizon Zero Dawn(ホライゾン ゼロ ドーン)』や『グランツーリスモSPORT』は長い列ができていましたね。
インディーゲームでも、たくさんの方が並んでいるタイトルもありました。
たとえば、Supergiant Gamesさんのタイトル『Pyre』。
吉田アクションRPG『Transistor』を作っているチームのタイトルなのですが、見た目は似ていますが、内容はまったく違うもので、チームスポーツゲームのような作品なんですね。
シングルだけではなくて、マルチでも出展されていて、勝つともう一試合続けられるということもあり、盛り上がっていました。
そのほか、プレイステーション VRの新しいゲームもたくさん遊べますし。
なかでも私が好きなのが『Dino Frontier』です。
――AAAタイトルとインディータイトル、どちらも発表、出展されていることもPSXの大きな特徴ですよね。
吉田E3などではインディーの詳しい話ができなかったのですが、PSXではそれができるということです。
インディーのブースもたくさんありますし、それが楽しい。
今年は、ドイツのgamescom、Paris Games Weekでカンファレンスを行いませんでしたので、E3とPSXでアナウンスメントを集中できたのが、今回のPSXが充実した理由にもなっているのだと思います。
ヨーロッパのファンには申し訳ないのですが、年間でバランスをとるのはなかなか難しく……。
――今年はSIE ジャパンスタジオのタイトル、日本のパブリッシャータイトルも数多く扱われていました。
吉田基本的には欧米のファンが好むコンテンツを選んでいるのですが、たとえば『ペルソナ5』や『ファイナルファンタジーXV』の評判はいいですし、JRPGもひとつのジャンルのように取り扱われて、ファンは確実に増えていると思います。
そういった意味では、海外市場の売上もかなり計算できるようになってきたのではないかと。
PS4ですと開発の予算も比較的大きくなりますし、海外で受け入れられることは重要だと思います。
――『Crash Bandicoot N. Sane Trilogy』、『パラッパラッパー』、『ロコロコ』、『パタポン』など、懐かしいIPのリマスター作品も発表されました。
吉田おかげさまでどれも反応がいいですね。
しばらく新作を出していなかったタイトルに関しては、ファンの方からのリクエストをずっと受けていました。
まったく新しいIPももちろん必要ですが、ファンがまだたくさんいるIPというのも大切で、昔のゲーム性はそのままに、いまのグラフィックにしています。
いずれもただのリマスターではなく、『Crash Bandicoot N. Sane Trilogy』に関して言えば、オリジナルからセーブシステムは改善するなど、手を加えています。
オリジナルのよさをリスペクトした、いまのユーザーの期待に応えられるような、遊びやすさ、UIに直すというやりかたですね。
――ヒットすればもしかして新作も……?
吉田どうでしょうね(笑)。
リクエストいただいているIPはたくさんありますので、引き続き反応を見たいと思います。
――期待しています。
PS4、PS4 Pro、PS VRのいずれも好調な売上を続けていますが……。
吉田新型PS4は新しいユーザーの方が狙いとしてあったのですが、PS4 Proも新しいユーザーの方に買っていただいていて。
PS4からの買い替えというイメージがあったのですが、これまでPS4をもっていらっしゃらなかった方の比率も大きいですね。
――日本ですと話題性のあるタイトルの発売とタイミングが近かったという効果もあったのでは?
吉田おっしゃる通りですが、PS4 Proが売れている理由は、それだけではないと思っています。
PS VRも対応タイトルであればグラフィックがきれいになり、フレームレートの向上といった効果がありますので。
『Rez Infinite』もきれいですよね。
『サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム』も早く対応してほしいという声をいただいています。
PS4 Pro向けのタイトルも増えていますし、PS4 ProでPS VRを体験した方の口コミもあと押ししてくれているのだと思います。
――PS VRで唯一気になるのは、コンテンツの数だと感じていますが、今後のタイトルについてはいかがでしょうか?
吉田世界で見ると、コンテンツはすごく多いんですよ。
日本の方が楽しめるものも多いのですが、まだ日本では発売されていないという状況でして。
インディータイトルが多いのですが、日本でも積極的にサポートしていきます。
カプコンさんの『バイオハザード7』やバンダイナムコエンターテインメントさんの『エースコンバット7』も控えていますので、存分にVR体験を楽しんでいただきたいですね。
――北米のVRの調子はいかがですか?
吉田すごくいいですね。
VRとしては、他社さんも含めて最初の盛り上がりはアメリカでしたし、いちばん盛り上がる地域です。
今後、他社さんのVRも活発化するでしょうし、デベロッパーさんもタイトルを出しやすくなると思うんですね。
他社さんのVRタイトルがPS VRでも出せる、という計算もできますし、そういった取り組みが増えるでしょう。
北米はもともとPCゲームが多いので、盛り上がりやすい環境。
日本はPCゲームが少ないので、VRゾーンですとか、ああいった形で引っ張る必要があるんです。
――日本国内のPRについておうかがいしますが、山田孝之さんを使ったCMなど、雰囲気が1994年のプレイステーションが盛り上がっていた時代のものに似ていると感じました。
吉田おもしろいですよね。
弊社の須貝と彼のチームががんばっています。
『クラッシュ・バンディクー』が発売されるときに新人だった担当者なのですが、あの時代のノリを自身で体験しているんですね。
その味がいま出ているんだと思います。
――(笑)。
話題を変えますが、いま吉田さんが気になっているテクノロジーはありますか?
吉田VR、ARも含めて、いろいろなネタがあります。
“VR元年”の今年は、プレイステーションの時代を思い出しますよね。
プレイステーションは20年以上、ずっと進化し続けてきました。
いろいろなものを取り込んで発展してきています。
周辺に楽しくするような、よりよくするような技術が世の中にあって、段階を経て使えるようになっていく。
たとえば解像度ですとか。
それがこれからの20年、発展し続けていく。
商品としてVRを手頃な価格で出す。
そのためのセットを選択したわけですが、当然ながら採用しなかった技術もあるわけです。
単純にそれが使えるようになるということもあるでしょう。
ただ、我々が手がけているのはコンソール。
PCやモバイルのように毎年新しいものを出すモデルでありません。
安心して遊んでもらえる、作ってもらえるというコンソールスタイルの開発になりますから。
技術という意味では日進月歩ですので、それはいろいろと今後も評価していきたい。
ものによっては周辺機器、入力や出力装置をあるタイトルに合わせて出していくこともできるんじゃないかなと。
プラットフォームとして、VRはひとつのメディア。
いろいろなコンテンツが取り組まれていくと思うんですね。
その中で、我々ハードを作る会社としては、ユーザーの皆さんにどういうシステムを提供するのか、活動するエリアを決めていくわけです。
周辺機器ですと、流行りがあってなくなってしまいます。
そうではなく、PS VR自体を新しいプラットフォームとして確立させる。
VRは、PS VRがあろうがなかろうが、広がっていくと思います。
我々のポジションはユニークな立ち位置で、重いと考えています。
――2015年を振り返っての感想と、2016年の抱負をお聞かせください。
吉田2016年はPS VRのローンチがあり、発売してすぐ皆さんに買っていただければと思っていたのですが、おかげさまでそのとおりになりました。
申し訳ないところはありますが、春からずっと準備をして、作っていて、それでもすぐになくなってしまったんですね。
タイトルで言えば、『人喰いの大鷲トリコ』。
すばらしい作品だとわかっていますし、がんばって待った甲斐があるものです。
待っていてくださったユーザーさんがよろこんでくれるものになっていると思います。
――PS4専用タイトルも揃ってきました。
吉田日本ではPS3とのいわゆる縦マルチが長く続いていましたが、日本のPS4ユーザーも増えてきて、PS VitaとPS4のマルチで発売しても同じくらいの本数が売れるようになってきています。
『GRAVITY DAZE 2』、『グランツーリスモSPORT』、『Horizon Zero Dawn』、そして『DEATH STRANDING』も控えていますのでご期待ください。
“プレイステーション”は日本、海外を問わず元気ですので、良質のゲームを皆さんに届けたいと思っています。
今後もぜひ注目してください。