「PS4はじまったな」。SIE吉田修平氏に聞く、VRと日本のコンテンツの可能性
E3からのソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)関連インタビューの2本目として、SIE ワールドワイドスタジオ(WWS)・プレジデントの吉田修平氏への取材をお届けする。
ハードウェアも含めたビジネス施策については、アンドリュー・ハウス社長へのインタビューを併読していただきたい。
吉田氏には、SIE・WWSとしてのゲームタイトル施策と、今後のVRの可能性について聞いた。
■野心的なタイトルで「PS4、はじまったな!」
–まず、ソフトの状況についてうかがいます。
プレスカンファレンスでも、WWS製タイトルが多く発表され、活況でした。
吉田氏(以下敬称略):ありがとうございます。
PS4(PlayStation 4)は発売して3年目になります。
ハードウェア自体は開発しやすいものなのですが、作ろうとするものの規模や狙いについての野心がすごくて。
ローンチタイトル(ハードウェア発売時期に合わせて販売されるタイトル)はスケジュールを気にしますので、手堅いタイトルになりやすいのですが、2年目以降については、やりたいことをやり始めるんですね。
そこで、予想していたよりも時間がかかって……ということがありました。
しかし、今年の「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」(日本では5月10日に発売)を皮切りに、今度の「Horizon Zero Dawn」や2016年内にベータテストを行なうMedia Moleculeの「Dreams」、今回発表した「God of War」のリブートもそうなのですが、やっとみなさんにお披露目できた、という感じなのです。
私の中では「PS4、はじまったな!」と。
いまさらかよ、と言われるかも知れませんが、ずーっと開発を応援して、見ていた立場としては、それぞれのチームがやっと発表できて幸せそうで、すごく嬉しかったです。
–単なる技術論ではなく、PS4世代になって、ゲームの作り方も変わってきた印象があります。
吉田:そうですね。
もっと目立つのは「パフォーマンス(演技)キャプチャ」です。
人間の感情を、セリフがなくても、例えば表情だけで伝えることができるようになったので、ストーリー系のアドベンチャーのようなタイトルを作っているチームは、すごくそこに力を入れています。
あとは「オープンワールド」。
オープンワールドのゲームは、「Horizon Zero Dawn」にしても、今回発表した新作の「Days Gone」も、日本で製作中の「Gravity Daze2」もそうですけど、作るのが大変で。
でも、自由度が高くて楽しいですよね。
去年出た「Metal Gear Solid 5」もそうでしたけど。
PS4になったらオープンワールドがやりたい、ということで、これまではリニアなタイトルばかり作ってきたチームが、そこにチャレンジし、今結果が出てきているところです。
–新作といえば、プレスカンファレンスでも、小島秀夫監督が登場した時の歓声はすごかったですね。
小島監督のスタジオとWWSの関係について、整理させてください。
吉田:小島監督のスタジオの作品は、他のWWSの作品とはかなり異なります。
小島監督のスタジオは完全な独立スタジオでビジョンもお持ちですから、必要に応じてテクニカルな部分をサポートしていく、技術のシェアをしたりする、という形で、小島監督のスタジオの方々と関係を構築しています。
先日、マーク・サーニーと小島監督が、我々のアメリカ・ヨーロッパのスタジオをまわっていただいたんですが、そこで横のつながり、人と人とのつながりを作っていくのが大事かな、と。
いまはそういう状況です。
これは小島監督があるところでインタビューに答えていらっしゃった内容ですが、「他のスタジオからは『なにを作りたいのかプレゼンテーションを』と言われた一方で、SIE(当時のSCE)はそれがなかった。
だから選んだ」とか。
小島監督は新しいすごいものを作られるに違いない、と我々は思っていますから、そこはお任せ。
そういうことだと私は理解しています。
■VRは「現行PS4準拠」、WWSはVRでもオリジナル重視
–VRについて。
VRもPS4世代での新しいゲームの作り方だ、と感じます。
今回もVRショーケースの中に、メジャーなゲームのVR化も含め、いろいろなタイトルが発表されました。
PS4世代でVRタイトルを作る場合、どこに注意する必要がありますか?
吉田: PS4はVRをちゃんとするために120Hzで動かすとか、プロセッサーユニットで補助するとか、非常にタイトなインテグレーションで作っています。
そして、VRはあまりに新しい体験であるので、今、弊社もふくめ色々なVRコンテンツを作っていますが、それは「氷山の一角」でしかない、と思っています。
「まずやってみよう」というタイトル群がこれからやってきます。
中にはすごくいいものもありますが、そこで知見を得たチームが、次に作るタイトル、にまさに期待しています。
–それは、PS4のローンチ時期と今の関係に似ていますね。
吉田:似た関係ですね。
でも、VRは規模が小さなタイトルでも面白いことができるので、そのサイクルはもっと早いと思います。
例えば、来年・再来年にはもっとも面白いものが出てくるのではないか、と期待しています。
–その中で、既存のゲームのアセットを切り出して「VRミッション」だとか「VRエクスペリエンス」という形で提示するタイトルもありますが、ああいうものはどう考えていますか? WWSの中でもああいった切り出し方をすることはあるのでしょうか?
吉田:いえ、我々の発表したタイトルについては、VRならではの体験を「発見」する、ことに集中しています。
ジャンルによっては、「グランツーリスモ SPORT」や一人称視点でのスローペースなアドベンチャーのように、そのままVRにしても非常に楽しいものもありますが、それは非常に例外的です。
我々のフォーカスはVR向けに一から考えたタイトルを出す、ということです。
ところで、「Farpoint」ってプレイしていただけましたか?
–はい、プレイしました。
汗だくになって(笑)
吉田:あれいいですよね。
あのコントローラーをもってプレイすると、燃えますよね。
–コントローラーは完全にオリジナルなのですか?
吉田:はい、PlayStation Moveを流用したものではなく、新たに開発したものです。
ああいったアプローチも考えています。
コンテンツの種類に話を戻します。
ワーナーゲームさんの発表された「Batman: Arkham VR」は、ファンにはたまらないようですね。
自分がバットマンになってしまうので。
ああいうのは絶対にアリだと思います。
そういう意味では、ゲームに限らず、「The Walk」のように映画の世界に入れるもの、あるいは他社製品向けですが「進撃の巨人」などのアニメの世界に入れるようなVR体験もありますよね。
すでにハイクオリティなアセットを作られているゲーム・映画・アニメについては、そのアセットを使って、それぞれの世界へユーザーさんを入れてあげる、主人公になれる・主人公に会える、というVR体験を提供するのは、いいことだと思います。
ただし、我々はそれをあまり集中してやってきてはいないです。
–それは、WWSが積極的には続編を作らず、ある種のミッションとして、オリジナル作品を作る方向である、ということに近いですね。
吉田:ミッション……とも言えますね。
まあ直感的に「新しいものをやろうよ、がんばろう」ということになりました。
そこには我々の文化的な部分があるかと思います。
■VRでは人毎にキラータイトルあり
–日本向けの話題としては、バンダイナムコの「サマーレッスン(仮)」の発売が決定したりとか……
吉田:やっと発表されましたね。
本当にうれしいです。
–日本向けにVRタイトルを考えた時に、どういう部分がウケると思いますか? 一般的なゲームでも、国毎にヒットするゲームは違います。
VRでもそうなりますか?
吉田:VRにおいては、国を超えて「個人ごと」に違うと思っています。
VRはものすごくパーソナルな体験ですよね。
これまで色々なデモをやって反応を見てきているのですが、私なども想像がつかないような反応も多いんです。
どういうことかというと、ゲーム性が全然なく、ある世界、ゲームやアニメの世界に入れるだけの体験でも、その世界のファンであればたまらなく楽しい体験なんです。
さきほど「バットマン」の例を挙げましたが、バットマンに興味がない人が体験してもあまりピンとこないと思うんですね。
私も個人としてはピンとこないようなVR体験でも、ファンの人からすれば「これは死ぬほどうれしい」という感想を聞くことがあります。
これは国によっても違うのでしょうが、VRでは個人ベースでキラータイトルが違うな、と思っています。
日本のクリエイターは、マンガやアニメで仮想のリッチな世界観を作るのが上手いですよね。
そういった世界に浸りたい、というニーズはすごくあると思います。
日本のコンテンツを海外にもっていける、ひとつの大きなパワーになるのではないか、と思っています。
■VRから「日本コンテンツ」のファンになって!
–海外の市場、特にゲーム市場を見ると、日本のコンテンツでリスペクトされているものは、2000年以前に生まれたものが中心にあるように思えます。
もちろん、最近になって生まれた作品もありますが、特にゲームにおいては、2000年以降は欧米で生まれたIPの方が強い。
例えば、今回のE3でも「ドラゴンボール」のゲームは強くアピールされていますが、あれも80年代生まれのIPです。
いかに日本からIPを出す時に、みなさんに体験していただくのか、面白いものが出てきているのに海外の方には伝わっていない、という感触も持ちます。
WWSでは「Gravity Daze」のような日本発のタイトルもあります。
日本からの提案は、海外に対してバランスが悪かった時期も長いのかな、と思っているのですが、その点どう感じますか?
吉田:ハイエンドになればなるほど規模が増して、ハリウッド的なアプローチでのリアリティ・ドラマ性を追求したタイトルが欧米では多く出ていますので、そこではまともに勝負するのはとても難しいです。
もちろん、小島監督のように真っ向から勝負されているところもありますし、今度の「バイオハザード7」もそうかと思いますが、どちらかといえば数が少ない。
それよりも今は、バンダイナムコの「ドラゴンボール」や「ナルト」のような、日本人のために作った作品が海外で受けたり、「ペルソナ5」もものすごく期待されていますよね。
海外の市場を意識せずに、日本人に振り切ったものが、今はむしろ海外では持て囃されるというか、非常に幸せな状況かと思いますね。
–すなわち、「日本向けに作られたものが海外に伝わってリスペクトされる」サイクルが回り始める時期に入った、と?
吉田:はい、そう解釈したいですね。
日本的であることがネガティブではなく、海外のクリエイターにはできない「差別化である」と感じてくれる、日本コンテンツファンの十分な数が、特にPS4ユーザーにはいる、ということではないか、と思います。
–ということはVRにおいても、日本のコンテンツが大好きな海外の方が、日本向けに作られたコンテンツを楽しむ、ということも考えられるわけですね。
吉田:もう、十分にあり得る話かと思います。
例えばPlayStation Vita(PS Vita)。
日本ではものすごくタイトルが出ていますが、最近は欧米のタイトルはインディ中心で、大規模なものが作られなくなっています。
そこで、日本から来るPS Vitaのタイトルは規模が大きくて気合が入っているものが多いので、欧米のPS Vitaファン・日本のコンテンツファンにはすごく喜ばれています。
それと同じように、日本で作られたVRコンテンツを喜ぶ欧米のファンの方は、いらっしゃると思います。
逆にそれを通じて、日本のコンテンツに触れる方だとかも出てくるでしょう。
例えば「サマーレッスン(仮)」のようなコミュニケーションを楽しむコンテンツは他にないですね。
それを見て日本のコンテンツのファンになっていただくようなユーザーさんもいる、と勝手に期待しているところです。