『Rez Infinite』Area Xのテーマは誰もが体験する旅、“誕生”――水口哲也氏×SIE 吉田修平氏が濃密対談!

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文・取材:編集部 立花ネコ、撮影:カメラマン 和田貴光
●“Area X”にはふたつのエンディングがある!
エンハンス・ゲームズのプレイステーション4、プレイステーション VR対応ソフト『Rez Infinite』が、アメリカの“The Game Awards”にてBest VR Game賞、日本の“PlayStation Awards 2016”でPlayStation VR特別賞を受賞したことを記念して、本日2016年12月21日、同社の水口哲也氏とソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏による対談が行われた。

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2001年に発売された『Rez』を高解像度リマスター化した本作は、PS VRやPS4 Proでの4K&HDRに対応。
新たに“Area X”が追加されており、“Area X”がもたらす“究極の共感覚体験”に関してはファミ通.comでもたびたびリポート記事を掲載してきた。

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そんな『Rez Infinite』は、全世界のゲームメディアが選ぶ“The Game Awards”にてBest VR Game賞、日本の“PlayStation Awards 2016”でPlayStation VR特別賞を受賞。
これを記念して、水口氏、吉田氏が『Rez Infinite』を深く語る対談が行われた。
水口氏による裏話も披露されたので、ぜひじっくりと読み進めていただきたい。

このような賞レースにノミネートされるのは、『Child of eden』以来約5年ぶりだという水口氏だが、「正直、この5年間はけっこうつらかったんですよ」とのこと。
同作や3Dミュージックビデオ「make.believe」などでさまざまなチャレンジを行ってきたように、3Dの可能性を感じていた水口氏だが、そのアウトプットはどうしてもテレビなど“四角い画面の中”に限られてしまう。
これは写真や映像というモノが誕生してからの130年間、ゲームに限らず、さまざまなクリエイターがイメージを具現化する際に強いられてきた制限でもあるのだ。
一方、こういった制限がさまざまなクリエイティブを生み出してきたこともまた事実。
クリエイターのイメージが文字として切り出されれば文学、映像で切り出されれば映画……といったように、それぞれがバラバラに進化を遂げてきた。
水口氏は『Child of eden』発表時に巨大スクリーンを活用したパフォーマンスを行ったが、それがどんなにインパクトのあるパフォーマンスであろうとも、ユーザーは結局家のテレビでゲームをプレイせざるを得ず、「断絶というか距離が生まれた」(水口氏)。
以降、スマートフォンの普及により、アウトプットの“四角い画面”はさらに小さくなる。
水口氏は「もちろんスマホの凄さもある」とした上で、この状況を「まったく新しい体験や、心を震えるものを作ろうとすると、どんどん遠いところに来たような気がした」と振り返った。

では、そんな苦悩から水口氏はいかにして『Rez Infinite』を作り上げていったのか。
ここから、吉田氏がPS VRで『Rez Infinite』の“Area X”をプレイしながら、水口氏による開発秘話が語られていく。

これまでもたびたび語られているように、『Rez Infinite』のコンセプトはシナスタジア(共感覚)。
これは“音や文字が色で見える”といった感覚を言うが、『Rez Infinite』は“音を目で見る”感覚によってシナスタジアの表現を試みている。
これに加えて3Dの世界を泳ぎ回る感覚を表現するため、無数のパーティクル(粒子)が必要だったと水口氏は語った。
開発当初は製品版よりさらにパーティクルが存在していたが、3D空間で気持ちよくあり続けるために、製品版ほどの量で落ち着いたのだという。
水口氏いわく、「気持ちよさと気持ち悪さはけっこう紙一重」。
粒子が散って顔に当たる瞬間は気持ちがいいが、近すぎると気分が悪くなり、遠すぎると今度は感動が薄れてしまう……といったように、気持ちよさの「スイートスポット」を目指して緻密にチューニングされているのだ。

水口氏が“Area X”で「どうしてもやりたかった」と語るのが、「自分が完全に自由であること」。
まるで泳ぐように空間の中を動き回れる仕様は、このコンセプトに基づいている。
3D空間のなかに“いる”感覚は誰も体験したことがなく、また想像もつかないもの。
けれど水口氏はこの“自由である気持ちよさ”に自信を持っていたそう。
「たとえばピーターパンとか、海を泳ぐイルカって気持ちよさそうじゃないですか。
それがもし気持ち悪いとしたら、VRというメディアはダメかもしれない……くらいのことを思ったりもしました」(水口氏)と、その強い思いを明かした。
これには吉田氏も同意。
「(PS VRの開発者に限らず)Oculus RiftやHTC Viveの開発者も共通の強い考えでした。
VRがデビューするなら、“気持ち悪いもの”と思われてはいけない。
コンテンツを作られている方も同じ想いだったんですね」と語ると、水口氏も「気持ちのいい体験を作るには、気持ち悪い体験が一瞬でもあってはいけない」と、VR酔いに代表される不快感への強い懸念を口にした。

VRがもたらす不快感をいかに軽減するか、という点においては、SIEのコンサルティングチームの力が大きかったと語る水口氏。
「(SIEの提示する)これは絶対に酔うから絶対にダメ、というVR基準をたくさんクリアーしました。
“そこまで言うか”という意見もけっこうありましたが、対応すると“こっちの方が断然スムーズで気持ちがいい”ということは幾度もありましたね」。
吉田氏いわく、この厳しい基準には「システムはいいものができたとしても、コンテンツで気持ち悪くなるといけない」との哲学がある。
コンテンツ開発の根幹にも関わる部分だけに、できるだけ早い段階でこういったコンサルティング活動を行っていたそうだ。
水口氏が感銘を受けたというSIEのPS VRチームの熱意。
吉田氏も「最初は遊びで作り始めた。
趣味と仕事がまったく一致しているんですね。
少人数で始めたので、根本的な想いは話さなくても通じ合っている。
そういったところも含め、PS1立ち上げの頃の興奮を思い出しました」と話していた。

さてプレイは終盤に差し掛かり、吉田氏が「この顔の見えない女性がいいですよね」と語ったところで、水口氏が「エンディングにふたつタイプがあるって知ってました?」と、突然『Rez Infinite』の裏話を披露!吉田氏が出会ったのは髪の長い女性だが、じつは髪の短い女性もおり、流れる歌が変わるそう。
もちろんゲームデザインも異なり、最後に蝶が出るか鳥が出るか、という違いもあるようだ。

ここから水口氏は、『Rez Infinite』に秘められたさらに深いコンセプトを解説。
「あまり語らない方がいいかもしれませんが、“Area X”のテーマは“誕生”」とのことで、男性的なものと女性的なものの結合を象徴する“受胎”をテーマとしていた『Rez』第1作に続き、『Rez Infinite』の“Area X”では“受胎”の先――人間が誰しも経験してきた旅としての“誕生”が描かれているのだ。
これまで“Area X”以前でウイルスを破壊するというプレイヤーの体験は、“Area X”では一転、“彼女”を生誕させることに加担する、という体験に変わる。
これは意図的に演出されたものだが、実現できた大きな要因は音楽の力にあると水口氏は言う。
ゲーム内ではターゲットを撃つたび、まるで演奏をするかのように音楽が再生される。
これがあたかも祝祭のような雰囲気を醸し出し、プレイヤーの行為は、“誕生”に加担する体験に変わる。
もちろんこれらはゲーム内で明確に語られるわけではないが、女性を誕生に導くかのような感覚を、無意識のうちに感じるプレイヤーも多いだろう。

“四角い画面”に囚われないVR。
だからこそ水口氏は、「最初に“Area X”で自由に漂ったときは、感動して涙が出ました。
夢見ていたひとつのイメージが本当に“そこにある”、その中に自分がいるという官能がすごくて。
いままでは“クリエイティブに制約は必要だ”と、自分に言い聞かせていたことがはっきり認識できました」とその感動を熱弁。
続けてマスプロダクションとしてPS VRをリリースしたSIEや吉田氏に対し、「正直、もっと先になるかと思っていました。
おかげで僕らは自分たちのクリエイティブを多くの人に配信することができる」と、感謝を述べた。

●「感動は複数の感情が同時に流れ込んだときに起こる」
PS VRの発売もあり、“VR元年”と言われた2016年。
吉田氏に「発売して初めて“これだったらこういうことができる”という、つぎへの欲が生まれたのでは?」と訊かれた水口氏は「出てきますね。
実際に出してみて“これもやってみたい”というのも生まれたし、“将来的にはやっぱりこういうものも作りたいね”というリストがどんどん積まれていく。
そう考えると、いままででいちばん元気かもしれない」と意欲を見せる。
一方の吉田氏も「VRに関しては楽しくて仕方がない」と熱弁。
「ここから先、よくしていけるところや追加できるところなど、ネタはいっぱいある。
PS1が発売されてから20年、いまでも新しいゲームが出ています。
VRもこの先10年20年、すごいものが出てくると思うと、いてもたってもいられない」と、期待をあらわにしていた。

ここから話題はVRの持つ可能性へ。
「VRでは、人に会って感動する体験が誰でも手軽にできてしまう。
アメリカでよくあるのは、弱い立場の人の目線に立てる体験。
“こんなにひどいことをさせている”という体験をVRで味わうと共感につながりますよね。
僕は“百聞は一見にしかず”ではなく“百見るは一体験にしかず”と言っている。
VRでいい意味で多くの人に感銘を与えるような、ポジティブな意味で使われるとおもしろい世界になると思います」と吉田氏が語れば、水口氏も「共感、感銘、官能。
VRで明らかにそれらに“深さ”が出た。
ムーアの法則の2倍、4倍ではなく、8倍、16倍と二乗にもなる」と熱弁。
「僕がプレイして涙が出たのはクリエイターとしての達成感ゆえですが、“Area X”を体験した人からはいままでとは違う深さ・強さでリアクションが返ってくる。
こんなに言われたことはいままでにない」と、所感を語っていた。

「どうやったら人はもっと感動するかを考え続けてきたが、そのメカニズムはあるんですね」と言う水口氏は、続いて“感動”を呼び起こすゲームデザインの持論を展開。
「ゲームデザインというメカニズムは、達成感を設計するひとつのロジック。
いまのゲームロジックが骨だとすると、その周りのビジュアルや音の解像度は、筋肉や衣服のように骨を支えていくもの。
グラフィックだけいいゲームは、おもしろいゲームではないですよね。
今回VRによって、いままで以上にそれが使えるというか、腕を振るえるポイントがたくさんあるんですよ」と語り、「感動は複数の感情が同時に流れ込んだときに起こるような気がします。
芥川龍之介の『トロッコ』という小説がありますが、不安の中で助けられたとか、トラブルの中で差しのべられた優しさとか、いくつかの感情が交差する瞬間に感動がある。
感動とゲームが絡み合ったときの未曽有の体験を作りたいというのが、VRであまねくできた感じがしました」と、『Rez Infinite』で得た手ごたえを明らかにした。
複数の感情が重なることによる“感動”は、“Area X”では演奏する気持ちよさや創造(先述の“誕生”にもつながる)の喜び、全体的に漂う不安や孤独感が重なり、その結果として祝祭的な雰囲気に迎えられたときの“感動”として表現されている。
「いままでは線のように考えていたストーリーテリングが、VRではもっと豊かに、立体的にできる」(水口氏)
一方VRでは、映画やドラマのように監督が“枠”を定義することができないという苦悩が生まれ得る。
映像クリエイターから「VRをどう使えばいいかわからない」と言われたら?という質問に、水口氏はこのように解説した。
水口氏「映画というメディアは三人称、客観視点の芸術。
観客は何も考えずに映像を観ていますが、実際“これは誰の視点?”とは考えない。
あれが映画の持つ最大のマジックです。
一方、ゲームは客観的な視点もたくさん使っていますが、基本的にはどこかに一人称の主観視点がある。
プレイヤーは想像力の範囲で三人称の視点に飛んだりして、プレイヤー自身がひとつの体験を頭の中で補完します。
いままでの一人称のロジックだけでゲームを考えてきて、しかもそこに枠があると考えると、おそらくVRにはほとんど太刀打ちできないと思います。
映画の方々も、映画のロジックをもってしてVRをやろうとすると絶対に難しい。
一度リセットするか、視点の違いを意識する必要があるのではないでしょうか。
そのうえでどうやってまったく新しい体験を生み出すかを考えなければいけないですよね」
つまり、「いずれにしても過去を引きずるとスムーズな移行ができないことはハッキリしている」(水口氏)。
VRは革命であり、130年前と同じくらい、あるいはそれ以上のインパクトを人間にもたらすもの。
やはり“向こう側”にある客観の芸術とは根本的に異なるものなのだ。
けれど130年前に映像が誕生してから、我々の知る“映画”になるまでは時間がかかる。
生まれたばかりのVRは、まだまだこれからの新しいメディア。
「20年30年、どんどん形を変えて進化し続けると思う。
平面だった体験から、そこに世界がある立体の体験に変わるのは間違いない」(水口氏)
ちなみに『Rez Infinite』で得られるVR体験をより強固なものにするシナスタジア・スーツも制作されているが、これは初代『Rez』で取り入れられた“音楽が振動として返ってくる”感覚を全身に援用したもの。
現在の振動素子は音を質感で表現できるため、肩をハイハットで叩かれる、下半身をベースで弾かれる……といった「想像を超えたリターン」(水口氏)を体感できる(吉田氏もこのシナスタジア・スーツには大いに感銘を受けたそう)。

また“Area X”がPS Moveなどではなく通常のワイヤレスコントローラーを採用した理由を訊かれた水口氏は、「ハンドコントローラー中心にしたくなかった、というのが正直なところ。
『Rez Infinite』自体は新しいが、コントローラーはみんなが当たり前に使える。
新しいものを重ねると許容範囲を超える可能性がありますし、まずコンテンツを楽しんでいただきたかったので、まずは(通常の)コントローラーを使ってもらおうと考えました」と語っていた。
さらに“Area X”という名称に関しては「プロローグでもあり、実験でもあり予告編でもあるという意味での“X”。
そうすると、“Area Y”や“Area Z”はいつ出るんだと訊かれるんですけど(笑)。
いずれにしても“つぎへの何か”というつもりで作っています」とのことだ。

水口氏と吉田氏による濃密な対談は予定時間をオーバーして大盛り上がり。
『Rez Infinite』の話題だけにとどまらない、VRの未来を見据えた意義深いトークセッションがくり広げられた。
遅まきながら記者もこのタイミングで『Rez Infinite』の“Area X”を初体験する機会をいただいたが、五感がすべてリンクする感覚は「なるほど、共感覚ってこういうことか!」と肌で感じさせられる、不思議な体験だった。
けれど、記者がもっとも感じたのは漠然とした不安感や寂しさ(華やかなターゲットが近づいてくるとうれしくなる!)。
まるで終わりのない悪い夢のようなのに、このままたゆたっていたくなるような体験は、なるほどシナリオやセリフで紡がれる物語では得がたいものだろう。
プレイする人によってまるで異なる色や形になる、そんなおもしろさを感じた。
PS VRを持っていなくとも『Rez Infinite』はプレイ可能だが、やはり共感覚の真骨頂はPS VRでの“Area X”にあるように思う。
まだ体験していないという方は、ぜひ“言葉にできない”未曽有の体験をじっくりと堪能していただきたい。

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