ニンテンドースイッチ、娯楽の原点に立ち返る
1世紀以上前に花札メーカーとして創業した任天堂。
同社がこのほど発表した新型の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」の企画担当者たちは、自社の原点に立ち返り、2人のプレーヤーが画面ではなくお互いの目を見て遊ぶコンセプトを思いついた。
ニンテンドースイッチの総合プロデューサー小泉歓晃氏はインタビューで、「任天堂はトランプを作っているが、トランプは画面を見て遊ぶゲームではなく相手の目を見て駆け引きする。
そうした遊びは面白かったが今はなかなか難しい」と説明。
こうした遊び方を「どのゲーム機でも提供できていない」という認識がスイッチの開発につながったと述べた。
任天堂はこうして、3月3日に世界同時発売するスイッチを「いつでも、どこでも、だれとでも」共有できるゲーム機として売り出す戦略を固めていった。
同社にとって最大の課題は、さまざまな遊び方ができる点について、競合機より価格が高いだけの価値があると消費者を納得させることだ。
スイッチの価格は約300ドル(2万9980円)。
これはゲームが1本同梱されるソニーの「プレイステーション(PS)4」やマイクロソフトの「Xbox One(エックスボックスワン)」の基本的なセットよりも高い価格設定だ。
スイッチの価格が一部プレーヤーに嫌気されかねないとの懸念から、任天堂の株価は13日に5.8%、週明け16日には2.3%下落した。
「PS」シリーズや「Xbox」シリーズ、あるいは任天堂自体の最近のハードウエアと違い、スイッチにはコントローラーが2台ついてくる。
これにより、「Wii(ウィー)」に成功をもたらしたモーションセンサーゲームを次の段階に押し上げる狙いだ。
ウィーと違い、スイッチは持ち運びができる。
スイッチは、プレーヤーがテレビを前にして1人で遊ぶ従来のビデオゲームのような使い方もできる。
だが同社はスクリーンを見ずにプレーヤー同士が向き合って遊ぶミニゲームを集めたソフト「1-2-Switch(ワンツースイッチ)」も発売する。
含まれるゲームには「ピンポン」があり、これはプレーヤーがコントローラーの回転や振動、ゲーム機の音などから、球を打ち合っているような感覚を味わう。
また、コントローラーを箱に見立てるゲームでは目をつぶってコントローラーを動かし、ボールが何個入っているかを当てる。
小泉氏は「伝わってくる情報の精度が高ければ、画面を見なくても遊べることがこのデバイスでわかった」と述べた。
「ワンツースイッチはその象徴的なゲームだ」
スイッチの開発は3年前に始まった。
将来の社長候補の1人とみられている企画制作本部長の高橋伸也氏は、試行錯誤と苦労を重ねて他機と差別化するアイデアに至ったと語った。
「次の据え置き機は何かと考えた時、据え置き機は高性能に行くだけでどこのゲーム機を見ても同じようになる」と?橋氏。
「それなら違う要素はなんだろう、と悶々と考えた」
他社は一般に、一段と高い技術を備えたハイエンドのゲームを追求してきた。
小泉氏は「自分たちがどのようなことをしてきたのか、見直す時間を持った。
任天堂は娯楽屋だと再認識するところに戻った」と話した。
「どこにでも持って行けるゲーム機を作ると決まった時、スイッチの基本性能は一気に定まった。
コントローラーも外に持って行けなければいけない、2ついるよね、というように」
小泉氏によれば、コントローラー2台をセットにし、どこでも携帯して2人で遊べる自己完結型ユニットを作ることなどが最初に決まった。
「ゼルダの伝説」や「マリオ」シリーズの開発に携わった経験を持つ小泉氏は「お客さんにもっと自由にゲームを楽しんでもらいたい」と述べた。
コントローラーが2つ最初からついてくることは非常に重要な要素だったという。
任天堂は携帯型ゲーム機3DSも販売しているが、外で他人と一緒に遊ぶためには皆が3DSを持っている必要がある。
また、最初から1つしかコントローラーがついていないことで、いつしかそういうゲームばかりが作られていったと小泉氏は述べた。
「2人で遊んでね、と言いながらもう1個コントローラーを買ってね、とはいいづらかった」と小泉氏。
「最初からコントローラーが2つ付いていることが大切だとわかったのです」
スイッチのコントローラー「Joy-Con(ジョイコン)」には、対象の形状や動きを正確に読み取るセンサー技術が使われており、例えば対戦相手が出すグー、チョキ、パーといった手の形を見分けられる。
コントローラーの色はグレーに加え、ネオンブルーとネオンレッドを組み合わせたものも発売される。
?橋氏はスイッチの多人数で遊ぶというコンセプトをより強調した後者が個人的な好みだという。
スイッチは直近のゲーム機が不振だったことに対する反省を踏まえている。
2012年に発売した「Wii U(ウィーユー)」はPSにはるかに及ばず、任天堂がハードウエア事業から撤退すべきだと示唆する投資家も出た。
同社はウィーユーでタッチスクリーンパッドを売りにしていたが、本体に接続できるパッドは1度に1台だけだった。
そのため小泉・高橋両氏はこれについて、元祖ウィー(06年発売)の大ヒットにつながった一因でもある「多人数で遊ぶ」スタイルには不向きだったと述べた。
小泉氏は、スイッチが「ポケモンGO」と同様に公の場で楽しまれることを期待している。
「ソーシャルメディア上で話題になるだけでなく、沢山の人がいろいろなスタイルでスイッチを外で遊ぶ。
それを見てより多くの人が興味を持ってくれる。
――それが成功なんだと思う。
そういう風景を早く作りたい」